第119話 窓辺でお茶を




 ◇ ◇ ◇




 北の森でのトレントとの防衛戦が一旦終わって、気がつけば私がこの世界に来てから一ヶ月半ほど経っていた。


 ボトルゴードの町は相変わらず平和で、今日も落ち着いた日常が始まっている。



 つい最近まで森の侵略騒ぎが起きていたにも関わらず、ここまで通常通りなのはやはり、この町の様々なギルドの働きによって直接的な被害が少なく済んだからだろうか。

 それとも年間を通しての、不定期に繰り返される迷いの魔樹を先方とした森の侵略が、わざわざ言うほどでもない辺境の常識となっているからだろうか。これから先も収束宣言は出せても終息宣言は出せない状態が続くんだもんね……。


 まあ、あれこれ細かいことを気にしてもしょうがない、今の平和を楽しむのが一番ってことかもしれないけど。




 しかしあれだけ毎日、北の森を駆けずり回って魔物や魔樹と格闘していたにも関わらず、期待したほどステータスが上がっていない。


 ラグナードは格上なので、私の『鑑定Lv1』では本人の協力があってもステータスを見れない。でも、彼ほどのレベルになると、中々上がりづらいんだってことは教えてもらった。


 なので今回も、私とリノの二人分のみ、改めてステータスを確認してみたんだけど……。




 種族 エルフ


 名前 ローザ


 年齢 16才


 武術スキル 『短剣術Lv1』←new!『棒術Lv1』←new!


       『投擲Lv1』←new!


 魔法スキル 『火魔法Lv2』『水魔法Lv1』


       『聖魔法Lv2』『支援魔法Lv1』


       『風魔法Lv2』←level up!


 身体スキル 『魔力感知Lv3』←level up! 『魔力操作Lv3』


       『魔力強化Lv3』『身体強化Lv1』


       『隠密Lv1』『俊足Lv1』『暗視Lv1』


       『精神耐性Lv1』『幸運Lv1』


       『味覚強化Lv1』『嗅覚強化Lv1』


       『視覚強化Lv1』『聴覚強化Lv1』←new!  


 技能スキル 『鑑定Lv1』『索敵Lv1』『採取Lv1』


       『マップ作成Lv1』『料理Lv1』



 一応、順調に増えている……よね?


 魔法が得意な種族なのに基本魔法の内、『身体強化』だけは中々レベルアップしないのは何でだろうとは思うけど。


 毎日頑張っているわりには伸びしろが少ないというか、劇的に強くなっていないし。

 でも、念願だった武術スキルも三つに増えたし、身体スキルもずっと欲しかったスキルの内の一つである『聴覚強化Lv1』が新たに取れているし……うん、よしとしよう。



 まあ、聴覚スキルについてはアレだよね、スライム製の絶対防御スーツという名の全身タイツを着た時に、耳まですっぽり覆い隠しちゃう仕様だったから、よく音を拾おうとして感覚を研ぎ澄ませていた結果、鍛えられたんだよね、きっと。

 ピチピチのタイツを着用するのは恥ずかしかったけど、こんな副産物があるなら着て良かったんだと思おう。


 そろそろ『忍び足』スキルも取れてるかと思ったんだけど、そっちはまだダメだったみたい。う~ん、これもまた引き続き頑張るとしますか。





 そして、リノのステータスは……。



 種族 人族


 名前 リーノ


 年齢 15才


 武術スキル 『短剣術Lv1』『棒術Lv1』『長剣術Lv1』←new!


       『投擲Lv1』←new!


 魔法スキル 


 身体スキル 『魔力感知Lv1』『魔力操作Lv1』


       『魔力強化Lv1』←new!『身体強化Lv1』←new!


       『暗視Lv1』『幸運Lv1』


       『味覚強化Lv2』『嗅覚強化Lv2』


 技能スキル 『解体Lv1』



 という結果になっていて、新たに増えたスキルは私と同じく多い。地道な練習と実戦での経験が積み重なり、習得を早めているんだと思う。

 ずっと目標にしてきた基本魔法の習得残り二つ、『魔力強化Lv1』『身体強化Lv1』もようやく取れたしね。よかった。




 ただ私と比べると、スキルもレベルも伸び率がいまいちかも。


 いや、本人はこんなに短期間で新スキルを複数ゲット出来るとはって、すごく喜んでいるんだけどね。結構、差が出てきたというか……?


 ……まあ、推察は出来ますけどね。


 私の方が増えていっているのは多分あれですよ。


 言いたくないですけど、エルフという、種族的には八十歳が成人なのに私が十六歳で、まだまだ育ち盛りの幼女だから……ですよね多分っ。いまだにお子様扱いは慣れないし、受け入れがたい事実ですけどっ。


 生まれ歳はひとつしか変わらないのに、人族のリノは十五歳で成人済みだから成長しにくくなっているってことで……。


 努力は裏切らないって世界で、やればやるほど結果が出るからやりがいはあるんだけど……う~ん、渋いよねぇ。





「やっぱり、一ヶ月くらいでは中々目を見張るような成果は出ない……か」


「いやいや、十分出てますって!」


 ステータスを確認してそうぼやいていると、リノが明るく言った。


「……そうかな?」


「はい。新規の武術スキルとか、ラグさんの指導のおかげで複数、習得出来ましたし」


「まぁ、確かに。ラグナードに教えてもらえたのはラッキーだったよね」


「ですよね! 私ひとりじゃ、絶対無理でしたよ」


「うん、それは私もそう思う。あとはレベルがもう少しね。こう、サクサク上がってくれると嬉しいんだけどなぁ」


 レベル1だと多少器用になった程度で目に見えて強くなる訳じゃないからね。せめてレベル2までは、どのスキルも上げておきたいんだ。


「レベル上げですかぁ。大事ですよね。でも、私達ならきっと、出来ると思います。まあ、コツコツと地道に頑張らなきゃいけないですけどね!」


「ふふっ、そっか」


「はい!」


「うん、そうだね。じゃあまた、一緒に頑張ろうか。よろしくね?」


「ええ、勿論。こちらこそよろしくお願いします!」



 全く何も変化がないっていうわけじゃない。ちゃんと前進はしているんだ。


 でも、この世界は危険が身近にあるから、弱い自分を何とかしようとしてつい、焦ってしまう。


 もう一人で頑張らなくっていいってことを、忘れちゃうんだよね。


 私には今、リノやラグナードっていう頼もしい仲間がいる。だから挫けずに、少しずつレベルアップ目指して努力していこう。







 ――さて、今日は冒険者の仕事をお休みする日。


 早朝に一件、用事を済ませてから、採れたての白チーズ茸を持って本屋のシルエラさんのところに向かった。


 迷いの魔樹に始まる森の侵略からずっと、町を守るのに忙しい日々を過ごしていたので、このところは三日に一度は休日にするようにしているんだ。


 シルエラさん宅には、定期的に訪れてはいるんだけどね。最近は特に色々と心配かけているし、エルフらしく茸好きな彼女のために、このお土産を選んでみた。きっと喜んでくれると思って……。




 程よく活気のある落ち着いた雰囲気の町中を、ブラブラと一人で歩いていく。


 宿泊先である夢見亭と本屋さんは割りと近くにあるため、メイン通りにあるお店にはあっという間に到着した。


 盗難防止の魔法陣が刻印されたドアを開け、明るくきれいに整理整頓された店内に入ると……うん、今日も他のお客さんはいないね。

 本屋さんって、異世界では人気無いのかな? 私としては気兼ねなくシルエラさんと一緒の時間を過ごせるからいいんだけど、経営とか、ちょっと気になっちゃうよね。


「あら、いらっしゃい。お久しぶりね」


 すぐ来店に気づいてくれたシルエラさんが、ニッコリと微笑みながら声を掛けてくれる。


「ええ、お久しぶりです。シルエラさん」


 相変わらず神々しくてお美しいですね! お声までうっとりするほどの美麗さで、一言お話するだけで至福の時を味わえます……もう、素敵っ。


「時間はあるのでしょう、ローザ? ちょうどお客様もいないし……お茶にしましょう?」


「あ、はい。お誘いありがとうございます、シルエラさん。お邪魔します」


「ふふっ、どうぞこちらへ」




 さっそくいつものように、カウンターの奥にある小さな中庭が見える小部屋に通してくれる。


「シルエラさん、これ、お土産の白チーズ茸です」


「あらあら、まあっ。立派だこと。ありがとう、ローザ。嬉しいわ」


 良かった。茸はエルフの好物だもんね。白チーズ茸、喜んでくれたみたい。


 すごく嬉しそうに受け取ってもらえて満足したところで、涼しげな風が通る窓際のテーブルに案内され、お茶をいただくことに。

 席に座って待っていると、お茶の用意を整えたシルエラさんが戻ってきて、優雅な手つきでサーブしてくれる。


「さ、どうぞ」


「いただきます!」


 今回ご用意していただいたお茶は、紅茶にドライフルーツを入れて蒸らして作る、ホットドライフルーツティー。

 蒸らされて少しふっくらしたドライフルーツごと丁寧にカップに移してくれた。


 飲み物としてもフルーツとしても楽しめる、デザートティーをシルエラさんと二人でゆっくりといただけるのって、本当、贅沢だよねっ!


 口に含むと、さわやかな香りとほのかな甘みが上品で……。


「とっても美味しいです!」


「よかった。私のお気に入りのお茶なの」


 シルエラさんも向かいの席でニコニコと微笑みながら、ゆったりとカップを傾け、じっくり味わっているのが分かる。本当にお好きなんだなぁ、美味しいもんね、これ。


 紅茶の中のフルーツも華やかできれい。でも、これも食べられるので、スプーンで掬って食べてみる。


「半生の食感が楽しくって、クセになるおいしさですねぇ」


「ふふっ、ローザも気に入ってくれて嬉しいわ。そうそう、こちらも食べてみてね」


 そう言ってお茶請けに、初めて目にする果物をいくつか出してくれた。



 ――これがまた、とっても美味しかったんだよね!!





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