第116話 戦闘開始!
そして、さほど待たずにその時は来た。
茂みがカサッと揺れる音と共に、魔物の反応が急速に迫るっ。
――ゴブリンだ。
「ちぇりゃあああああぁっ!」
即座に対応し先陣を切ったのは、最後尾を守ってくれていた、同じ班で行動するもう一組の冒険者パーティーの青年だった。容赦なく剣で切り捨てていく。
尚も奥からは、ガサガサと大きな音を立てて草藪を突き破り、何匹も向かってくる音が聞こえるっ。
「うわっ、こっちにも群れが来たよ……」
「どうします? 伐採の音を聞きつけてどんどんやってくるみたいですが!」
「早すぎるだろ!?」
「大丈夫だ、反応数はそれほど多くない。落ち着いてやれば、対処できる!」
「「分かった!!」」
ゴブリン達が来る方角へと、最初に対処してくれた冒険者、アルさんの仲間が素早く移動し体制を整え、反撃を開始した。
障害物の多い森の中で、蔓状の魔樹と魔物に挟まれながら戦闘をする格好になり、戦う場所が狭く逃げ場がない。
ここは大人数で一斉に動くのは危険だ。私達は予定通り安易に加勢せず、いつでも援護できるように気をつけながら、後方から様子を見ることに……。
アルさん達は全員、人族の冒険者パーティーで、ルーナさん、サラさん、カルドさん、アルさんの男女四人。戦闘に魔法を使わないスタイルだということで、先陣を任されていた。
女性二人は後方から弓で、男性二人が前に出てそれぞれ剣と槍を振るい、飛び込んでくるゴブリンたちを魔法を使わず武器だけで、一体ずつ確実に撃退していく。
ゴブリンと遭遇した一瞬だけ浮き足立つこともあったが、その後は危なげない連携で殲滅していった。
「お疲れ。いいコンビネーションだ」
「どうもです。これでもパーティー結成して三年目になるんでね、慣れたもんですよ」
ラグナードが土魔法で掘ってくれた穴に、手際よく魔石を切り取ったゴブリンを放り込みながら少し話をする。
彼らは同じ村出身の幼なじみだそうで、大きくなったら冒険者になると決めて、村にいるときから皆で必要な訓練をしていたんだとか。
他にも二人ほど一緒にやる仲間がいたみたいだけど、指針や目標が合わずに別々にパーティーを組むことになったらしい。
彼らだけがこの町へ来たのは、残りの二人が一攫千金を夢見る気持ちが強く、さっさとダンジョン街へ旅だってしまったからなんだって。
いきなり初心者が行くなんて無謀だ……生き残れれていればいいけど。
冒険者は互いに命を預けなきゃいけないから、能力の他にもそうした方針が合わない者同士でパーティーを組んでも駄目になるよね。二つに割れたのは仕方ないことなんだよ。
やっぱりお互いに支え合え、信じられる者同士じゃないと上手くいかないと思うし。話を聞いた彼らも、私達のパーティーも今、そうだから。
その後も何度か断続的に襲ってくる魔物を排除しながら、じりじりと魔樹の本体に向かって前進していく。
ここら辺は北の森の外周近くということもあって、中奥でもまだそれほど強い魔物が出てきていないので何とかなってるけど……。
「まずいな、思ったより前に進まない。伐採音に引かれて寄ってくる魔物が多過ぎる」
「途切れることなく来ますもんね。休んでいる暇がないと言うか。今はまだいいですけど、これが続くと俺たちの体力も徐々に消耗していきますよ」
「ああ。かといって一度に来るのは一気に魔法で討伐できるほどの数ではないし……」
「中途半端に時間差でバラバラに来るのが鬱陶しいですよね。個別に対応するしかないっていうところがまた、厄介で……」
「そうなんだよな」
それぞれのパーティーのリーダーであるラグナードとアルさんが対策を話し合う。
主に、ポイズンラットやゴブリンを相手取っているが、奴等はこちらが強者か弱者かに関係なく、いくら倒されてもこちらを敵認識し、真直ぐに次々と突っ込んでくる。
弱いし魔物同士で連携をとってくる事もないので、あまり魔法は使わないように注意しながら、武器で確実に倒していってはいるものの、討伐部隊全体に襲いかかってくる数としてはジリジリと増えており、早くも消耗戦の様になってきている。
こちらもボトルゴードの町では一定レベル以上の冒険者を揃えてきてはいるけど、それでも魔力と体力には限りがある中、この人数を守りながら戦うので、決して楽観出来る状況ではない。
一応、ラグナードの土魔法を使って、先程、魔物を遺棄する用に作った穴をそのまま横に細長く広げ、即席の落とし穴として利用することに決まったけど。
最終的に飛び越えられない幅になったので、立ち往生して纏まった数になったところでまとめて魔法で殲滅する作戦だ。
伐採作業中の人達を触手から守る任務を放り出して、こちらから打って出るというわけにもいかないからね。
でも、伐採が進むにつれてその場所から離れていく事になるから、念のため、刈り取って大量に出た草や蔓、枝などを生活魔法で『乾燥』させてから穴の中に放り込み火をつけておいた。
火を嫌う魔物もいるので防御壁代わりになればいいなと思ってやってみたけど、どこまで効果があるかわからない。まあ、やらないよりはいいってことで。
事態を打開するため、ラグナードに言われて私達のパーティー以外の人にも支援魔法を掛ける事になった。
それも冒険者だけじゃなく、一緒に行動している木こりさんや猟師さん達もまとめてだ。
私の使える支援魔法はレベル1の『HP回復』と『MP回復』。
これを重ね掛けし、少しでも作業スピードを上げるのが狙いだ。今回の作戦では、いざという時まで出来るだけ魔法を禁止されていたので魔力が温存されていたからこそ出来るっていうのもある。
上手くいくといいけど、一度で一時間程度しか効果が持たないからね。何もしない時と比べ、若干回復速度が上がるくらいの効き目しかない。
それでも、膠着状態が続いているこんな時には、ほんの少しの改善がとても大事になってくる。
すぐ体感できるポーションのような即効性は無いけど、大人数の底上げが出来るのは大きい。今はそれで十分だということで、一緒に行動している間はこまめに掛け直すことにした。
――そうやって策を練り、消耗戦を有利に乗り切れるよう力を尽くしていたところに……。
ゴブリンとポイズンラットの混合集団が襲って来たっ。また来たの!? もうっ、こいつら本当しつこい!
急に増えたその魔物達に冒険者パーティーだけで対応できず、猟師さん達も撃退に加わり、集中攻撃に移る。
必然的に松明の数が減ってしまった、その時……。
その注意が逸れた一瞬の隙をついてすかさず蔓状の魔樹が触手を伸ばし、襲いかかってきたっ。
「うおぉっ? なんだぁ!?」
「もう来たっ。さっそく勘づかれたよっ 」
「なんて賢いんだ、触手の癖に!」
「本当、この機を見る能力、すごいですよねっ」
「何誉めてんだよっ。今それどころじゃないだろ!」
「音と熱に反応していますっ。気をつけてっ」
「……あっ、上からも来てますよ!」
「何!?」
「嘘だろ、おいっ」
「みんな、できるだけ距離を取るんだっ。視界を確保しろ! 切れる者は触手を切り落とせっ。後のことは気にするな!」
「「了解!!」」
動きを予見していたかのように、触手が一斉に動き出したっ。
複数の手足を操る一体の魔物のように、意識を持ってこちらの弱い人員、隙のある場所へとよどみなく……。
こんな時のために全員、スライム製の全身タイツを着用しているので大丈夫だとは思うけど、少しでも素肌に密着されたら魔力を吸い取られてカラカラに干からびてしまうらしいので気を付けないとっ。
間近に見るこの蔓性の魔樹の動きは、なんと言うか……蛇がのたくっているような、それが何本も互いに意思を持って絡み付き蠢きあっているような気色悪さがあった。
本能的な嫌悪感から、思わず竦みそうになってしまう。ううっ、苦手な動きだ……。
「うらぁっ!」
「せいゃあぁぁっ!」
向かってくる触手には、容赦なく何振りもの剣や斧で応戦していく。
蠢く魔樹の根がまだ地中には張り巡らされていないと事前の調査分かっているので、足元を警戒せずに済むのはありがたい。全力で踏み込んでいけるから。
巨大な剣の恐るべき一撃が、次々と伸ばされる触手を薙ぎ払う。
普段は樹木を切るのに使われる斧が、何度となく渾身の力で振り下ろされる。
蔓状の魔樹の防御力は高い。
高レベルの冒険者や魔鉄製の武器以外の生半可な攻撃だと、表皮を深く貫くことができない。
なので皆、思い切り振り抜いている。
一回の威力は弱くとも、何度も受けてしまえば流石にダメージは蓄積するから、諦めずに黙々と手を動かす。
ガンガン攻めていると、切り落とされる触手も出てきた。
ラグナード達が蔓状の魔樹を攻撃している間にも、ゴブリンやポイズンラットの一団から攻撃は続いている。
こちらの方にも人手を割かなきゃいけないから、戦力が分散されている今、何気に個別に掛かる負担が増してきたんだよねっ。結構、忙しいんですけどっ。
ただ、スライム製の全身タイツを着ているおかげで、全員一度も戦線を離れることなく参加できているため、この一人でも欠けて欲しくない状況においてその点は高く評価できる。見た目とは裏腹の優秀さを、遺憾なく発揮してくれた。
一体ずつは弱い魔物とはいえ、時間差でかなりの数を相手取らなきゃいけないし、魔樹と魔物に挟み撃ちにされた状態なので、一瞬の油断と隙が命取りになりかねない危うさもあるからさ。
命大事にっ、だからね。集中力を切らさず、頑張って倒していくよっ。
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