第115話 討伐隊結成
色々と衝撃的な情報にちょっと取り乱しちゃったけど、異世界まで来て全身タイツを見るはめになるとは……その上、 全力で装着をお勧めされる羽目になるとは思わなかったよねっ。
どう見てもピッチピチの全身タイツなこの絶対防御スーツ……。話している内にテンションが上がって来たラルフさんと違って、こっちの士気は下がりっぱなしです。
尚も、嬉々として詳しく説明してくれたところによると、頭までしっかり覆い尽くす、安心安全設な形状を目指した結果、顔のとこに一つ丸い穴が空いているだけになったらしい。これを装備の下に来て、触手などの侵入を防ぐように設計されたんだとか。
これ、全員で着たらめちゃくちゃ怪しい集団に見えちゃうんじゃ……。装備の下に装着するならまだ変態度が薄まる……かもしれないけどさ。長時間着用する事にはなるし、あの、どうしても自然現象的に催しちゃう事もでてくるわけじゃないですか? そうなっちゃった時には、どうすればいいんだろ。
――あそこに穴なんか空いてないんですけど?
「いいところに気づかれましたねっ」
「あ、そう?」
「はいっ、さすがお目が高い。それはですねぇ、なんとこのスーツが素早く吸収してくれるんですよっ。凄くないですか!?」
「そ、そうですね……?」
「そうなんですよ、だから画期的なんですっ。まだ試作品ですので、残念ながら小の方だけしか分解出来ませんし、分量も一日分が限度なんですけどね」
「えっ……と言うことはこれに、直接? 吸収してくれるってそれ、まさかスライムがまだ生きてるってこと……?」
「いえそこは大丈夫です完璧に生命活動は停止していますご安心ください。 実はですね、スライムの吸収能力を残せる技術が最近発明されたんですよ。臭いや音も同時に吸収してくれますので、こっそり済ますことができるんです。ゆっくり致せない危険地帯とかでも安心安全の仕様となっております」
「……確かにこれがあれば、どこでも安全に冒険出来るな」
「そうですそうなんですっ。分かってくれますか! 私たちの時代に何故この便利グッズがなかったんだって、皆で悔しがってたんですよ! 冒険者にとっては夢のような仕様ですからっ」
いい笑顔で猛プッシュされたっ。
いやまぁ、分かるよっ? 理にかなっているって事は。分かるんだけれどもっ。
ただ、ちょっとこう、羞恥心とかいろんな事で拒否反応が出そうになってるだけで……。
抵抗はあるけど、安全性をとるならそんなこと言ってられない、か……? 実際、危険な森の中でのおトイレ問題は深刻なんだし……冗談じゃなく命懸けだからね。
「分かりました。ありがとうございます」
「はいっ、是非お試しください」
……仕方がない、着るか。
それにこれならエルフの外見……特徴的な耳もすっぽり覆い隠してしまうから気にせず動けるし……。
うん、よしっ、覚悟を決めよう。二人も抵抗無さそうだし……っていうかむしろ、便利だからって嬉しそうですね!?
いつの間にか町中のトイレ事情も改善されそうって話題で盛り上がっちゃってるしっ。確かにそれも大事だよねっ。
あぁもう、シリアスだった空気がどっかいっちゃったよっ。
でもまあ、それだけ今回の討伐はきちんと作戦を立てれば対処出来る程度の難易度だって事で。
こうして皆に余裕があるのはいいことだ。予想外だったけど、全身タイツのお陰で安全性も上がったことだし。
ちなみにこの全身タイツは使い捨て用らしく、討伐の後、研究の為に使用済のを回収される予定とのことです……。
◇ ◇ ◇
二日後の早朝、討伐部隊が出発した。
大所帯なので荷馬車もたくさん用意され、乗り込んだ順に出発していく。
今回は、冒険者だけじゃなくて、北の森に詳しい地元の猟師さんや木こりさんたちも一緒に行ってくれる。
特に木こりさん達は森のエキスパートだからトレントにも詳しいんだって。心強いよね。
昨日までに、予定通り狩猟ギルドや木こりギルド、冒険者ギルドからそれぞれ依頼された者達が即席パーティーを組んで一緒に現地に向かい、蔓状の魔樹の全体像を掴む為の調査をしたらしい。
その大きさは、ラグナードの予想が当たったみたいで運よくさほど成長していなかったようだけど、やはり場所が場所だけに人出はいるという結論になった。
実際に見て、魔樹を倒す事よりも、本体のある場所まで辿り着く迄の人が踏み込めない程繁ったジャングルの伐採の方が大変そうだという同じ結論に至ったそうで、木こりギルドから人員を多く派遣してもらうことに決まったようだ。
街道沿いで荷馬車から降り、班分けされた一団ごとに人数を確認してから森の中へと入っていく。周囲の魔物を警戒しつつ、前へ前へと、黙々と足を動かした。
相変わらず現場に近づくにつれて足場が悪い所が続くけど、調査隊が軽く道を作ってくれてあったお陰で、初めての者もそれほど足を取られずに歩いて行くことが出来ている。
私たちと一緒に行動しているのは、もう一組の冒険者パーティーの他に、狩猟ギルドからロホさん、 木こりギルドからアルベロさんをそれぞれ代表にした一団で、数十人ほどになる。
結構な大所帯だがこれでも討伐部隊の一部で、他の一団もそれぞれ指定されたポイントを目指して、別々に向かっているはずだ。
音や魔力に敏感な魔物や魔樹に少しでも察知されないようにと、森の中ではできるだけ物音や声を立てないように注意しているので、あまり素早く進めないのが少しもどかしい。
それでも魔物との戦闘を避けることは出来なかったが、数に物を言わせて短時間で切り抜け、予定されていたポイントまで来た。
蔓状の魔樹討伐の作戦自体は森に入る前に伝えられているので、現場に到着した部隊からさっそく作業に入っていくことになっていた。
私達も指定された場所から、さっそく包囲網を形成していくことに……。
その際、頼りになるのが調査隊が残していった目印だ。やはり、大半の者は近くで見ても何処までが魔樹の蔓なのか見分けがつかず、魔力感知もできないみたい。この目印がなければヤバかった。本当に隠密と擬態が上手い奴だよね。
とはいえ、昨日より魔樹の範囲が広がっている場所もあったので、まず魔力感知できる者が慎重に確認しながら指示を出し、徐々に横に広がり囲んでいった。
――やがて……。
討伐部隊全体の準備が整った。いよいよだね……ちょっとドキドキする。
ここからは、本体まで時間をかけずに一気に突き進む予定です。
あらかじめ決めてあった合図と共に、各々が一斉に松明に火をつけ、前方に突き出すと……。
すぐに炎に反応して、一部の蔦がウネウネと不気味に蠢きだすっ。うわっ、これだけいっぺんに動かれると気持ちわるっ!
炎で牽制して、本体のある中心部に向かって追い立てながら、草薮や蔓、枝などが複雑に絡み合って進めない状態の森を、木こりギルドの人達が中心になって打ち払い、人が通れる道を作るためにただひたすら黙々と手を動かす。
蔓状の魔樹は、下手に切り刻むとその切れ端からも増殖するという厄介な性質を持っているので、こうして着実に本体まで炎で追い込む。
地味な作業だけど、やっぱり奴にはよく効いてるみたい。徐々に奥へと引っ込んでいくよ。
今回、便利な火魔法を使わないのは、大火事になるのを阻止する他にも、その魔力に反応した他の魔物が寄ってくるのを防ぐためというのもある。
ただ松明も、火力が弱かったり数が少なかったりすると、すかさず消そうとして触手を伸ばしてくるので、程よい火加減と一度に触手が対応力出来ないほどの多くの火種を用意するのが重要になる。
今のところ、こうして広範囲を包囲して、一斉に大勢の持つ松明で追い立てる作戦は上手くいっている……はずだ。
音の対策も立てている。一連の作業をしている間に、伐採の音に引かれて寄ってくる魔物がいるから討伐が必要になんだよね。こればかりは仕方がない。伐らないわけにはいかないからね。
魔力以外に音にも敏感な奴らの相手をする為に、冒険者がいる。
木こりギルドや狩猟ギルドの人達が伐採と触手の牽制してくれている間、彼らを魔物から守りつつ、余裕があれば魔樹を追い込んでいくのが主な仕事になるんだけど……初めてからそれほど時間は経っていないのに、どうやらもう来たみたいだね。
静かだった森に、戦闘音が響く。
あちこちに散った討伐隊のどれかと、交戦しているんだろう。ここでもすぐ、迎え撃つ事になりそうだ。皆の緊張が一気に高まる。
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