第94話 初顔合わせ
「悪い、遅くなった。帰ってくる途中で迷いの魔樹の幻術にかかった新人に、たまたま行き逢ってな。さっきまでギルドに報告してたんだ」
「えぇっ、その子達は!?」
「助け出して全員無事だ。まったく、あんな実力で北の森とはいえ奥まで入って来るなんて無謀過ぎる」
見つけた時にはもう迷いの魔樹に引き摺り込まれかけており、装備品も溶解液と土にまみれてボロボロだったそうだ。
幸いなことに怪我はしているものの、全員人の手を借りずに歩いて帰ってこれる状態だったとの事。
「良かった、でもラグナードか偶々通りもかからなかったらどうなっていたか」
「まあな。こういうの、新人時代に割りとやらかす奴らが多いんだ」
パーティーメンバーが人族しかいないにも関わらず、幻術を甘く見て対策を立てずに、新装備を手に入れた高揚感も手伝って突っ走っちゃったらしい。今頃はギルド職員によって、別室でこってり絞られているとか。
魔道具屋のマールさんにも聞いていたけど、本当に人族には幻術耐性がないんだね。
パーソナルレベルが高いと徐々に耐性が出来てくるそうだけど、それまでは危険と紙一重なんだ。
今回の冒険者さん達は、獣人族で特に五感に優れているラグナードが近くにいて、運良く助けて貰えて幸運だった。というか彼も今日は北の森にいたのか。
「ローザ、彼が例の?」
「そう、紹介するね。彼が獣人族のラグナード。私も前に一度、危ないところを助けてもらった人。そして、こっちが今、パーティーを組んでいる人族のリノです」
「よろしくお願いします」
「おう。こっちこそ、よろしくな」
この町でようやく再会できたことだし、あの時助けて貰った事に改めてお礼を言う。
もう本当、ダメだと思ったもんね。絶体絶命のピンチに、格好良く登場して助け出してくれました。
「偶然そうなっただけで、あれは俺も助かったんだよ。ゴブリンとはいえ一度にあれだけ群れると危険だからな、一人で抜けるのは苦労するんだ。派手に魔法を使えるローザがいて、ゴブリン達も浮き足立ってたから簡単に蹴散らせただけだ」
それは謙遜が過ぎると思う。すっごく強かったもん。
軽くそれぞれの自己紹介も終わったので、さっそく本題入る。
「それで今日、こうして来てくれたって事は、パーティー結成について前向きに検討してもらえるって思ってもいいのかな?」
「あぁ、そのつもりだ。人族の町では森の侵略を食い止めるのが最優先だからな。こっちもエルフが一緒だと魔力に余力をもてるし、短時間に討伐と浄化が出来るから助かる」
「それなんだけど、私達も今日北の森で結構探し回って……でも一体しか見つけられなかった。そんなに侵略が進んでいるっていうのが信じられないというか」
「確かに森の浅い部分では少なくなったよな。だが、侵略っていうのはやつらが中奥まで出て来ると認定されるんだ。俺は今日、そこまで行ってきたが他にもスモールトレントや、それに一体だけだが霧の魔樹にも出くわした」
「迷いの魔樹以外にもそんなに……知らなかった」
ラグナードが遅くなったのは、その報告も併せてしていた為らしい。ギルドも警戒レベルを引き上げると決め、八級以上の冒険者に強制依頼を出す方針を固めたとか。今まで以上に危険だと認識しといた方がいいと教えてくれた。
森は、地脈や空気中から魔素を蓄えると、勢力を広げようとして不定期だが次々と木の魔物を送り出してくる。
大侵略が起きるのは数十年単位らしいけど侵略事態は毎年複数回あり、そのどれもが大侵略に進行してしまう可能性がある。
迷いの樹はその先鋒のようなものなので、他の魔樹が発見され出すと危険度が一気に上昇するらしい。
そして、ラグナードが言っていたスモールトレントというのは、トレント型の魔物が生み出す分裂体の総称で、初めは1mほどの小さな魔樹。
森の中をあちこち移動し、魔素の濃い場所を見つけると根を張り急成長する。条件がいいと一日で倍の大きさにまでなってしまう厄介な幼体だ。
霧の魔樹は、その名の通り、発生させた霧に幻術を仕込むことで獲物を誘き寄せる魔樹のこと。
その効果は迷いの魔樹より高く広範囲に渡り、エルフでも油断すると危険なんだとか。
時間が経つにつれて、こういった色んな種類のトレントが森の奥から出てきて目撃されるようになってくる。
これらの魔樹は総じて成長が速く、繁殖力も強いと言われているため、放っておくとあっという間に町が森に飲み込まれる事態になるらしい。迅速な早期発見、早期討伐がとても重要とのこと。
その点、この町の冒険者ギルドと町の行政機関は、普段から連携がとれているらしく、今回もスムーズに協力体制を築けるだろうとの事でちょっと安心した。
ちなみに長寿種族は皆、ほぼ同レベルの幻術耐性を持つが、エルフが最も討伐に適した種族と云われる所以は、聖魔法を得意としているからだという。
倒すだけなら樹の魔物の弱点である、火魔法を使って倒すか、あるいは火属性付与付きか魔鉄製の斧で切り倒すのが一番いい。
だけど、魔素の濃い場合に根を張る特性を利用し、そこを聖魔法で『浄化』してしまえば二重に森の侵略を防ぐ事が出来るから最適なのだとか……なるほどね。
これまでも討伐した迷いの魔樹自体には『浄化』を掛けていたけど、地中の魔素溜まりを直接消すつもりではやってなかった。
まあ活動していた外周付近だと、魔樹の養分として吸収され残らない事が多いので気にしなくていいと言われたけどね。今度から気を付けよう。
でも『魔力強化Lv3』にレベルアップしといてよかったよ、話を聞くとこれまで以上に魔力を使う事になるって分かったからね。
『異世界知識』で森の生命力が強いことは知っていたけど、どうやって勢力を伸ばしていくのか、ここまで具体的な情報はなくとても勉強になる。
エドさんやマールさんなどに聞いた知識に加えて、ラグナードはこうした現場の知識をさらに詳しく教えてくれるので助かった。
「まずは収束宣言が出るまで一旦仮で組んで、継続するかどうかはその時にまた考えるって事でいいか?」
「うん。それでお願いします」
「よし、決まりだな。じゃあ、改めて詳しく自己紹介してくか」
新人で冒険者歴の浅い私達には紹介出来る事も少なく、種族と等級、これまでの討伐歴を伝えてすぐに終わった。
ラグナードの等級は六級だそう。この町に来てからは他に冒険者をしている獣人族はいない事もあり、ずっとソロだったとか。
ソロだとダンジョンには潜れないけど、南の森の討伐依頼をこなせば暮らしていくぶんには十分だし、そっちの方が気楽だったらしい。
「正直、もっと上かと思ってた」
「いや五級以上の冒険者になるとな、色々とめんどくせえんだ。お前らも気を付けた方がいいぞ、特にローザ。長寿種族は人族の権力者に狙われやすいからな。昇級もゆっくりにしとけ、その方がギルドにも目をつけられにくいから」
何でも、免税とかで優遇されるかわりに、権力者や金持ち連中からのややこしい強制依頼も受けないといけなくなるらしい。
ここは辺境だからそれほど酷くはないみたいけどね。でも拠点は常にギルドから国に報告されるから、自由に国境を超えられない時もあるんだとか。
……まぁ、狙われそうなのは『幸運』スキル持ちのリノも同じだから、彼が思っているより危険度は増し増しでヤバイんだけどね。
同じパーティーに二人も『幸運』持ちがいるってかなりレアだろうし、仮結成の内はラグナードにも秘密にしとこう。
それと昇級に関しては折角のご忠告だけど遅かったというか……すでに短期間で九級に昇級済みなんですよね……どうしよう。
う~ん、考えてみれば冒険者ギルドには色々個人依頼をされている気がするし、もう手遅れかもしんない……。
で、でも、十級から九級って何気に昇級しやすい強制依頼とかもあるからっ。まだ大丈夫……だよね?
「うん、分かった。そうする」
しょうがない、これから出来るだけ気を付けるようにしよう、うん。
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