第93話 再会 



 冒険者ギルドで、今日の報酬を受けとる。危険を冒した割には控えめな金額でちょっと残念。昼前には町に戻って来てたし、活動時間も短かったからなぁ……しょうがないか。


 魔石の量だけみれば今までで一番多いんだけどね。ただ、殆どがポイズンラットで一個単価が安いし、マジックキノコ等の高額な採取が無かったから。


 迷いの魔樹を一体討伐したことについては、魔石の大きさと色を見るに根付いたばかりの若い個体だろうと言われた……やっぱりね。


 他の冒険者からも魔石の持ち込みもポツポツとあるようで、引き続き迷いの魔樹の討伐依頼をされたが、これから新パーティー結成話し合いがあるのでと、一旦、保留させてもらった。







 早ければ明日からラグナードと合流するかもしれないので、まずは迷いの魔樹対策用に、幻術耐性の魔道具を買う。

 先日、店主のマールさんに、パーティーメンバー連れて近々再訪すると約束していたのだが、思いの外早く向かうことになった。




 メイン通りから一本外れた道を少し進んですぐのところに、お店がある。


 お昼の時間帯だからか、ちょうど他にお客さんがいなかった事もあり、カウンターからすぐマールさんが出て来てくれた。迷いの魔樹討伐の話すると、喜んで相談にのってくれた。


 さすがにこの町で長年、冒険者相手の商売をしているだけあってお詳しい。


 奴らは、季節を問わず突発的に森の浅い部分まで出て来るらしく、毎年装備の整っていない新人冒険者が何人か犠牲になっているんだとか。

 一度確認されると場合によっては侵略の期間が長引く可能性もあり、たとえすぐ収束したとしても森での活動を続ける限りはいつ出くわしてもおかしくないらしい。


 手頃な値段で売っている使い捨ての魔道具より、効果が弱くとも継続的に使えるものを選んだ方がいいとのこと。

 パーティーメンバーに人族以外の種族がいる場合は、サポートを受けられるからって。

「幻術耐性+1上昇」でも、あまり近くまで行かなければ十分役に立つとアドバイスしてくれた。




 リノは他にも魔力と持久力に不安があるので、MP回復アイテムがあれば欲しいと言っていた。

 ここしばらく乾燥させた水玉茸を毎日食べているので調子がいいらしいけど、魔力総量が増える訳ではないからね。

 私の魔法の補助がなければ長時間の活動はまだ難しいとのことで、負担を減らす為にも自己強化をしたい、と。体力や持久力はMPに依存するからね。

 幻術耐性とMP回復のどちらも重要だし、先に買うのはどっちにすべきか迷っていて、マールさんに相談したかったみたい。


「お嬢ちゃんが考えているよりずぅっと、人族は迷いの魔樹の幻術に弱いんだ。足手まといになりたく無いなら、まずは魔力の補強より幻術対策の魔道具を買っといた方がいい」


「……確かに今日、私は幻術に掛かったのを気付けませんでした。あらかじめローザに教えて貰っていたにも関わらずです。大分離れていたのに、抵抗出来なかったって……」


「そうだろ?」




 あの時、本人には術に掛かっているという自覚が全く無かったんだよね。


 特に何か匂いがするとか幻を見せられて誘われたとか具体的なものはなく、自然と意識が自分から切り離されて曖昧になっていく感じだったらしい。らしいと言うのはその曖昧さにさえ気づけて無かったから。


 私も彼女が少しフラついた時にハッとして、とろんっとなった目を見て初めて幻術に掛かったんじゃないか……と気づけたぐらい。

 それまでは正気に見えてたし、正確にどの時点で幻術の影響を受けたのかは分からなかったけど。手を繋いでなかったら、はぐれていたかもしれない……。


 後から確認しても、自分の不注意で離れかけたんじゃないかと本人が勘違いしてて、それで正気じゃなかったと分かったくらいだから。幻術怖い。


「エルフが一緒なら大丈夫だと言いたいところだが、トレントは何も迷いの魔樹だけじゃない。変異種が出てくる年もあるし、用心しとくに越したことはないさ」 


 幻術の恐ろしさを体験した後だと余計に、店主さんの話は納得出来る。


 レベル1だから効果がいまいち心配だったけど、そう言うことならと購入することに。「幻術耐性+1上昇」だと1000シクルなのでギリギリ足りるしね。


 出来るなら「幻術耐性+2上昇」が欲しいところだけど、それだと3000シクルもするから。残念ながら今、そんな大金はない。

 私の個人資産もコツコツ貯めて1362シクルになったけど、仮にそれ全部出しても足りないもんね。


 また頑張って稼いで色んな便利アイテムを買っておくれよ、と笑って言ってくれたマールさんと近々の再訪を約束してお店を出た。

 魔道具って本当便利だから手っ取り早く強化するには最高だよね! お金さえいっぱいあるならだけどっ。




 実はリノの使っている短剣が中古品で安価だったのもあって切れ味があまりよくないので、鍛冶屋にも行く予定だったんだけど……さっきので無しになった。

 魔道具一つでパーティー費用は全額消えたし、彼女の個人資産もほぼ全部つぎ込んだので武器を買えるほど残らなかったんだって。

 私が立て替えていた宿代も全額返納してもらったから、残額は78シクルだって言ってた。ちなみに昇級ポイントは49点になったらしい。


 まぁ上を見たらキリが無いけど、でもこれで一応、ラグナードに会う前に今できる範囲での装備とスキルの強化が間に合ったんじゃないかな?


 時計見ると約束の時間まではまだまだ余裕があるので、宿に帰って先に自分達用に取ってきた食材を料理してしまう事にした。







 夕方以降のギルドは、人が多い。人族のリノはともかく、エルフ族の私はトラブル巻き込まれないためにも目立ちたくないので、外套で全身を覆いフードを目深にかぶっている。

 これで、魔法使いだって事は分かっても、話さなければ性別や種族までは見た目で分からないだろう。


 面倒な事が起きる前にと人混みを避けてさっさと二階に上がり、借りていた小会議室に入る。フードを外してホッと一息ついた。




 リノと二人で持ってきた魔法書を読んだり、おしゃべりしたりしながら待っていると……。


 ガチャリっ、とドアを開ける音が小さな部屋に響く。


「ラグナード」


「よう、久しぶり」


 茜空のような髪と、キラリと輝く金の瞳。


 引き締まった体躯を持つ、背の高い狼人族の青年が颯爽と入って来るところだった。


 ようやくこの町で彼と再会できた。





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