第85話 練習、また練習



 まずは、十種類の果物と薬草を使ってジャムを作る。HP・MP回復効果と、滋養強壮効果など、様々な効能付きのシルエラさん自慢のジャムは、見た目は苺ジャムっぽいです。


 これだけでも十分美味しそうだし効き目もあるそうだけど、一工夫することで素材の相乗効果もあって一段上の味と効能になるんだとか。


 コツは全ての工程で、出来るだけ魔法を使って作ること。エルフは日常的に飲食物に魔力を注いで調理するみたいだけど、それだけではっきりと違いがでるらしい。

 図らずも私の保存食作りとよくにていて、ちょっとうれしい。




 ジャムを作ったら、次は生活魔法の『水作成』で、水を出しておく。これにも魔力がふくまれているけど、更にそこへ、聖魔法で『浄化』を掛けると効果が上がる。その魔力満ちた水の中に一匙、ジャムを溶かし入れる。


 今回は、そこに私が持ってきた香草塩もひとつまみ入れてくれたらしい。よくかき混ぜて、出来上がりだ。


 作業としてはたったこれだけ……短時間で様々な効果付きの万能ドリンクになったよ。本当に簡単だし、冒険に行く時に毎回作って持っていくようにと勧められたので、是非そうしようと思う。




 つまりこれって、この世界の熱中症対策みたいなものだよね? 栄養ドリンクの効果もあるし、予想より随分と強力な飲み物になってるけど……これはいいね!


 シルエラさんから、大きな容器に入ったジャムを一瓶いただいたので、これから毎朝作ります!




 いくらでも飲めそうなほど美味しい、異世界版の栄養強化ドリンクを飲み干すと、訓練に備えてシルエラさんが支援魔法の『HP回復』『MP回復』『魔力上昇』を重ね掛けしてくれた。

 今日は魔力切れになる度に、こうして掛け直してくれるとのこと……ありがたい。


 よしっ、じゃあ魔力切れの心配もしなくていいことだし、気合いを入れて続きをしますか!




 引き続き裏庭で基本魔法の『魔力感知』『魔力操作』『魔力強化』『身体強化』の四つのスキルを重点的に鍛えていると、時々、シルエラさんが来てアドバイスと実演をしていってくれる。


 途切れる事なく支援魔法でドーピングされているから、私の魔力も尽きることなく安定している。

 いつも余裕をもって重ね掛けしに来てくれるので、基本魔法の練習を思う存分、続ける事ができた。




 そのおかげで何と、この短時間に成果が出ました!


『魔力操作』と『魔力強化』の二つが共にレベル3にアップするという結果になって、もうびっくりなんですけど!? こんなやり方があったとは……エルフの魔力量ってすごいっ!

 支援魔法の効果時間が切れる前に前倒しでどんどん重ね掛けしていくこのやり方、リノとの練習の時の参考になるし、やってみようと思う。

 シルエラさんのおかげで、魔力が全回復しているから今日はチャンスだからねっ。


 基本魔法は一番レベルが上がりやすいって教えて貰っていたけど、実際にこうしてサクサク上がるのはとっても楽しい。気持ちいいっ。自分一人でやっていると全然上がらないから余計に、ね。


 異世界にポツンと一人、放り出された時はどうしようかと思ったけど、こうして最初の町で同族のシルエラさんと知り合えて魔法の師匠まで引き受けてくれたんだから、私って本当、幸運だったよね……。




「順調そうね。基本魔法の練習はそこまでにしておきましょうか。風魔法のレベル上げもやりたいんでしょう? 風属性魔法書はもう読み解けたかしら?」


「はいっ、何度も読んでます。ひとつはあと少しで出来そうなんですが、もう一つの技が難しくて……教えていただけますか?」


「いいわよ。それじゃあ今からやってみましょう」


「はいっ。お願いします!」


 先日借りた風属性魔法書。理解はしているけど、いまだに未習得のそれを実演して見せて貰えることになった。




 風魔法のレベル2で出来る技は、『風刀ウィンドカッター』と『無風ウィンドレス』の二つ。

 もう少しで出来そうなのが『風刀ウィンドカッター』なので、まずはそれから……。



風刀ウィンドカッター』!



 シュピっと軽い音を立てて敵に見立てた丸太に当たる。命中した的を見ると、深く切り刻まれた後が残っていた。


 こうやって目の前で見せて貰うと、簡単に出来る気がして来るんだけどね……中々、難しいんだ。でも、成功のイメージはとっても湧きやすい。


「こんな感じですよ。じゃあ、さっきのを頭において練習してみて」


「はいっ」


 風属性魔法書を持ってきているので、何度も読んでいるけどもう一度目を通してから、先程見た技を再現するようにイメージを膨らませる。


 それから、魔力を練って発動させた……。



風刀ウィンドカッター』!



 シュポッっと、気の抜けるような音を立てて風の刃が飛んでいく。


 う~ん。風は動いてるんだけどね。丸太に傷ひとつ付かないし、これだと攻撃に使えないなぁ……む、難しい。




 その後、諦めずに根気よく何度もやっている内に、威力こそ弱いものの丸太を浅く引っ掻く事ができるようになった。やったぁ!


「うん、いいでしょう。まだまだ十分とはいえないけど、この技は合格点よ」


「ありがとうございますっ」


「ふふっ、頑張ったわね。じゃあ次は、もう一つの方も練習しましょう。これは空域を遮断し窒息させる魔法だから……よく見てて」



無風ウィンドレス』!



 魔力の動きで、技が放たれたのが感知出来る。


 風に揺れる葉っぱに手を一振りして風魔法を発動させると、そこだけシュンっと、周りの空気が止まったのが分かった……凄い。こんな簡単に出来ちゃうんだ……。



「どうかしら? こんな感じよ。『風刀ウィンドカッター』と違って分かりにくいと思うけれど、一度やってみましょうか」


「はいっ、お願いします!」




 とは言うものの……う~ん、やっぱり難しい。イメージもしにくいなぁ。


 それから何度も『無風ウィンドレス』の練習をしたんだけど、成功しなくて、今日のところは時間切れになった。


 やはりというか、属性魔法のレベル2という事もあり格段に覚えにくいよ……基本魔法のレベル上げと同じようにはいかないみたいです。




 まあ、でもよかった。風魔法レベル2の内、何とか一つは成功出来て……。


無風ウィンドレス』はシルエラさんにもう一度見本を見せて貰って、個人練習をすることになった。頑張って覚えよう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る