第84話 基本は大切


 

 散財してしまった事をちょっぴり後悔しながら魔道具屋さんを出て、メイン通りに向かう。


 予定通り、シルエラさんに会いに本屋へ行く事にした。




 それほどかからずお店に到着すると、すぐに気づいてくれてカウンターの奥から出てきてくれる。相変わらず笑顔が素敵でお美しいです!


「いらっしゃいローザ、待ってたわ」


「こんにちは、シルエラさん。これ、よかったらどうぞ」


 お世話になっているので、昨日採ってきた茸と香草塩を手土産に持って来てみたんだよね。


「あら何かしら。まあっ、新鮮な茸がたくさん! ありがとう、いただくわ!」


 茸は昆虫型魔物と同じくエルフの大好物みたいで、とっても喜んでくれた。よかった。

 久しぶりに雨が降った時には、お店を休んで茸狩りに行こうかと真剣に思っていたくらいだったとか……そんなにか。

 知ってたらもっと採ってきたんだけど……今度また茸が採れたら積極的に差し入れに来よう、うん。




 この世界の雨は、空気中の魔素を取り込んで地上まで降ってくるので、生物にとって命の糧となる。


 短時間降っただけでも、魔物や植物に強い成長促進作用があるのは北の森で活動していてよく分かった。

 森の中に入ってすぐ、茸はびっしりだし香草や薬草なんかもワサワサと生い茂っているしで普段より活性化しているのが目に見えて分かる状態だったからね。


 もう一つの差し入れである香草塩については、雨上がりに採取したもので作った事を伝えた時、効率よく効能が高いものを作るにはそれが一番いい方法だとシルエラさんが教えてくれた。


 なるほど、確かにやたらと美味しくて女将さんにもびっくりされたもんね。薄々そうじゃないかと思っていたけどやっぱりか。

 香草がいい状態で手に入ったのはリノの『嗅覚強化』スキルの他に、雨上がり直後だったというのが関係していたんだね。


 シルエラさんは『鑑定』スキルもお持ちだし、なにも説明せずとも私の作ったものの付加価値に気付いたみたいで、製作過程についても興味深そうに聞いてくれた。








 ――その後、スキルの進捗状況についても聞かれた。


 基本魔法教本を借りたらすぐ覚えれた、『魔力感知』と『身体強化』。


 先程までレベルに変化はなかったんだけど、魔道具屋を出た直後に感じるものがあって、こっそり自分を『鑑定』してみると『魔力感知』の方がレベル1からレベル2にアップしていたんだよね。


 その事を伝えると、一緒に喜んでくれる。


「魔道具屋で色々見て、直接感じた事もよかったんでしょう。スキルが増えて、レベルも順調に上がってきているようで安心したわ」


「ありがとうございます。もう一つのスキルも上がるといいなって思ってたんですけどね……」


 一緒に使ってた『鑑定』スキル。大分情報が増えたので期待したけど……駄目だったんだよね。


 毎日の採取や討伐で使い続けていて、特に採取物の方が詳しい鑑定結果が出ている。シルエラさんに聞いてみたら、『採取』スキルを持っているからだろうっていわれた。

 魔物の方が大まかなものしか見れないのは、情報源が主に冒険者ギルドの資料室で得た簡易的なものだから……辞典ほどの情報量はなかったかららしい。なるほど、よく分かりました。

 


 このように『鑑定』は、人や魔物を看破できるスキルだけど初めから万能ってわけじゃないんだよね。

 レベル1だと自分と同レベルかそれ以下のみ可能で、レベル差がある場合は許可してくれた人じゃないと詳しい結果が分からない。

 また、許可をもらってもレベルが違いすぎるとやはりスキルまで見るのは不可能になる。

 シルエラさんがそうで、ヤバいくらい強いってことしか分からなかった。

 魔物も同じで、低レベルのもののスキルは見えても高レベルの魔物は看破出来ないだろう。


 ということで、そうした魔物についての知識は、シルエラさんお薦めの「森の魔物辞典」を借りて覚えていく事になった。

 100シクルと辞典にしては比較的お安く、『鑑定』スキルを伸ばすにはお得だと思う。


 他の魔法も早く覚えたいけど、今借りている「風属性魔法1」を習得してから他のに進んだ方がいいとアドバイスをもらった。手持ちのお金もないし、これを借りれてちょうどよかったのかもね。




「鑑定のレベル上げには、特に時間がかかるから早目に取りかかった方がいいわね。たくさんの知識と経験を積み重ねて、地道にやっていくしかないから。レベル2になると許可なく一部のスキルが看破できるようになるのよ。なので、安全の為にもまずはそこまで上げたいわね」


「はい、そうします。後は、パーティーを組むようになりましたし、支援魔法書を借りて強化しておきたかったんですけど……」


「そうね。気持ちは分かるわ。でも焦っちゃ駄目よ。スキルの熟練度ってとっても大事だから。ここでは基本魔法のレベルを出来るだけ上げちゃいましょう。私も協力するから!」


「はいっ。よろしくお願いします!」


 基礎が大事なのはどの分野でも同じだもんね。単純に自分の強化になるし、四属性魔法など、他の魔法も効率的に覚えられるようになるから長い目でみればその有効性は明らかだし。


 支援魔法の習得にしてもその方が覚えやすく、少ない魔力負担で使えるようになるからと励ましてもらった。


 他のスキルが相変わらず全然レベルアップする気配がないのも、基本魔法のレベルが低いせいもあるかもしれないし頑張ろう!






「どう? 少し休憩にしない?」


 前と同じように裏庭で魔法の練習をさせて貰っていると、シルエラさんがお手製のドリンクを持ってきてくれた。


「あ、はい。いただきます」


 勧められてさっそく飲んでみると、微かに甘みのあるまろやかなお水で、じんわりと体の中に広がり全身から活力がみなぎってくる感じがした。


 これは、気力、体力、魔力を効果的に回復する飲み物らしく、作り方も教えてくれるとのこと。


「ふふっ。これをひとつ覚えておくと、とっても便利よ」


「でも、大切なレシピなんでしょう? 教えていただいてもいいんでしょうか?」


「いいのよ。私がローザに教えたかったんだから。子供が遠慮しないのっ」


「はいっ、ありがとうございます。大切にしますね!」





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