第83話 魔道具屋



 あっ、この懐中時計の魔道具かわいい。小鳥がくわえている果実の部分が透かし模様になっていて、動力源となる赤い魔石が見えている。

 光が当たるとキラキラして綺麗っ。これなら魔力がなくなった時すぐ分かるし魔石の補充も簡単。見せる収納って感じでデザインもいいし!

 へぇ、ファイヤーバードの魔石を使ってるんだ。お値段は1250シクル……う~ん、付与魔法付きの魔道具ほどじゃないけど高いなぁ。



 でも時計は一つ欲しいんだよねって思いながら色々みているうちに、店の奥に陳列してあった、ガラスケースならぬスライムケースに収められている商品の所まで来た。何が入ってるんだろう?


 好奇心から『鑑定』してみた結果、納まっていたのは異世界といえばこれでしょっ、ていうとんでもアイテムの定番、マジックバッグだった! 初めて見た!


 これには値段が書いてないけど、『異世界知識』では金貨百枚はするってあったし、お高いんだろうなぁ。時空間魔法を使えるシルエラさんなら作れそうだけど。




「おや、それが欲しいのかえ?」


 思わずマジマジと観察していたら、店の奥からひょっこりと、店主であろう老婆が出てきた。うわっ、びっくりした。『索敵』を切ってたから全然分からなかったよ。


「いえ、これはちょっと無理って言うか……」


 ど、どうしよう。


 色々欲しいけど、お金もないしスキル上げの為に長居してただけだなんて、邪な理由は言えないっ。


「まあマジックバッグは高いからねぇ。どんなのを探してる?」


 老婆は納得したように頷いてから、欲しいものを尋ねてきた……ギクゥッ!?


「ぼ、冒険者として仕事に行くときに使える魔道具、かな?」


 よ、よしっ、とっさにしては上手いこと言ったよ自分。これなら客として自然だよね、誤魔化せたんじゃない?


「それはまた、えらく漠然とした話だねえ。身体や魔力を補助やつがいいのか、採取や討伐に使える補助道具がいいのか……どんなやつがいいのかえ?」


 うん、ダメだった……更に突っ込んで聞かれちゃったし。私の対人スキルってショボすぎる……。


 でも、買い物の手助けをしてあげると親切に言ってくれてるわけだから、早く何か答えないとっ。


「ええっと。で、できることなら色々全部欲しいんですけど、買うのは(お金と)相談してからかな。今日はとりあえず下見です(お金ないし)」


「フェッヘッヘッ、そうかいそうかい。うちは品揃えがいいからねえ。何でも揃うしゆっくり見てくといい」


「はいっ。そうさせてもらいます!」


 よしっ、理由がちょっと苦しかったかもしれないけど今度こそ何とかなったよっ、多分。







 その後は『鑑定』スキルを使いながらいっぱい質問してしまった。世話好きらしい店主のマールさんが何でも答えてくれるから、ついつい甘えちゃって……。


 楽しくおしゃべりしてたんだけど、最後の方では魔道具の知識をやたらと褒められてしまった。



 ――いやほら、当然ながら知らないものばかりだったんだけどね?



『鑑定』さんが優秀で割りとどの魔道具を見ても簡易表示くらいはしてくれるし、その上、マールさんの注釈を聞いていると、私の『鑑定』結果にどんどんと反映されていくのが面白くて……。お得感に負けてつい、調子に乗っちゃったといいますか……。


 何と言うかその、マールさんのお人柄もあると思うけど、初めて見る異世界の不思議道具にも興奮してたし、変なテンションになってたんだと思う。


 ダンジョンでしか手に入れられない貴重なスキルオーブとか、軽量化の付与魔法が掛かったバッグとか、迷いの魔樹対策に良さそうな幻術耐性の魔道具とか。

 当分手が届きそうにない高価なものから、お手軽価格のものまでたくさん見せてもらえて、本当に有意義な時間だったよ。思った以上に長居してしまったけどね。



 でも初対面の人と、こんなにたくさん話したのってこの世界に来てからは、シルエラさん以来かも。

 リノとは危険と隣り合わせの仕事仲間でお金もない者同士、どう生き残るかみたいな話になりがちだったし……。




 ただ、今日は買わないつもりだったのに、いつの間にか懐中時計をあっさり購入する気にさせられていたっていうのがね。さすが一筋縄ではいかないというか……老獪な商売人らしいよね……。


 最初に一目惚れした懐中時計をチラチラ見てしまっていたようなんだ。目敏く気づいたマールさんが、すかさず割引してくれると言う魔法の言葉をかけてくれて、一瞬で誘惑に負けちゃいました。

 一部が白銀製になっているから本当はもっと高い品らしいけど、中古で贈答品だったらしく名前入りという事もあり、売れ残っていたらしい。


 気がついた時にはベテラン店主の営業トークに乗せられて、「物理攻撃耐性+2上昇」のブレスレット型魔道具と共に合計で4000シクルもの大金をお支払いしていました……おぅ。


 い、いやだって、まとめ買いしたら更に値引きしてくれるって言われたんだもん。

 実際、300シクルもお得に買えたんだしいい買い物だったでしょ、ね!?


 個人的にはとっても満足してるけど、でもこれで残金が390シクルに……。ううぅっ、一気にお財布が軽くなっちゃったっ。


 このあと、シルエラさんの本屋に行って、支援魔法書か土属性魔法書を貸りたいと思ってたけど、魔法書の貸し出しには確か200シクルはするから、それを借りると心許ない金額になっちゃう。

 何かあった時のために少しは手元に残しておきたいし、今日は安く借りられるものにするか。



 早速、買ったばかりの懐中時計とブレスレットを装着し、今度はパーティーメンバーと来る約束をしてから魔道具店を出た。





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