第68話 北の森へ
◇ ◇ ◇
夜半に降り始めた雨は、明け方にはすっかり上がっていた。
この世界に来てから十二日目。初めての雨だった。
今日からしばらくはちょっと早起きして、二人で集中的に魔法を練習することにしたんだ。魔法教本の貸出には十日間という期限があるので、有効に使いたいからね。
北門が開門する一時間前には起床して、三十分ほど無理をしない範囲で昨夜学んだ事の復習する。
それぞれで魔法書を読んで勉強したり、リノに見本を見せて教えたりしながら過ごす。三十分なんてあっという間に過ぎちゃうけど、やらないよりずっといいから。
それから部屋で少しの休息をとる。魔力を回復させる時間を設けるのは、安全に冒険するためにも大事だから必ず取ることにしている。
その後は朝食を食べて、いつも通り北の森を中心に採取と討伐の常設依頼をする。
出発は他の冒険者との狩場のトラブルを避ける為、開門時間を少し過ぎたあたりにする予定だ。
――まぁ、雨上がりの今日みたいな日は別だけどね。
「雨、あがってよかったですね」
「うん。そういえば、少しでも雨が降った後にはスライムが急成長するっていってたよね。分裂しやすくなるって?」
「ええ、講習会で言ってましたね。水辺周辺の他の魔物も同じらしいですよ。湖や湿地帯から東の草原にも溢れ出て来るでしょうし、今日はスライムを含め、水辺の魔物狩り日和だって討伐の冒険者さんたちで大混雑するんじゃないでしょうか」
「だよね。香草塩の材料の一部は東の草原で手に入れたんだけど、そっちには行きたくないなぁ。北の森でも生息してればいいけど……。とりあえずは、女将さんの依頼を優先でいい?」
「はいっ。それと茸や薬草もいっぱい生えているはずですから、香草を収穫しながら見つけたら採取していきましょうか」
「そうだね」
この世界だと、少しの雨量でも急成長して増えるのは水辺の魔物だけじゃない。植物は全般的に大きく育つそうだし、茸もポコポコ生えてくるらしい。なので雨上がりは採取だけでも稼げるほどなんだとか。
ただ、北の森にもまだ見たことないけど小川はあるみたいで、茸を食べに魔物や野生動物も森の浅い部分にまで出てくる可能性がある。危険も増しそうだから気を付けないと。
「一覧表をみてると、結構、高額買取の薬草や茸もありますし、北の森にはマジックキノコも生えるみたいですよっ。宝探しみたいで楽しそうです!」
「じゃあ今日は、北の森で採取中心にするってことでいいかな?」
「そうしましょう。それとまた、出来れば自分達用のお肉も欲しいですっ。ローザの作ってくれた香草塩を付けた焼き肉の味を思い出すともうっ……出来立ての熱々が食べたくなっちゃいましたっ」
「美味しかったもんね。分かった。命大事に、安全第一には基本だけど、見つけたら積極的に狩ろうっ」
「はいっ、頑張りますっ」
――そういうことになった。
というわけで、大半の冒険者さんは東の草原に行くんじゃないかと予想して、いつもより早めに北門で開門を待っているんだけど……。
深く被ったフードの隙間からこっそり確認してみたところ、地元の猟師さん達らしき人を中心に、もう結構集まっている感じです。ただ、予想通りというか、冒険者パーティーはほとんどいなさそうだね。
なのでリノと相談して、今日は町を出てすぐに森の中に入ってみることにした。
ここから昨日行った果樹がたくさん生えている所……私たちは「果樹園」と呼ぶようにしたんだけど、そこまで採取しながら森の中を進み、帰りは街道を通って帰ってくるというコースで行こうと思う。
――時間になって開門した先は、別世界が広がっていた……。
雨上がりの北の門の外は、想像通りというか様子が一変していたんだ。
森の中に入る手前の街道近くまで、ニョキニョキと大量の茸が生えていてびっくりしたよ。少量の雨でもこんなになるんだねぇ。
早速、森の入口付近まで散らばって、多分地元の人達かな……開門直後に飛び出していった軽装備の人達が採取しはじめている。たくましいねっ。
それを横目に、私達は北の森の中へと入っていく。
今のところ周辺には冒険者パーティーが一組だけいるけど、十分距離もとっている。森の中に入ってきた猟師さん達も思ったより多くなくて、入り口付近のごく浅いところで殆どの人達と別れた。
それでも狩場が被らないようにと気を付けながら、慎重に移動していく。
ここら辺はまだ町からも近く、冒険者の他にも木こりさんや猟師さんが毎日入っている事もあり討伐が進んでいるから、森の中とはいえ比較的安全だし、主要な道は踏み固められているからか、下草も少なくて歩きやすい。
今日は雨上がりの後だしどうかなぁと思っていたんだけど、これなら足場は大丈夫そうです。
そして、一度も魔物とも野生動物と遭遇しないうちにもう、いくつかの香草を見つけることが出来たよ。良かった。
――先に、香草塩用に欲しかったものから採取することにする。
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