第59話 パーティー初戦



 ◇ ◇ ◇




 パーティ結成の話し合いだったはずが、『幸運』スキルの事もあり予想外に時間が掛かってしまい、結局、宿から出たのは開門時間から一時間ほど経ってた。


 予定通りとはいかなかったけど、さっそくリノの希望通り、以前に私が偶然見つけた果樹が沢山ある場所へと向かう事になった。


 北の森の巨木群と北門の間にあって、やや町寄りの方なので、リノに合わせてゆっくりめに移動しても一時間以内に着ける距離だ。


 街道を軽くジョギングするペースで走り、『マップ作成』スキルで確認しつつ、 マーキングに一番近い所まで進んでいく。




 その後、森に入り少ししてから、念のため周りに誰もいないのを『索敵』スキルで確認した上で、自分とリノに支援魔法で『HP回復』と『MP回復』を再び掛け直した。


 支援魔法はまだレベル1なので一時間しか効果が持たないんだよね。リノが途中で動けなくなると大変なので、一緒に行動している間はこまめに掛けることに。


 それと合わせて前回、聖魔法の『浄化』が思いの外、身体の内側まで暖かくなり体が軽く感じた気がするといっていたので、同じ聖魔法の『治療』と共に重ね掛けしてみた。


 私には起きなかった現象なので、リノも自信がないようだったけど、彼女の身体にどれが一番効くかとか分からないから、可能性がありそうなことはもう何でもやってみるってことで意見が一致しているしね。



 ――これで何か効果が出るといいんだけど……。



「MP微量回復」効果付きの自家製ドライフルーツも、定期的に補給しながら移動してるけど、今のところ力が抜けそうな感じもなく元気だとのことなので、このまま森の中を進む事にした。







 今日の目的の一つは、スモールワームの討伐。


 十級冒険者の強制討伐依頼なので、リノの分のノルマを早めにこなしておきたいし、他の魔物より比較的危険が少ないからね。


 果樹の周囲には、昆虫型の魔物の他にも、ポイズンラットやホーンラビット、ゴブリンなんかもいるし、ウォークバードなどの野生動物もいるから、採取にも討伐にも困らない。


 むしろ、たくさんいすぎてエンカウントしまくりになり兼ねないほどなので、彼女の短剣だけっていう装備だと安全性に問題があるから慎重にいかないと。


 という訳で、先にノルマをこなしてから果物を収穫した上で、パーソナルレベルを上げるために他の魔物を倒して行こうか、と話していたんだけど……。



 ――まあ、そう上手く予定通りにはいかない……ですよね!?







『索敵』スキルを使って、魔物を上手く避けながら移動しようとしているんだけど、森歩きは初めてだというリノが極力物音を立てずに忍び足で気配を消しつつ進むっていうのは難易度が高すぎる。


 ここら辺は人の手も入ってないし、草藪も多くて歩きにくいから余計に大変だしね。


 で、やっぱりというかまあ、当然、魔物を引き寄せちゃうって事になり……弱いとはいえ魔物なので好戦的だから、サクッと敵認定されちゃったみたいで……。



 うわわわっ、こっちに気付いて方向転換し、向かって来るよっ。




『索敵』の範囲内にある魔物の反応は、二つの塊があって……。


 近い方のが運良く一体だけなので、先に討伐してしまうことに。



 ――この感じはたぶん、ホーンラビットだ。



 勢いよく近づいてくるので、パーティー戦の相談を詳しくしている時間がない。


 簡単なハンドサインで前方二ヶ所から時間差で来ている事を伝え、簡単な打ち合わせ通り私が先行して聖魔法で足止めをすることに。


 藪がカサリッと揺れ、一直線に飛び出てきた所を狙って……。



聖火ホーリーヒート』!



「キュギャゥッ――!」



 ピカッと、まばゆい光が小型魔物の前面に命中した!


 姿が見えた途端に魔法を放ったこともあり、不意打ちされたホーンラビットが驚きの声を上げ、突進が止まった。

 急に足を止めた反動で体勢が崩れ、トシっと尻餅をついてしまう。


 すかさずそこに短剣を構えたリノが突進し、ザシュっと一撃で倒し切った!


 迷いもなく、全く危なげのない戦いぶりだったよ。


 これがスライムを除くと初戦闘ってことだけど、そんなだとは思えないぐらいの手慣れた感があった。お見事です!


 連携も上手くいったし、 この調子でやっていけそうだね!


 初めての共闘の成果をもっと喜び会いたいところだけど、残念ながらもう次が来てる!


 静かに獲物を拾い上げて背負子に放り込み、次に備えて警戒を緩めないよう、 キリッとした顔を向けてくるリノとしっかりと頷き合う。




 ――魔物の個体数は……六つ。


 連携の確認を安全にするためにも、まずは三体ぐらいの小さな群れから積極的に狙おうと決めていたのに、来ちゃったのは倍の群れだよ……おぅ。


 仕方ない、やるしかないから頑張るけど……今度はポイズンラットだね。


 ここを狩場としている冒険者はほぼいないから増え放題なのか、やっぱり出てきやがりましたよやつらが!


 予定より数が多いし、もう襲い掛かってきた瞬間を狙うしかない。


 さっきと同じ魔法で、でもって威力は倍にして……先制攻撃!


聖火ホーリーヒート』!


 ううっ、ま、眩しい!


 結構広範囲を照らし出してくれたので、群れ全体に魔法を掛けることが出来たみたい。


 私たちには眩しいだけの『聖火』だけど、魔物にとってはこの光は毒みたいで、浴びるだけで弱体化するらしく動きが一段と鈍くなる。

 

 群れであっても機動力が落ちれば怖くない。


 次々とリノの突き刺す短剣の餌食になっていく。


 ポイズンラットは魔石だけ回収出来ればいいので、ホーンラビットのようにきれいに倒そうと考えなくてもいいから、確実に倒す事だけに集中できるのもいい。


 彼女の攻撃を掻い潜ってきた根性のあるやつには、威力の強い水魔法の『水弾』を放ち、確実に倒させて貰った。




 今日からの目標の一つは、リノのパーソナルレベルの底上げにある。


 聖魔法で治療をしつつ階位を上げていけば、魔力が少しずつ増えていくはず。


 だから私は、倒しきるんじゃなくて、彼女に魔物を倒させるために足止め程度の攻撃をすることが大切だったんだけど、ちゃんと出来たみたいでほっとした。


 ぶっつけ本番だったけど、まずは成功したといっていいんじゃないかな?



 ――こうしてパーティーの初戦は、二人とも怪我をすることなく、安全に乗り切ることが出来たのでした。





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