第60話 やる気スイッチ
戦闘後、手早く魔石を抜き取りながら、ポイズンラットを一箇所に集め、いつものように魔法で処分しておく。
『索敵』で周囲を警戒しつつ、接近戦でやっぱり色々汚れちゃってたリノを、短剣を含めてまるごと聖魔法の『浄化』できれいにする。
「お疲れ、リノ。体調はどう?」
「はい、なんか拍子抜けするぐらい大丈夫です。いつもならもうへばって動けないはずなんですけどね。ローザに色んな魔法をかけ続けて貰ってるからなのか、体が軽くて、今日は力が抜けてくような感じが少ないって言うか……」
うんうん、効果があるっぽいね。私も支援魔法や聖魔法の練習になるし、積極的に続けていこう。
「そっか。よかった。何かちょっとでも体調に異変があったらすぐ教えてね、魔法をかけ直すから」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
「うん。じゃあ移動しよっか」
「そうですね」
初戦を無事に乗り切ったとはいうものの、ここは弱いとはいえ多くの魔物が徘徊している危険地帯。
素早く終わらせたけど、戦闘があった場所に長く止まるのは危ない。
改めてマップで方向を確認して、再び移動を開始した。
――それにしてもリノは、初戦から躊躇なく魔物を倒せてたね。
その後も目的地にたどり着くまでに何回か戦闘になったけど、さすがこの世界の生まれと言うか、魔物とはいえ生き物を倒すって事に対する忌避感みたいなものはないみたい。
むしろ魔物は害悪なので、進んで倒すべしみたいな気迫すら感じられた。血を見ることにも耐性があるしね。
『解体』スキル持ちだし、私よりずっと生々しい肉処理とかを小さい時からしてたんだろうな……生きてきた環境が全然違うんだってことを実感したよ。
◇ ◇ ◇
ようやく木々の隙間から、果樹がポツポツと見えはじめる所まで来た。
固まって生えている場所もあるけど、そこまで行くと当然昆虫型の魔物が多くなる。手が出せない可能性があるので、他から離れていてスモール・ワームだけが群れている果樹を、手分けして見つけることに。
しばらくそうやって探していると……。
――見つけた。
ちょうど条件に合う樹で、よく見ると前の時と同じくウルルの樹だった。
またすごい数が群がっているけど、やっぱりこの果実が好きなのか。大きくて瑞々しくて食べ応えがあるもんね。まあ私も美味しいから好きだけどもさ。
「ローザ、急ぎましょう。早くしないと全部食べられてしまいますっ」
モリモリと食べられていくのを見たリノが、焦ったように言った。 まあそういう反応になるよね、あれを見たら。
うんうん分かるよ。私もそうだったし、君もこれ大好きだもんね、特にドライフルーツにした、甘み増し増しのやつが。
「わかったけど、冷静にねっ。まず、私が風魔法で落とすから、リノが止めを刺すっていう作戦でいい?」
「はいっ。それで行きましょうっ」
めっちゃ気合の入った返事が返ってきた。 スモール・ワームはリノさんの天敵みたいなもんだね、これは。頑張ってもらいましょう!
――では早速、風魔法を使っていきますか。
まだ覚えたてで、スライム討伐の時しか実戦で使ったことがないけど、でも威力こそ弱いものの、命中したら軽く吹っ飛ばせるくらいはある。
前にスモール・ワームを倒した時は水魔法を使ったけど、今回とどめを刺すのはリノだから、そんなに強い魔法はいらないし。
よし、じゃあ行くよ!
『
時間差で次々と魔法を放ち、木の上から吹き飛ばして行く。
ボトボトとウルルの実と一緒に転がり落ちてきたスモール・ワームは、衝撃で死んでしまったのもあるけど、まだかなりの数が弱々しくウゴウゴと動いている。
リノがすかさずコロコロと転がっていくやつを追いかけては、一体ずつ短剣で止めを刺してまわる。
元々、先程討伐したポイズンラットよりも弱くて動きが遅い上に、風魔法でフラフラになってる今なら、急所を確実に倒す練習をするのにもちょうどいいからね。頑張って全部仕留めてもらおう。
「よし、これで終わりです!」
「お疲れ様。じゃあこれ、袋詰めして行こっか」
「ですね! それにしてもすごい数……こんなにいたんですねぇ」
辺り一面、黄色とピンクのモコモコだらけになっているからね。
ざっとみた感じ、三十体以上は軽くいたんじゃないかな?
スモール・ワームとウルルの実を、二人で手分けして詰め込む。残念な事に、一緒に落としたウルルの実は大半が齧られてたり、痛みが激しかったりしたので、少ししか採取できなかったけどね。
樹に残っているやつも、上の方とか枝先とか、結構慎重に登らないと危なそうな所にポツポツと残っているくらい。
強制討伐依頼も達成できたことだし、次はリノの希望する、採取依頼を兼ねた果物狩りをする訳だけど、この樹はもう辞めといた方が安全かな?
討伐の後始末をしていたら、またまた汚れちゃったので、聖魔法の『浄化』で二人ともきれいにしてから、ちょっと離れたところで休憩することにした。
さっき採ってきた、売り物にはならない、少し痛みがあるウルルの実を、それぞれでナイフで剥いから、早速食べる。
桃の果汁を搾ったものにレモン水を入れて薄めたような味で、喉が渇いているときには濃厚すぎず、ほどよい清涼感もあってちょうどいい。
「採れたてはこんなに瑞々しいんですねぇ、美味しいです。そういえば、今朝いただいたドライフルーツにはウルルの実の他にも色々入ってましたよね? この辺りで採れるんですか?」
「うん。この黄色いのがトゲトゲベリーの実、こっちのがポポの実だね。もう少し森の中に入った所にあるよ。このところあまり採取してなかったから、ドライフルーツ用のを二人分、集めようと思ってるけど」
「はい、私も頑張って採ります! それであの、さっき取ってきたウルルの実、ドライフルーツ用にするにはちょっと量が心もとなくないですか? もっとほしいなぁ、と。収穫してきたいんですけど……ダメですか?」
「いやでもあれ、残っている場所が結構採るの難しそうで危なくない? リノは木登り得意なほう?」
「どうでしょう? 村にはここまで高い木はなくて登ったことないから分かんないですけど、普通に木登りは出来てましたし、多分行けると思います! それにせっかくここまで来たので、もぎたてのキレイな実をその場ですぐ、まるごと食べてみたいんです!」
さては最後のが本音だね!? ほんと食べ物が絡むとすぐやる気になっちゃうんだからっ。
でもまあ初めての討伐でいっぱい頑張った後だし、身体の調子がいい時間が続くのも嬉しいっていうのもあるのかも……休んでても動きたくてウズウズしてるって感じだったし。
息抜きに、それぐらいのご褒美があってもいいか。私も木登りなら慣れているし、何かあったときにも対応出来ると思うし。
「分かったよ。じゃあ私も一緒にやるね」
「はいっ」
高い樹に登るの初めてだっていうし、テンションが変に上がってる気がして心配だから、二人で採取することにしたんだけど……。
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