第58話 『幸運』スキル
『幸運』スキルの何がまずいのか、考えてもわかんないから、もうリノに直接聞いちゃおう。
「それが、どうかしたの?」
「…… もしかして、知らないんですか? 『幸運』スキル持ちが狙われるってこと」
「ええぇっ、なんで!? 単に幸せを運ぶスキルなんじゃないの? 狙われるって、それもう『幸運』仕事してないじゃん!? っていうか……さ。わ、私も、持ってたりするんだけど……これって、私も狙われちゃうとかそういう……」
「う、嘘でしょ!? ローザ本当なんですかっ」
顔をグッと近付け、私の両肩をガシッと掴んで揺さぶりながら、声を潜めて叫んだ。器用ダネ。
って、近い近い近いっ!
「う、うん。そうだけど……何々っ、やっぱりそんなにまずいの?」
「っ、本当なんですね……。いいですか? よく聞いてくださいねっ。庶民にとっては迷信レベルの話なんですが、昔から、欲深い権力者たちにはまことしやかに信じられている噂があるんです」
おでこがくっつくぐらいの距離で、誰にも聴かれないように、囁くようにして教えてくれる。
――曰く、『幸運』スキル持ちと一緒にいるだけで恩恵にあやかれる。
――曰く、『幸運』スキル持ちと協力して魔物を倒すと、経験値が倍増し、運が上がり実力以上の魔物が倒せる他、パーソナルレベルやその他のスキルにも恩恵があり、『幸運』スキルまで獲得出来る。
――とかなんとか。
さらに、一人よりは二人、二人よりは三人と、スキル持ちを多く手元に集めると、集めたぶんだけの相乗効果が期待でき、運気も倍増するらしい。
ええぇぇぇぇ――?
何それ、もしそれが本当ならチートじゃん!?
――う~ん?
でも、例の白い部屋の人を信じるなら、努力すれば報われるっていうこの世界で、なんかそういうのって……。
「そんな効果、本当にあるのかなぁ? ちょっと都合よすぎるっていうか、嘘臭くない?」
「ええ。大体、一緒に行動しただけで『幸運』スキルが取れるのなら、今頃この世界には『幸運』スキル持ちで溢れかえってますよきっと。私にそのことを教えてくれた神父様はそうおっしゃっていました」
「うん、私もそう思う。そうなってないってことが、噂に根拠がないと証明してるようなものなのにね」
「はい、その通りです。実際は、普通の人よりちょっと運がいい程度で、そこまで劇的な効果はないと言われています。ただ欲に取り憑かれた人間が最後に求めるのが、その『運』だということで狙われちゃうんですよね。……なのでそのぶん余計に危ないって」
金と権力にものを言わせて、 力づくで来そうだもんね。うわぁ、確かに見つかるとめんどくさそう。
「なるほど。そういう人は自分に都合のいいことしか信じないだろし……過剰な結果だけを求めていそうだ」
「はい。それに『幸運』スキル持ちにも権力志向が強い人もいるから油断出来ません。その情報を武器にして売り込みに行く人もいますし。婚姻とかでも大人気ですしね。だから同じスキルを持っているからといっても信用できない所がまた、余計に厄介なんですよね」
――『幸運』スキル持ちも必ずしも味方ではないって事と、権力者に見つかると厄介だっていう意味も、よ~く分かりました。
「一応確認だけど、この事は二人だけの秘密にして権力者や同じスキル持ちには近づかないっていう方針でいいかな」
「賛成です。それに、こうなったら一緒にいる方が安全かもです。『幸運』スキル持ち同士だと少しは相乗効果がありますし、協力してさっさとレベルアップしちゃいましょう! その方が不運をはね除けてくれる力も手に入りやすいんじゃないかと……」
「そっか、分かった。じゃあなるべく一緒に行動しようか」
「はいっ、そうしましょう」
それからリノと、他のスキルについても情報を共有しようと話し合った。
私が『鑑定』スキルを使えることも話して、本人の了承を得たうえで、彼女のステータスを確認する。
種族 人族
名前 リーノ
年齢 15才
武術スキル 『短剣術Lv1』『棒術Lv1』
魔法スキル
身体スキル 『魔力感知Lv1』
『暗視Lv1』『幸運Lv1』
『味覚強化Lv2』『嗅覚強化Lv2』
技能スキル 『解体Lv1』
私と比べると少なく感じるけど、リノに聞いたところ、このスキルの数とレベルは、人族の新人冒険者としては平均値らしい。
住んでいた村にも『鑑定』を使える人はいたようで、最後に確認した時から新たに『棒術Lv1』のスキルが取れていると喜んでた。
私が魔術に特化しているから、リノに武術スキルが二つもあるのはありがたい。
でも、棒術が取れてた理由って……思い当たることと言えば、あれかな?
昨日、スライムを長剣で突っついて倒したやつ。あれは棒じゃなくて長剣だったけど、実際に魔物を倒す方がスキルとして取れやすいっていうし。
と言うことは、やっぱり長剣も使い続けていれば、『剣術』スキルが生えてくるかもしれない。なので、ゴブリンソードは当分の間、リノに使ってもらうことにした。
そして、やっぱりあった『味覚強化Lv2』と『嗅覚強化Lv2』。
何気にレベルも一番高いし、まあこれは納得のスキルなんじゃないでしょうか。
魔術スキルに関しては、魔力が少ないので一旦おいておき、基本魔法を覚える事を優先させることに。
『魔力感知Lv1』が取れてるし、残り三つの基本魔法は今、手元に教本があるからね。
貸し出し期間もあと九日間あるし、出来るだけその間にマスターしようということになった。
なので、当面のパーティーとしての方針は、まず魔物を狩ってパーソナルレベルを上げるのと、お互いに出来る事を教えあって、新規スキルを増やす事に決まった。
――なんだかまたまた忙しくなってきましたよ!
確か私、休日を適度に挟んで仕事するって、一度は決めたはずなんだけどなぁ……。
『幸運』スキルの取り扱い事情を聞いちゃったらそんなこと言ってられなくなってきたし。
それに昨日、短剣を買ったリノの、今日の宿代がない事が判明して……もう頑張ってたくさん稼ぐしかない状態に追い詰められちゃってるというかね!?
――ううっ、どんどん休みが遠ざかっていくよぉ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます