第57話 信頼

 



 ◇ ◇ ◇




 翌朝、約束通りにリノが宿まで来てくれたので、部屋に入ってもらった。


 ちょっと色々人目につかない所で、やりたい事や相談したいことがあるから、開門より前に来て貰ったんだよね。




 まずはいつものように、聖魔法で『治療』して、支援魔法で『HP回復』と『MP回復』を重ね掛けしておく。


 あと今日は森の中に入るので、聖魔法の『浄化』も合わせて掛けておいた。魔物も野性動物も臭いに敏感だからね。消臭までしてくれる『浄化』って、本当に優秀。


「やっぱりすごい。さすがエルフですね……こんな簡単に『浄化』まで使えるなんて! 私も村にいる時、生活魔法の『洗浄』を練習していましたけど、残念ながら威力が弱くてあんまりきれいにならなかったんですよ……。それに、これって体の内側にまで作用するんですかね? すっきりとして体が動かしやすくなってる気がします!」




 リノのいた村には、お風呂の設備がある家は滅多に無いらしい。生活魔法の『洗浄』は、『着火』、『浄水』と並んで人気のある魔法だったらしい。


 教会が衛生環境を改善する為にと無料で教えていたこともあり、けっこう普及しているとか。


 ちなみに、冒険者の生存率を上げるのにも必須の魔法なので、冒険者ギルドでも同じく無料で教えてくれる。


 その事が冒険者のイメージアップにも繋がり、清潔で長期滞在してくれるからと、宿屋では歓迎されるようになったらしいよ。


「よかった。でも私は体の中まで魔法が掛かったって事は感じなかったなぁ? 毎日『浄化』してるんだけど……」


「そうなんですね。じゃあ、私の気のせいかも知れませんね……?」





 それから、MP微量回復付き自家製ドライフルーツも、途中で魔力切れで倒れないように、今日の分を追加で渡しておく。


「わあぁっ、いつもありがとうございます! これ、お店で買うとすっごくお高いんですよっ」


「そうなの?」


「はいっ、ローザから頂いたのがあまりにも美味しくて、あの後もっと食べたくなってお店のを購入したんです。 普通に買う果物の三倍から五倍ぐらいの値段が付いてましたっ」


「へぇ、そんなにするんだ。あんまり町歩きしてないから知らなかったよ。長期保存出来るから、とかなのかなぁ?」


「ですかね? でもローザのって、買ってくるのよりずっと美味しいんですっ。旨味がギュっと凝縮されているっていうか……あっ、そうだこれ、食べてみてください。食べ比べてもらおうと思って持ってきちゃいました!」


 そう言って、買ってきたドライフルーツの入った小袋を手渡してくれた。中には私が前にあげたのと同じ、ウルルの実をドライフルーツにしたものが少量入っている。


 これ、天日干しして作ってるんだよね。となると手間暇かかってそうだし、 日光も浴びてるだろうから栄養価も高そう……。


 そう思って『鑑定』してみたんだけど……。


 ……あれ?


 付加価値が、ついてない……。勧められるままに一つ食べてみたけど甘味もそれほどでもない、ような?




「じゅるりっ。どうですか? やっぱりローザのが美味しいでしょ?」


「う、うん。そうだね。あ、これありがと」


 ハイハイすぐ返すからね、ヨダレ出てるよっ。君は人が食べてると我慢できなくなっちゃうのかい?


 返した小袋を受け取ると、すぐ食べ始めちゃった。


「やっぱりそうですよねっ。う~ん、これもいいんですけど、ローザから頂くより美味しいドライフルーツを知ってしまうと、ね。だから今日の果物狩り、とっても楽しみにしてたんです! いつも貰ってばかりじゃ申し訳ないし、自分でも作ってお返ししたくて。どうやって作ってるんですか?」


 ううぅっ、そんなに目をキラキラさせて期待されると、とっても答えにくいんだけど……。


「う、う~ん、あのね、教えるのはいいんだけど……これ全部、魔法を使って乾燥させてる、から、さ。完成までにたくさん魔力を使うんだよね」


「ええっ、これを全て魔法で!? そ、それはちょっと予想外でした……。エルフならではの贅沢な魔力の使い道、ですねぇ。じゃあ、私には作れないや。残念です……」


 ああっ、しゅんっとしちゃった。




 まあ確かに、普通はこんなことに魔法を使わないかもしれないけど……。


 私の場合、この世界に突然ほっぽり出されて以来、魔法しか頼れるものがなかったからね。止むに止まれずって感じで、何でも魔法で無理矢理解決してきたからさ。


 保存食作りも、荷物を軽く小さくするために仕方なくやったんだけど、それが思いの外いい結果になっただけで……。




「ドライフルーツは、魔法の練習の為に作っているっていうのもあるから。それにこれはリノの体質を改善出来るかもしれないという、治療の一環でもある訳だし…… そんな落ち込まないで?」


「でも…… 本当にいいんでしょうか。魔法を教えていただく事もそうですし、こうして食べ物の差し入れも毎日のようにしていただいていますし……。私、お金とか対価を一度も支払ってないです……」


「まあ、これからはパーティー組むんだし、リノが強くなれば私も助かるんだから、ね? 気にしないでっ」


「はい……ありがとうございます。あの、今すぐは無理ですけど、私もいっぱい修行してローザを守れるくらい強くなるように頑張りますからっ。それまでは身の回りのお世話とか、私が出来る事なら何でもしますから言ってくださいね」


「ありがとう。でも干し肉の作り方とか教えてもらったし、何にもしてないってことはないから。よかったらまた、村での暮らしぶりとか、人族の習慣とかを色々話してくれるとうれしいな。よく知らないからさ」


 信頼できる現地の人の生の声って、目立たず生きていきたい私としてはとっても大切。身の安全を計る為にも、小さなことでも教えてもらいたい。


「そんなのでよければいくらでも話しますっ」


「うん、よろしくね」




 ちょっと脱線しちゃったけど、それよりも今は一度ちゃんと話し合って、確認しとかなきゃいけないことがある。


「今さらなんだけど、ちゃんと確認しておこうと思って。なし崩し的にパーティー組むことになった訳だけど、リノは本当にそれでいい? エルフの私と組む事で、これから何か不利益を被るかも知れないよ?」


「そんなのいいに決まってます! ローザはこの町に来て、一番最初に手を差し伸べてくれた恩人なんですよ。それに現状、どう見ても私の方がお荷物になってますよね? ローザこそいいんですか私で」


「うん、私は実力とかよりも信用できる人と組みたかったから……リノなら信用できるし一緒に冒険したいと思った」


「……ローザ、うん。私も一緒ですっ、パーティー組みたいです! でも、私もこの体質以外に秘密にしてた厄介ごとがあるんです。家族以外誰も知らない事が……だからローザもそれを聞いてから、もう一度考えて答えを決めてください……」



 膝の上でぎゅっと手を握って、決心したようにまっすぐこちらを見た。



「信用してもらったので、私もローザを信じて秘密をお話しますね。実は私、『幸運』スキルを持ってるんです……」


 ………………。


 うんっ? 


 リノは深刻そうだけど、ちょっとよく、分からない……?



『異世界知識』には、『幸運』スキルが不利益を被るって、そんなの載って無かったよ?


 ただの「運」じゃなくて「幸運」なのに…… 単に幸せを運んでくれるラッキーなスキルって言う認識じゃダメってことなの?



 この世界では私の知らない、何かまずい事があるって言うこと――?





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