第54話 スライム講習会・前編



 お昼近くなったので、シルエラさんにお礼を言って本屋さんを出た。彼女に指導してもらったことで取れた、『風魔法Lv1』のスキルというオマケつきで……この短期間でスキルが一つ増えちゃったよ。


 同族だというだけで、初対面の私にスキルが取れるまで一生懸命教えてくれて、もう本当感謝しかないよ。




 話のついでに、水玉茸の効能についてもちょっと教えてもらえたんだ。


 簡単に言うと潜在的な能力を引き出し増幅するという補助アイテムっぽいです。成長の邪魔をする蓋を外すようなイメージなんだとか。


 能力値が上昇する事で技能値も上がり、攻撃魔法である四属性魔法のレベル上げには直接反映されないものの、経験値が入るのと同等の効果がある。その為、精度や威力が増す効果があるとの事。


 その他にも同属性であれば、工夫と努力次第で色々と攻撃魔法以外の魔法がスムーズに出来るようにもなるらしい。


 その人が持つ総魔力量にも多少は左右されるが、努力を続けていても結果が結び付いていない人ほど、大きく結果が出る。


 ……ってこれは……ねぇ、リノにぴったりのマジックキノコじゃない? 努力を認めてくれるアイテムなんて素敵……。


 だけど残念ながら、もう全部食べちゃって手元にないんだよねぇ。採りに行きたいなあ。ちょっと遠いけど場所はマークしてあるからすぐ分かるし。


 それか、二ヶ月後にやって来る雨の月には、草原も森も街中でさえ茸がにょきにょき生えるという茸祭り状態になるらしいから、その時まで待って、一緒に茸狩りするのも楽しいかもね。


 今の狩場のテリトリー内にも、水玉茸が生えてくるかもしれないし!


 普通の茸だけじゃなくマジックキノコもいつもよりたくさん採れるらしく、雨降りさえ気にしなければ稼げるってシルエラさんも言ってたし。




 ただ、雨の日に泥まみれになって仕事するのは危険だから、余裕があればその期間中は休業する冒険者もいるみたい。


 それにその後に暑い夏が来る事もあり、さっさとこの町から出て、ダンジョンのある迷宮都市に稼ぎに行ってしまう事が多いので、冒険者が更に少なくなるんだとか。


 そういう事情もあって、宿屋も空室が多くなる時期なんだって女将さんも言ってた。


 この町から一番近くにあるダンジョンは、町から中途半端に遠い上に、強い魔物が跋扈する南の森の奥にあるので、たどり着く迄が大変であまり魅力がないみたい。

 ダンジョンなのに、倒した魔物の魔石くらいしか手に入らないらしいし。


 普通のダンジョンだと、気温はなぜか一定だから冒険するには快適で、そこでしか手に入らない希少で高額買取になりそうなお宝もいっぱい出るから危険はあっても稼げるので人気だそう。


 一番死亡率が高いというのによくそんなところを冒険する気になるよね?


 ――あっ、冒険者だから冒険するのは正しいのか!




 この町に残って茸狩りするのは楽しみだし待ち遠しくもあるんだけど、問題はもちろん漏れなく茸の魔物も大発生するらしいこと!

 ついでにカエルの魔物やスライムなんかも、やたらとウジャウジャ増えるらしいよ!


 茸とカエルの魔物の方は美味しく食べられてるので、雨の月の常設依頼になってるみたいだけど、でも大量のカエルとか相手したくない!


 どうせまたすっごく大きいんでしょ!?




 ――そういえばまだ、北の森ではスライムを一度も見てない。


 生息地は水場じゃなきゃ駄目ってこともないのに、どうしてなんだろ? 森の掃除屋とも呼ばれていて、屍肉の処理をしてくれるとてもありがたい魔物のはずなのに、こうも見かけないことってあるのかな。


 そりゃ水場の方に好んでいるそうだけど。水分が大好きで雨の月になるとねずみ算式に増殖もするらしいけど。

 う~ん、そういうのも「スライム講習会」で教えてくれるのかな?



 しばらくはこの町にいるつもりだし、雨対策を考えないと。雨の月に間に合うように魔法で『防水』とか出来ないか、今度、シルエラさんに聞いてみようか……。



 よしっ、では昼食を食べてから、冒険者ギルドに行きますか!




 ◇  ◇  ◇




 正午になったので、冒険者ギルドにやってきた。


「スライム講習会」は主に新人冒険者向けの講習というだけあって、参加人数は私も含めて五人とちょっと少なめ。女性は私とリノだけで、あとの三人は人族の男の子だった。


 まずはギルドの二階にある研修室での座学からスタート。


 お昼のこの時間に手が空いているギルド職員から、スライムの基本的な講義を受ける。




「それでは皆さんお揃いですので、早速ですがスライム講習会を始めたいと思います。主な内容は基本的な倒し方と、素材としての利用価値についてです。これが終わりますと東の草原で実際にスライムを倒して、素材を取ってきていただきます」


 講義内容をいくつか要約してみると……。




 ・生きている内は素手で触ると皮膚が溶けるので触らない


 ・物理攻撃よりは魔法攻撃の方が効きやすい


 ・素材をとる場合、一番スライムに効くのは、物理攻撃はだと突き技で、魔法攻撃だと風魔法


 ・逆にスライムに効かない物理攻撃は斬撃で、魔法攻撃だと水魔法が一番危険で使えない




 ――と、いうことらしい……なるほど。




 シルエラさんの助言通り、風魔法を滑り込みで覚えておいてよかったっ。


 物理攻撃はおいといて、風魔法以外の属性魔法がなぜ駄目かというと、スライムを倒し魔石をとるだけならいいけど、素材をとる場合は肉体(体液?)が残らないかららしい。


 火魔法だと熱で蒸発しちゃうし、聖魔法も浄化されてしまい溶けて消える。土魔法を使うと細かな砂の粒が入ってしまい綺麗な素材が取れない。


 という訳で、討伐した後の素材を良い状態で手に入れるためには風魔法が一番いいとの事。



 そして水魔法がなぜ一番危険かと言うと、スライムに魔力で作成した水を与えることになり、栄養剤をあげるようなものでより元気になっちゃうから。『水吸引ウォーターアブソープション』だと素材に必要なスライムの体液まで吸い出してしまうため駄目だそうだし。




 普通にスライムを狩っても、魔石だけ残し素材は消えてしまうけど、上手く獲ると溶けずに残る事が偶然分かってからは、スライム素材の利用価値が年々高まってきているらしい。


 薄く伸ばして窓ガラスの代わりにしたり(本物のガラスより安くて割れにくいから庶民には人気らしい)、 地球で言うところのビニールや、プラスチック代わりにと幅広く使える事が分かってきたため、常に供給不足でいくらあっても足りないんだそう。


 こうしたスライムを使った技術革新は最近になってようやく進歩し、その利便性から今、都市を中心に爆発的に広がり需要が増え続けている。


 養殖の試みも何度もされたそうで研究が続いているけど、何故か人の手で育てられず成功例はまだないんだとか。すぐ死んじゃうんだって。


 なので、スライム素材は今のところ天然物しかなく、供給不足で素材の買い取り価格は高騰している。


 上手に素材として獲れると稼げる魔物になり、大繁殖する雨の月の討伐数だけで、庶民が一年暮らせるほどの金額を稼ぐことも可能になった。




 冒険者ギルドとしてはこれを好機と捉えており、素材の確保と新人冒険者の救済の一挙両得を狙っている。


 最初期の死亡率を下げる為の十級冒険者の依頼の中でも、冒険者じゃなくても倒せる弱い魔物で、安全で高額なものは中々ないので、これでまず資金を稼ぎ、装備を整えてスムーズにステップアップしてほしいと考えたみたい。


「スライム講習会」はその為のシステムなので、十級冒険者は参加するだけで冒険者ギルドから50シクル支払われる上に、昇級ポイント10点が貰えるというお得感を出して、駆け出しの冒険者を釣り上げている。



「それでは皆さん、これを踏まえて、次は実戦の方を頑張ってください」


「「「はいっ、ありがとうございました!!!」」」



 これで、前半戦……ギルド職員による約三十分間の講義は終わった。





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