第50話 再び迷いの魔樹・前編
先に迷いの魔樹から討伐する事にした。
ここら辺に根を張っているのは、まだ若い迷いの魔樹みたいで少し小さく目的の為にもちょうどいい。
魔力感知の精度を上げる練習をしていきたいと思っているからね。
同じような大きさのが何本か点在しているし、火魔法の一撃で倒していきたいから、魔石を造り出す核である魔物の心臓を狙いたい。
そこが一番魔力が濃い場所だから……。
幹の真ん中辺りにある事までは分かっているので、正確な場所を見つけられるように、集中力を研ぎ澄ませて魔力を感じ取ろうとする……んだけど。
……う~ん?
やってみてもこう、中々これっていうのが掴めないと言うか、掴みどころが無いというかね!?
魔樹全体から魔力を感じるもんだから、それの一番濃い場所っていうのが分っかんないんだよねぇ……あぁっ、難しい!
『索敵』で警戒しながらも、時間を掛けて魔力を探っていく。すると、幹の方に感覚が引っ張られる気がしてきた。
尚もそれを深く追っていくと……何となく、本当に何となくそんな気がする程度だけど、核のある場所が分かるような……?
それでも範囲が広いので、私が使える魔法の中で一番、広範囲攻撃の魔法を使ってやってみることにした。
『
――どうだ!?
着弾はしたけど……あ、失敗みたい……。
根っ子が蠢こうと準備し出したし、顔のような木の洞もまさに今、浮かび上がろうとしている!
ううっ、そこだったのか。後ほんのちょっと右側だったんだね、惜しい!
でも、暴れ出す前に次弾を打てるよう、こっちも用意してあったから!
『
ドシュッと音を立てて飛んでいった火矢が、弱点の木の洞に吸い込まれていく。
と、同時にピタリと動きが止まった……。
はい、今後こそ討伐出来ましたっ。良かった!
練習あるのみ、次々いこう。
周辺にある迷いの魔樹を順番に魔力感知して探り対処していくものの、やっぱりそうそう上手い具合には倒せないよね。
それでも一撃でノックアウト出来たのもあったり、残念ながら倒し切れなかったりもしながら、少しずつ魔力感知のコツを掴もうと頑張ったよ。
その甲斐あって、最後に倒した迷いの魔樹は狙い打ちした一撃で討伐できたはずっ。
……まぐれじゃ無いことを祈ろう、うん。
全部は討伐出来なくてまだあるけど、果物も採りたいし残りはまた今度にする。
果樹の群生地の方へと移動すると、何故か先日より飛行型の魔物が少なかったおかげで、色んな種類の果物が手に入れることが出来たよ。
パンの実やポポの実、ウルルの実の他にもこの季節だけ採れる新鮮な果実が採れたのは嬉しかった。
北の森から戻った後には、東の草原で虫根コブ草をきっちり採取してから、冒険者ギルドに行った。今日の分の精算をして貰う。
その中で、一番色が濃くて大きい、迷いの魔樹の魔石を見ると、エドさんの顔が少し険しくなった。
「ローザさん、これはどちらで討伐されたものですか?」
え、そんな深刻そうな顔で……なんかまずいの?
「……北の森の巨木群の手前で、いつも活動している場所より少し、森の奥へ入った場所ですが……あの、どうしてですか?」
「少し確認させて頂きたい事がありまして……討伐の際にスモールトレントを見ませんでしたか?」
「スモールトレント?」
「ええ」
スモールトレントとはトレント型の魔物が生み出す分裂体の総称で、小さいうちは宿り木のように本体にくっついて魔素をもらい、ある程度成長するとポロリと剥がれ落ちて、自立して動き出すという魔樹なんだとか。
大きさはちょうどゴブリンぐらい……1mほどの大きさらしく、自立してからは成長のために、魔素の濃い場所を求めて森の中をあちこち移動するらしい。
大抵は親樹と同じ種類の魔樹に進化するみたいだけど、吸収する魔素の種類によっては別の種に変化することもあるんじゃないかとも言われていると教えてくれた。
「迷いの魔樹からこれほど大型の魔石が取れるようになると、その分裂体を造っている可能性が高いんですよ。親樹が倒されると、それまで擬態して寄生していたスモールトレント達があっという間に逃げていくか、与し易いと判断されると一斉に襲いかかってくるんですが……」
「ええっ、そうなんですか!?」
なにそれ怖い。あの魔樹にはいなくてよかった! トレントってそうやって増殖していく事もあるんだ。
「はい、ちょっとソロだと厄介なんですよ」
「成る程。……あの、私はその迷いの魔樹を一撃で倒したんですが、その時何かが分裂して離れていくようなことはありませんでした。後始末も魔法できちんとしておきましたので、大丈夫だと思いますけど」
それを聞くとエドさんはほっとしたような顔になった。
「では、今回に関しては分裂体が発生する前の状態だったのかもしれませんね。素早く対応して頂いてありがとうございました」
他にも巨木群の周りの状況について、何か変化はなかったかも聞かれる。
スモールトレントはまだ一度も見かけない事、見つけた魔樹はまだあるけど、全部は討伐しきれていないことを伝えた。
「ローザさん、明日も今まで通り報奨金を上乗せしますので、今発見されている分を討伐していただけませんでしょうか?」
「え」
早めに討伐してほしいとお願いされちゃったよ。
えぇぇぇっ、でも明日はやだっ。
この世界に来てから働き詰めだから、金銭的にも少し余裕ができた今、一日お休みしようと思ってたからね!
「どうかお願いします。魔素が濃い場所に根を張った個体がいた場合、一日過ぎると思わぬ成長をする可能性があるんです。そうなると一気にスモールトレントを増やさないとも限りませんので……」
「そ、それは、分かります……けど」
……でも、もう休日モードになってたんだもん。
そのために今日いつもより長い時間、頑張ったんだから。
エドさんによると、他のベテラン冒険者達にももちろん頼んでいるそうだが、やはり種族的に人族よりもエルフの方が迷いの魔樹を見つけ、討伐するのが段違いに上手いとのことで重ねて依頼された。
「新人のローザさんにこんなお願いをするのはギルドとしても心苦しいのです。ですが、広大な周辺の森を探索するには深刻な人手不足が続いておりまして……助けていただけませんでしょうか?」
……はぁ、エドさんに頭まで下げられちゃったらもう断れないよ……お世話になっているし。
「……分かりました。北の森の外周付近だけでいいのなら頑張ります」
「ありがとうございますっ」
虫根コブ草の緊急依頼は一旦中止してもいいので、当分は迷いの魔樹の殲滅に専念してほしいとも言われた。了解です。
――あぁ、初めての休暇よ、さようなら~。
とっても嫌だけど、町の安全の為、明日も仕事しま~す……シクシク。
緊急依頼だし仕方ないんだよ……頑張れ、私。
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