第36話 スモール・ワームとの遭遇
――虹色の樹の群生地から町に向かって、行きとは別の道を通って進んでいく。
この広い森の中を早く把握しておきたいから、出来るだけ同じ道を通らないようにしているんだ。
『マップ作成』スキルがあるので初めての所でも迷わないしね。その強みを活かしたい。
太陽も遮られ見通しの悪い森の中では、普通は方向感覚が狂うけれど、私にはスキルがあるから短時間で把握できるし。
昨日の虫根コブ草のようなお得な薬草や薬樹、マジックキノコなどの生息地を見つけたい。いくつもマークしておければ採取でも効率良く稼げるかもしれないから。
本当にスキルって、便利。レベル1でも持っているといないのとでは全然違うと思う。
でも、『索敵』や『鑑定』といった実用的で即戦力としてフル活用出来るスキルを複数持っている人って、あまりいない気がする。
経験値が高そうなスキルだし、習得までの時間がかかりそうだから……。私は自分で好きなのを選べたけど、普通はそんなことできないしね。
この世界の住民のスキル構成が分からないから何とも言えないけど、狙ったスキルを全部取れるわけでは無いだろう。最初の一歩というか、スタート地点はかなり恵まれていると思う。
ここで慢心せず、安全性を高めるためにも、もっと色んなスキルが取っていこう。
――行きと同じように、外周に近い森の浅い場所を順調に進んでいる。
強い魔物はやっぱりここら辺には出てこないみたいで、『索敵』で表示されるのは予定通り弱い魔物ばかりでほっとする。
レベルは上がってないけど、今まで倒してきた魔物の種類を大分見分けられるようになってきて、スキルの成長を感じられてうれしい。
使用中は、自分に第三の目があるような不思議な感覚なんだけど、それにも慣れてきた。
ゴブリンの他にはホーンラビットやポイズンラットなどがいて、旅してきた森とそれほど種類は変わらないから、把握しやすいのも助かっている。
出てくる魔物を確実に倒しきり、魔石を回収していく。
何回か同じ事を繰り返しながら進んでいると、行きにはなかった果樹が多く点在してる場所に出た。
少し別のルートを通るだけで、こんな美味しそうな所があったとは! 採取依頼の出ている果物も『鑑定』すればありそうだなぁ。
――果樹園でもないのにこの数は凄い。
近くには初めて見る、ハニー・ビーやビッグ・フライなど昆虫系の魔物がたくさんいて、その大きさと色鮮やかさに驚かされる。
ハニー・ビーなんて蜂蜜色で、飴細工みたいに艶々としている蜂の魔物だけど、なんかやたらと周りにいい匂いを振り撒いてるんだよね。
大きいのにあんまり怖さがなくて逆に困るというか。 戦闘意欲が削がれちゃうよ。
美味しそうな名前のビッグ・フライは、でっかい蝶の魔物。ピンクに黄色の網目模様で、全体的にもふもふした体毛に覆われてるんだ。
これも見た目だけは乙女チックというか……あざといメルヘンカラーで、とっても愛らしいんですけどっ。
――そしてついにはヤツとも遭遇してしまったよ……。
スモール・ワームの現物に……巨大化した、いもむし型の魔物の。
でもその見た目がですね……予想外というか!?
うっかり可愛いって思っちゃったんですよ、大きないもむしなのに!
こっちはビッグ・フライとは反対の配色になっていて、黄色にピンクのシマシマだったっ。
モフモフでふっかふかの体毛、丸っこい寸足らずのフォルムなんて卑怯だって。
こんなのかわいいって言うしかないじゃん!?
なんかここにいる昆虫型の魔物って、みんなデフォルメされた愛らしいぬいぐるみみたいな見た目なんだよね。
配色もファンシーだし、あんまり昆虫っぽさも魔物っぽさもなくないこれ?
嫌悪感がないのはいいのか悪いのか……。
こうした昆虫型の魔物は、一体ずつはそんなに強くはないけど、一撃で倒さないと仲間を呼ばれ、群れで襲って来るので注意が必要。
なので、空を飛ぶ魔物に関しては今回は挑戦しない事にする。
装備を整えてパーソナルレベルがアップしてからにするよ!
ただ、スモール・ワームだけはこの機会に討伐しとこうと思ってる。買取価格は安いけど昇級ポイントだけは高いし、十級の強制依頼だからね。せっかく見つけた事だし。
飛行型魔物をむやみに刺激しないよう、スモール・ワームだけが群れている果樹がないか探していると……ちょっと離れたところにある一本の樹を見つけた。
――ウルルの実がなっている樹だ。
目の前で私の大好きなウルルの実に群がっているっ。
これは早く駆除しなくちゃっ、全部食べられそうな勢いなんですけど!
それに栄養豊富な果物をいっぱい食べたスモール・ワームは、時に急成長してビッグ・フライに進化してしまうらしいし。
――そうなると非常にまずい。
町まで飛んできちゃって町の果樹園をスモール・ワームだらけにしちゃうから。だからその前に討伐しないとね。
今回は果樹に群がっている魔物を討伐するので、火魔法は使えない。水魔法をメインに戦おうと思う。
スモール・ワーム自体はポイズンラットよりも弱い魔物だし、動きも遅いというから、水魔法の早打ちで倒す練習をするのにちょうどいい。
――では早速……。
『
あ、あれ!?
……これ、やり過ぎた?
もしかしてスモール・ワームって、想定してたよりもずっと弱かったのかな?
いっぱいいるので一撃で倒せないからと、出来るだけ連続して『水弾』を放ち、倒せなくても群れ全体を弱らせるつもりで乱れ打ちしていたんだけど……。
バタバタと半分以上、果樹から落ちてきて、もう動かなくなっちゃった。
一緒にウルルの実もいくつか巻き込まれて落ちゃってる。
……なんかラッキーだったからいいんだけどさ。
後はもう、ほぼ全滅してるようなものだったので、少し樹に残ったやつを倒すだけでよくなった。
もう一回、水魔法の『水弾』を放って撃ち落としていき、仕留めきれず目を回して気絶しているのにだけ、万能ナイフでとどめを刺していった。
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