第31話 なんか拾っちゃった
虫根コブ草は、冒険者ギルドからもらった採取一覧表によれば、大きさによっては一コブ銅貨一枚以上と、かなりお高く買い取ってくれるらしい。
一株から一度に最低でも三十個は取れるみたいだから、見つけられればかなりお得。
だって、十コブがゴブリン一体分の価格だよ?
今、掘り出せたのが三十四コブだから一株でゴブリン三体分かぁ……。
安全だしこっちで採取すべき?
『鑑定』があるから場所の特定も容易に出来るし、それに北の森よりずっとか近いし。
ただ、他の冒険者が怖いというかねぇ。私、弱いし。
身の安全のために避けまくってるせいもあって、ラグナード以外の冒険者にはまだまともに会ったことないから何とも言えないんだけど。そのラグナードもこの町に来てから一度も会ってないんけどさ。
採取中心だとそこまで強い冒険者はいないと思うけど、用心のために毎日通うのはちょっと保留しとこう。
根のコブひとつを残し埋め戻しして、採取したことがばれないように隠しておく。魔法を使って軽く隠蔽作業をすると、草原の草に紛れてどこだか分からないまでになった。本当、魔法って便利だよね!
また一ヶ月後には採れるまでに成長するらしいから、こういうの大切だよね? 『マップ作成』にマークしておいたから迷わず来れるし。
まだまだあるけど、ギルドが混んで来る日没より前に帰りたいから、あと一ヶ所だけ掘ってやめとこうと思う。
ふふっ、東の草原に来てよかった。
魔物にも一度も出会わなくて安全だったし、短時間だけなら今日のようにこっそり通うのもいいかもね。
条件のいいレアな薬草を見つけられてたくさん採取も出来たので、いい気分で町に向かって街道を歩いてたんだけど……。
――アレは何?
道の真ん中に、なんか変なボロ布……のようなものが落ちてるんですけど……う~ん?
……ま、まさかこれって……人!?
し、死んでないよね?
えっ、動いてないんだけど……あれって、生きてるの!?
ど、どうしよう?
「……うっ……ぅ」
あ、生きてた。ちょっとモゾッって動いた。
……しょうがない。
異世界的には見捨てるのが常識なんだろうけど、目の前で生きてるらしい人を放っておくなんて、そんなこと……やっぱり出来ないよね。
……助けるか。
頼むからいきなり襲ってこないでよ。
「だ、大丈夫、ですか?」
とりあえず、少し離れたとこから声をかけてみた。
「お、おぉ……た……」
「ん? おおた?」
え? なんて? よく聞き取れなかった。
今「おおた」って言った……?
「ぉ、おなか、すぃ……た……」
――パタリ。
「……えっ!?」
力尽きた!?
なになにお腹すいてんのこの子? 慌てて駆け寄って、そっと手を伸ばすと……。
ガシッと腕を捕まれた!!
ひぃっ、演技だったの!?
お、追い剥ぎっ? だ、誰か、騙され……。
「食べ物の匂いがする~~!!」
そのまま勢いよく起き上がって、こっちに身を乗り出してきた!
ちょっ、近い近い!!
なんなのこの子めっちゃ元気いいじゃん!?
腕を掴んだまま、ジーっと、目を見開いて食べ物の入った袋をガン見してる!
そんな見たら穴開くって!
怖いってば……ちょっ、匂いかがないで~!!
「わ、分かったから! あげるからちょっと待って!!」
慌てて袋から取り出す。早くしないと腕ごと食べられそうな勢いなんですけど~!!
明日食べようと思っていた、さっきの昼食の残りを包んだやつ、それを丸ごと全部渡してあげた。
目一杯急いだけど待ちきれなかったのか、うわっ、すごいよだれ!
「はい、召し上がれ!」
「いただきます!」
許可した途端、 待てを解除された犬みたいに、口を大きく開けると一気に貪りついた!
一体いつから食べてなかったんだろ。すっごい勢い、マンガみたいな食べ方だな!?
喉詰まらせそうで見てて怖いから、魔法で水を作って、水袋に入れ、そっと渡してあげた。
「ありがとうございますっ。ううぅっ、おいひいれす~!!」
頬っぺたを食べ物でパンパンに膨らませ、泣きそうになりながらも食べる速度は落ちない。
そうやって食べながらもまだ袋をガン味してくるので、デザートに食べようと思って採ってきておいた果物も追加してあげた。
で、すっからかんになったよね、私の食料!
全部食べつくされちゃった……人族怖い。こんなに食べるもんなの? これじゃ食料なんていくらあっても足りないんじゃない?
よかった、宿にラビット袋置いてきてて。あの保存食まで狙われたらやばかった!
瞬く間に食べきってしまった後……ようやく名前を聞くことができた。
リーノちゃんっていうらしい。
「初対面の方にご迷惑をおかけしてすみませんでした」
先程の狂乱が嘘のように、礼儀正しく頭を下げてお礼を言ってくれた。
「いっぱいの食べ物とお水をありがとうございました! ものすごくお腹が空いてて死にそうだったので、とっても助かりました。あっ、私の事はよかったらリノって呼んでください。村では皆にそう呼ばれてたのでっ」
「こちらこそよろしく、リノ。じゃあ、私もローザって呼んでね」
「はいっ、ローザ。よろしくお願いします!」
お互い自己紹介した上で、ちょっと聞きたいことがあった。
「村からってことは、一人で旅して来たの? あなたまだ成人してないんじゃない?」
胸だけは立派なものをお持ちだけど、他はいろいろとちみっちゃいし、どうみてもまだ子供なんだけど。
「えっと、よく間違われるんですがこれでも十五歳で成人済みなんですよ、私。兄弟も多かったので、成人したら家を出て冒険者になろうって決めてたんです。そして、自分の稼いだお金で、お腹いっぱい美味しいものを食べれる人になるのが目標です!」
「そ、そうなんだ」
「はいっ」
ぎゅっと両手を握りしめ、きりっとした顔で力強く教えてくれた。
目標がはっきりしてていいね。ただ……顔中にいっぱいの食べかす付いてなければもっと決まってたと思うよ、うん。
この町に来ようと決めたのには理由があって、村に来る行商人から領主様が町中にパンの木を植えて領民に無償で振る舞っているって聞いたからだそう。
「初めて聞いた時、夢のような町だと思いました。絶対そこで冒険者になるんだって!!」
で、ボトルゴードの町が目の前に見えてきて、感激して、その瞬間とてつもない空腹に襲われて倒れてしまったんだそう……なんでだ、お姉さんにはよく分からない謎理由だよ。
ともかく目的地は同じだってことが分かったので、このまま町まで一緒に行くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます