第23話 新スキル獲得



 ――衝撃の夕食後、宿屋で借りた一人部屋へ向かう。


 そこは、三階の階段近くにある部屋だった。二階は長期の宿泊客用なんだそう。


 ベッドの他にサイドテーブルとクローゼットがあるだけの、少し手狭まなワンルーム。

 でも壁掛け時計もあり、鏡の前には簡単な洗面台に水差しとコップが木の桶に入れて置いてあって最低限のものは揃っている。


 全体的に居心地良く清潔に整えられた部屋で、あまり日本と変わらない文化水準にほっとした。 これならあまり戸惑わずに済みそうです。

 

 違うところといえば時計や水差しなどが全て、魔道具なところだろうか。『 異世界知識』によると、電気の代わりに魔石を主な動力源として使っているようだから。


 このワンタッチでいくらでも飲み水が出てくる水差し……便利でいいなぁ、欲しい。魔石に魔法を付与しているみたいだけど、どうやってるんだろ? う~ん、不思議だ。




 夕飯にカルチャーショックを受けたことで精神的に疲れてまだ立ち直れていないけど、今夜はまだまだやることがあるんだよね。その為に、高くても安全な宿を取ったんだから。


 ずっと確かめたかった事……それは、効率の良い強化の方法があるのかどうかということ。




 ――ゴブリン集団との戦闘で痛感した。


 私は弱い。


 エルフの得意な魔法のスキルを複数取っているから、すぐ戦闘で使えたけれど、一つ一つの威力はまだ弱い。

 ゴブリンより強い魔物と遭遇したら、通用しないんじゃないかと思えて怖いんだよね。


 この世界に来てから四日目だけど、未だに一つの新スキルも取れず、既存のスキルも、全くレベルアップしてないのも、不安に拍車をかけている。

 あれだけ毎日戦闘し、魔物を倒していたのに微動だにしないんだよ……生き残る為に少しでも早く強くなりたいのに。


 という訳で、元々この世界の住民じゃない私が、白い部屋以外で新たにスキルが取れるのかということや、魔物を倒した経験値がないとスキルアップしないのかということの検証を一度、安全な所で試したかった。




 経験値については今のところどう調べればいいか解らないから放置して、まずは……。



 ――新スキルを獲得出来るかの検証からしてみようと思う。



『魔力操作』スキルなら比較的簡単にいけるんじゃないかな、と考えたんだ。


 例の白い部屋にいた時、スキル一覧表にあって選ばなかったものだけど、実際ここ数日、ずっと魔法を使って色々している訳だし。


 袋を作ったり保存食作りをしたりと、魔力を操作しないと出来ない事、毎日いっぱいしてると思うし?


 何よりあの、結構高度な茸狩りとか果物狩りとかもした訳だしね……いや高度な茸狩りってなんだよ。

 魔法で果物狩り……う~ん、いや深く考えないでおこう、混乱するし今考えるのはそこじゃないから。



 ――ま、まあそれはともかく、『魔力操作』なら成功する可能性が一番高いと考えたんだ。挑戦してみようと思う。



 ベッドの真ん中辺りに座って安全を確保した上で、念のため灯りも先に消して……と。

 何が起こるかわからないし、加減が出来ずにぶっ倒れちゃうかもしれないしね。何か起こっても助けてくれる人もいないし用心し過ぎるぐらいで丁度いい。


 これで準備が出来たんだけど……うわっ、結構暗いなこれ。


 魔道具のランプが明るかったからか、カーテンを閉めきった室内で急に消した為か、余計に暗く感じる。



 でも、少しずつ目が慣れてきた、ような?


 ……あれ?


 なんか、想像以上にはっきり見えてきた、かも? てか目が慣れるの速くないこれ!?


 なんでこんなにすぐ暗闇を見通せるの?


 ……あっ、そうか!


 もしかして、これエルフの種族特性とかじゃないかな……暗闇に耐性があるっていう。


 そういえば……こっちに来てからほぼ森の中で過ごしていたけど、割りと夜でもよく見えてた、ような……。

 生き残るのに必死で思い至らなかったけど、『暗視』スキルを持ってなくても、これもう暗視してたんじゃない?


 なのに何故、スキルとして取れてないのか……。


 う~ん。


 ……だったから、とか?


 ……なんかあってる気がする。


 それもう正解なんじゃない!?




 ――よしっ。


 じゃあ、おもっきし意識して「視てみよう」!



 ジ――。


 ジジ――――っ。


 ジジジジジーーーーーーっ!!



 来たきた、来ましたよ!



『暗視Lv1』取れましたっ。狙ってたやつじゃないけどこんなにあっさりと……やったね!



 ――と、いうことはですよ、奥さん!



 意識して訓練すれば、魔物との戦闘に限らずスキルが獲得出来るっていうことで!

 経験値は、訓練でも貯まるってことの証明になりましたよね、これ!?


 いや~、なんか一気に問題が解決したね、悩んでた時間はなんだったんだっていう……。




 その理屈で行くと『魔力操作』も、意識して魔法を操ることができればエルフの得意分野だし割りとすぐ取れるんじゃないかってことになる訳で……。


 よしっ、早速やってみよう!


 まず体の中にある魔力を感じ取って……。うんうんこれだね、ホワホワしてるあったかいやつだ、わかるよ。


 それを血液のように循環させるイメージで、体内をあちこち動かして指先から体外にも出したりなんかして……とか三十分ほど色々やっている内に……。



 ――はいっ、『魔力操作Lv1』取れました――!!



 これも簡単に取れちゃったよ!?


 でも全力で休まずやってたからか、魔力がなくなる寸前っぽいとこまでいったかも? なんだか疲労感がすごいんですけど。

 ベッドの上でやっててよかったよ。もう一歩も動きたくない。


 でも頑張ったよね、私! 


 今までうんともすんとも言わなかったスキル表示に、初めて二つもの新スキル、『暗視Lv1』と『魔力操作Lv1』が加わった。


 目標、大幅に上回って達成です!




 はあぁ~。体は疲れてるけど、気持ちはすっきりしたよ。心地よい疲れが気持ちいい。


 では、明日に備えてもう寝ますか、おやすみなさい!





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