第20話 宿屋



 そうだ、気をとり直して今の時期の採取情報とか教えて貰おう。何かいいのあるといいけど。


「そうですね。初心者の薬草採取なら東の草原がいいです、一番魔物も少ないですし。討伐中心なら北の森か、西の森から山にかけてですね。あまり奥まで行かなければ強い魔物は出ないです。南の森は上級者用で危険ですし、その奥にダンジョンがありますが、これは八級に昇級後にまたお話ししましょう」


 周辺の地図を指差しながら一つひとつ丁寧に説明してくれる。


 討伐依頼より採取依頼の方が人気がなく、ほぼ凍結されているものまであるらしい。

 見せてもらうと、一番古い依頼で一年前のまであった。


「これで依頼料がもう少し高ければここまで残らなかったと思うのですが、これ以上は支払えないという依頼主様が多くて」


 他の街から取り寄せる事も出来るけど、割高になるのでとても無理とのこと。気長に待つしかないらしい。


 なんか共感してしまう。私も今お金ないし。


 けど、まずは自分の生活が一番大事だから、余裕が出来たら考えよう。エドさんも困ってるしこういう依頼をこなしてたら信頼してもらえて、いい依頼情報を教えてくれるかもしれない。


 しかし情報が多すぎて、まずどれを選べばいいのやら。そこら辺も相談してみた。


「そうですね。この街に採取中心に活動しているエルフの冒険者はほぼいませんので、ローザさんに一番お薦めなのはこちらです」


 北の森にあるという巨木群を指した。


 討伐と採取依頼が年中あるのは他といっしょだが、巨樹の採取依頼は人族が苦手としているため競争相手がもっとも少ないとの事。

 薬樹や木の実、果実の種類も豊富でいい狩場だが、街から少し遠いのと、やはり巨木群でも採取依頼には変わりないので依頼料は安いものが多く、危険を侵してまで行きたがらないかららしい。


 人族と縄張りが重ならないというのはいいよね。余計なトラブル回避できる。


 ギルドの資料室で、もっと詳しい情報が得られるとの事で、後で利用しよう。



 お薦めの宿屋も聞いてみた。希望を聞かれたので、女性が一人で泊まっても安全で、設備はそこそこでいいので安いところがあればと伝える。


「安い所なら大銅貨2枚からありますが、大部屋で雑魚寝なので女性にはちょっと……安全に安くとなると、そうですね、こちらがお薦めです。少しお高くなりますが、一泊朝夕食事付きで大銅貨7枚です。実はこちらで働くギルド職員の実家でして、安全も保証しますよ」


 地図を見せて貰うとギルドから徒歩で三分の近さだった。


 銀貨1枚以上ならどこでも安全で設備も充実しているらしいけどさすがに今そんなところに泊まれない。


 他にもいくつか聞いて安全性を重視するなら、ここが一番よかった。想定してたより随分お高かったけど。


 飛行型の魔物を警戒して、三階建て以上の建物は基本建設禁止だし、城塞都市限られた土地しかないからこの値段は仕方ないそう。

 特に壁に囲まれた土地の値段は高いから、宿代もどうしても高くなってしまうのだとか。そういう事情なら分かる、しょうがないよね。


「ありがとうございます。そこにします」


 時間を気にせずいっぱい相談出来たし、ギルドが暇な時間帯に行けてよかった。


 エドさんにお礼を言ってギルドを出た。




 ◇ ◇ ◇




 宿屋は大通りから一本入った所だったけど、冒険者ギルドからも近くて迷わずにたどり着けた。よかった。



「いらっしゃい! 食事か泊まりかどっちのお客さんだい?」


 入った途端、賑やかな店内にいた一人の女性に、愛想よく問いかけられた。


「こんにちは。ひとりで一泊なんですけど空いてますか?」


「一人部屋だね。大丈夫っ、空いてるよ!」


 紹介されたそこは、元気のいい女将さんが切り盛りする食事処件、宿屋だった。



 カウンターで説明を聞いたところ、朝夕食事付きで一泊大銅貨7枚、ギルドで聞いてきた通りのお値段だった。素泊まりはやっていないらしい。

 十日分前払いだと割引はないけど、一階にある大浴場の使用料と、同じく一階にある簡易炊事場の薪代が無料になる。


 手持ちのお金と相談して、とりあえず二泊分だけを支払う。やっぱり今の懐具合だとどうしてもお高く感じてしまうけど安全には替えられないもんね。


 お風呂は銅貨3枚の使用料で、簡易炊事場は薪代を払えば使えること、外には井戸や洗濯場もあり無料で使えること、トイレは各階にあり共同で使用することも説明を受ける。




 これで所持金は270シクルになった。ここから必要なものを揃えなくてはいけない。結構宿代で減っちゃったけど足りるかなぁ?


 部屋に置くほどの荷物もないし、今から買い物に行こうか。


「近くにおすすめのお店とかありますか? 安く装備品を整えたいんですけど」


「そうだねえ、それなら……」


 女将さんはカウンターの下からこの街の地図を出してきて、条件に合うお店をお宿の近くから順に教えてくれた。

 さすが冒険者相手の宿、詳しい情報を持ってる。


「メイン通りのお店は品数も品質も良いがその分だけ高いからねぇ。駆け出しの冒険者さんだと、こっちの一本奥に入った通りに並んでいるお店がいいんじゃないかね」


 雑貨屋、鍛冶屋、香辛料のお店など一通りお薦めを教えて貰った後、さっそく出かける事にした。





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