第21話 買い物って怖いね



 ――まずは雑貨屋。


 冒険者相手のお店らしく品揃えはとっても豊富。お店の隅には中古品を安く売ってるコーナーがあったので、節約の為そちらを中心に見てみることに。

 袋物はもうあるので、革製のしっかりした背負子と簡単な裁縫道具や調理器具、ロープなど、色々まとめ買いしたら、少しおまけして貰った。

 それでも105シクル。結構高いなあ。




 ――次はお隣にある香辛料のお店。


 5シクルで買えるだけの塩を量り売りしてもらう。

 砂糖や胡椒なんかに比べれば塩は比較的安い。

 岩塩の種類も豊富だし、魔法を使って海水から塩を大量に生産し転移魔法陣で主要都市に届けられるシステムが整っているらしい。むしろ、過剰供給で値崩れしないようにと管理されているみたい。

 なので、日本で買うとちょっとお高めの塩ぐらいの値段な感じで手に入った。




 ――それから少し離れた衣料品店へ行く。


 ここで買うのは皮手袋と下着。着替えも欲しいけど聖魔法の『浄化』ですぐきれいに出来るので今日は我慢することに。

 皮手袋は採取する際の必須アイテムなので、絶対買わなきゃいけないからそっちを優先させる。

 本当は魔道具屋で付与魔法付きのものを買いたいけどやっぱりお金ないしね、諦めるよ。

 一応、魔物の皮で出来た頑丈なものを選んでおいた。




 ――最後は鍛冶屋。


 残りのお金は銀貨1枚、約一万円分ある。護身用に革鎧とかも欲しいけど、これだけだとさすがにナイフ一本分ぐらい? 武器の値段ってどれくらいなんだろ?

 全部使ってでも出来るだけ多目的に使えそうな、頑丈でいいものが欲しいんだけどあるかなぁ。


 店内をうろついてみたけど、色々と種類があり過ぎて良く分からなかったので、店主の親父さんにこちらの希望を伝え、お薦めを聞いてみることに……。


「討伐にも採取にも使えるとなると、もうこれしかない。初心者なら金もあんまないんだろ? こいつにしとけ」


 一本だけ持つならと薦められたのは、万能ナイフと呼ばれるものだった。


 全長30センチ、幅広で両刃の片側がノコギリ状のやつ。刃にも厚みがあって丈夫そう。

 短剣としても使えるし、スコップや鎌代わりにも使えるとの事。


 これはいいね! その名の通り万能じゃないですかっ、もう買うしかない!


「おいくらですか?」


「こいつは銀貨10枚だ。安いだろ? え、高い? ちなみに……予算はどんぐらいなんだ」


「銀貨1枚です……」


「……まあ駆け出しならしょうがないか。そんならこっちだな。この中から選べ。中古品だがまあまあ使える」


 店の隅の箱に無雑作に突っ込まれている中古品の中から、万能ナイフだけ選んで持ってきてくれた。


「ありがとうございます。結構いろんな大きさがありますね」


「ちょっと持ってみて手になじんだやつを買ったらいい。結構重いやつもあるからな」


 親父さんからいろんなアドバイスをもらいながら、感触を確かめていく。

 同時に『鑑定』してみて、その中で中古でもいい状態のものを探すと、条件にあうのが一本あったので、購入してしまうことにした。


「今度来るときはもっといいやつ買ってくれよ!」


 親父さんがお金を受け取りながら、にやっと笑って発破をかけてくれる。


「はいっ、稼げるように頑張りますね!」


「おうっ、期待してる!」




 いやぁ~、良い買い物をした! 満足満足!


 ……。


 いやいやとっても満足してますよ本当だよ。


 でもですね! 


 大変なことに……もうお金ないんですよ、さっきので全部使い切っちゃった!


 はわわっ、どうしよう。無茶苦茶心細いんですけどっ。今手元にあるのは大量の水玉茸と少しの果物と木の実だけ!


 町に到着してまだ数時間しか経っていないのに、もうすでに無一文になっちゃったよ!



 ――お金がない!! どうするっ、私!?


 お、恐ろしい買い物怖い。本当の本当に小銭一枚さえなくなっちゃって、これじゃ明日の昼食も買えないよ……銅貨一枚くらいは残しとけばよかった。


 このままだとまた自力で現地調達する、原始生活に逆戻りだよ……。


 今すぐ稼ぎに行きたいところだけど、下調べもせずいきなり行って短時間で得られるものがあるかどうかと考えると……ダメだよね。


 よしっ、やっぱり当初の予定通り、ギルドの資料室に行こう。


 情報が増えれば『鑑定』スキルがレベルアップするかもしれないし、知識を蓄えるのは生き残る為にも重要だし、急がば回れって言うしね。




 それから夕食の時間まで資料室にこもり、ひたすら書物を読みまくって勉強した。

 誰も居なかったから独占状態だったよ。この街で仕事するなら知っといた方がいい情報がいっぱいあったので本当に助かった。来てよかった。


 昼間貰った小冊子と併せて検討した結果、明日は受付のエドさんお薦めの北の森に行くことにした。


 この街に来るため通ってきた街道を途中までそのまま逆行するので他より知ってる道だし安心感があるし。

 少し遠いけど、10kmちょっと行った所が巨木群のよい採取場所らしい。

 往復だと約21km、ほぼハーフマラソンと変わんないじゃん!?

 毎日マラソンして通勤するとかなにその罰ゲーム! とか前ならぜったいに、言ってたね!


 でも、この三日間を考えてみると、余裕なんだよナーこれが。無理しなくても片道一時間で行けるはず。


 すごいじゃん私、オリンピック選手並だよ!





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