第10話 実験中
まずは青の水玉茸で試してみると……。
う~ん、どちらの方法もすぐ水玉が消えちゃったね。『鑑定』してみると、効能の欄が消えてて、生でも食用可能としか表示されなくなったってことは、これは失敗だね……。
結局、魔法以外で採るのは無理ってことか。
しかしこの採取条件、水魔法はともかく火魔法で採るって難しくないですか? 消し炭になりそうな予感がするんですけど。
まあ、多分貴重な茸だろうし、次にいつ見つかるか分からないから挑戦してみますけれどもねっ。
まずは簡単そうな水魔法から。地面と茸の接地点をよく狙って……。
『
う~ん、ちょっと勢いを消しきれなかったけどちゃんと当たってるっ。
どうかなっ、成功したかな?
んん? あれっ? 水玉が……消えてる?
ちゃんと同属性魔法を使って採ったよ?
――何で!?
う~ん、マジックなキノコがただの茸になった原因がよく分からない……。
どうしよ、もう一度やってみる?
『
ま、また消えた?
う~ん……採れた茸をちょっと見てみようか。
――んっ?
んむむっ、これは!?
よ~く見ると二つ共、傘の部分にも水滴がかかっちゃってるね、ちょっぴりと……そう、一滴ぐらいかなっ!
………………。
……ねえこれめちゃくちゃ難しくない?
誰だ水魔法の方が簡単だと言ったの。
というか、もしかして根元以外に魔法当てちゃダメとかそういうのなの?
こんなのできるわけないじゃん!
3、4cmぐらいの大きさしかないんだよこの茸、的すっごくちっちゃいんだよ。な・の・に! ちょっぴりしか掛かってなくてこれだよ、だ、駄目なの?
……。
うん分かってる、駄目なんだよね、水玉消えたもんね。効果も消えたってことなんでしょ……ちーん。
まあすぐ成功するとか思ってなんかないさ、私だもんね、チートとかないしノーコンだし。
……。
……自分で言ってて悲しくなってきた。果てしなく落ち込みそう。
――よ、よし。
こうなったら一旦、水魔法は置いとこう。
今度はあえて勝手に難しいと思っていた火魔法で試す!
……考えてみれば火魔法って一番使っているし、威力もこう、調整しやすい……かもしれないし。うん、いけるんじゃないかなっ。落ち着いてやればきっと出来るはず!
少し離れたところから根元をスパッと切り離すイメージで、でもって魔力を細く絞って消し炭にしないように注意して……。
『
炎の弾丸がシュボッと軸を切り離し……。
ポロリッ……と茸が転がった……。
軸は燃えて真っ黒だけど、水玉は……ちゃんとあった。
赤の水玉消えてない、一回で成功したよ、火魔法で!
『鑑定』でも……うん、大丈夫っ。マジックなキノコのままになってる!
……なんだかなぁ。簡単だったのはとってもよかったし嬉しいんだけどこう、もやっとするねこれね。
ま、まぁせっかく採れたことだし、気を取り直して実食、してみますか!
おいしいといいな!
『浄化』して、生食可ってあったけど生はちょっと心配だから軽く魔法で炙ってっと……。
パクリっと食べてやった。
……あれ? ちょっと想像したのと違う。あんまり味も香りもしない。美味しいかと聞かれたら、
ま、まあこれは薬みたいなものだしっ。味なんかより断然、上限値上昇とかなんとかのマジックなやつだからさっ。美味しさまで求めちゃいけないよね、うん。
ところでその、火魔法上限値+1上昇って食べてすぐ、体感出来るのかな?
――実験してみよ。
『
う、う~ん?
よく、分からない? 劇的な変化とか期待してた訳じゃないけど、こうも何も感じとれないのは、プラス1じゃ少なすぎるからとかなの?
でも『鑑定』通りなら、確実に何かが上がっているはずで……いっぱい食べば実感できるんだろうか?
この茸って採取条件厳しいし、買取価格かなり良さそうだけど、自分の強化に使った方が絶対いいよね。
次いつ採れるか分からないし、数が必要そうだし、乾燥保存しても効果変わんないらしいから備蓄出来るし。
そうと決まればここに生えているやつ、もっと採取して行きますか!
ここら辺から早速、ちゃっちゃと採っていきますよっと。
ちまちまと魔法を撃って、一つずつ採取していく。
『採取』スキルあるからか、比較的短時間で水魔法の方もコツが掴めたみたい。青の水玉茸もすぐ上手に採取できるようになったし……ヨカッタネ。
ラビット袋はあれからもう1袋作っていたので2袋あるけど、それでも一杯採れたため入りきらず、残りは無駄に多いポケットに詰め込むことに。ようやくこのポケットが大活躍する日がきたよ……。
採取中、これまた奇跡的に魔物に出会わなかった。『幸運』スキルがいい仕事してくれてるんだろうか? だったらうれしいなっ。
これ幸いと安全圏である森の浅いところまでさっさと移動し、予定通り南に向かって進むことにする。
――何か体が軽い。
目的地が目に見える形で分かってから、この状況を少し楽しめる余裕が出てきたみたいで、気持ちが少し楽になってるのかも。
先が見通せない中ただただ前に進むと言うのは、エネルギーがいったらしい。自分じゃ気付かなかったけど、結構参ってたのかもしれないね……。
お昼時にはまた、狩っておいたホーンラビットの肉を捌いて、いっぱいのマジックキノコと一緒に数食分をまとめて調理した。
うん、こうやって肉といっしょに蒸し焼きにして食べると
それに今日はなんと、
木になる実なのに、食べるとパンみたいな実なんだってっ、不思議でしょ!?
森の中で見つけたその木には、赤茶色くて形はマンゴーに似たパンの実が、鈴なりになってた。
○ズの魔法使いみたいで、ちょっとテンション上がったよね!
『鑑定』してみると、
【 パンの実
可食:果皮ごと可能 生食も可
パンの代用品として広く食べられている
乾燥させると長期保存できる為、
救済植物としても育てられる
採取:実を採る瞬間に赤い汁を噴射してくるので注意
皮膚に直接掛かるとかぶれる 】
と出た。
さすが異世界、不思議植物だな――。
これは是非試食しないとって事で、いくつかの実を気を付けながら採ってきておいたんだ。もぎ取る瞬間、ペペペッと赤い汁を吐き掛けてくるのを躱しながら。
……なんか採取って、一筋縄でいかないやつばっかりじゃないですか?
ちなみにポポの実とは……。
【 ポポの実
効能:回避一定時間微上昇
可食:果皮ごと可能 生食も可
栄養価が高く美味
ドライフルーツにするとより甘みが増す
採取:赤紫色の熟した実を採る
果実のなった枝は逃げるので注意 】
という、これまた不思議なやつだった。
でも美味しくて栄養があるって言われたら、いくら採取方法が変でも採るしかないじゃない? どんな味か興味あるし。わざわざ美味って書いてあるぐらいだし、きっとこの世界基準で美味しいっていうことでしょ!?
まあ、この効能と採取条件見たとき、初めは冗談かと思ったよね?
枝が逃げるの上手いと果実に回避の効能が付くとかダジャレなの? 何なのソレ、意味わかんないでしょって!
採ろうとすると果物ごと枝が逃げるとかさぁ……そんなの嘘だと思うでしょ? 私は思った。いやでもこれ本当にマジだったから! 『鑑定』さん嘘つかない。
手を近づけただけで、スルスルフワフワ逃げられた時はどうしようかと思ったよ。分かっていてもびっくりするって!
風で揺れてるとかじゃなく、木の意識で揺らしてるんだって否応なく理解させられた時は少しゾッとしたし。
素早く動くという感じじゃなく、ふわんっふわんっと手からこぼれ落ちるように逃げられちゃうんだよね。掴みどころがないって言うかっ。
例えが難しいんだけど……こう、蚊を退治しようとして頑張ってるんだけど、不思議と手からするりと逃げられちゃう時のような感じ?
殺ったと思ったらスカッと空振りしてたって言う時あるでしょ? そんな感じ!
すっごく木におちょくられてる気分になったよね……。
それでムキーッてなってポポちゃんとバトルしちゃって、無駄に疲れた。何かこの採取で俊敏性とかが鍛えられた気がする……。しっかり実も収穫出来たからもう良しとするけどさ。
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