第二話: スペックが高すぎて仕事が出来ない生体兵器がいるらしい




 真坂太一という名と経歴と身分を半ば強制的(あるいは、無意識的に)に捨て去ってから、これまで。眠っていた時期も合わせれば、おおよそ4か月の時が流れた。




 季節はすっかり冬から春へと移り変わり、5月を迎えようとしている。ゴールデンウイークを来週に控えた今、すっかり桜が散った後の街中は、何処となく浮足立っているような雰囲気が至る所で見て取れた。


 まあ、それも致し方ない。日本人全員がそうではないが、少なくとも全体の半数近くが休日なのだ。それも、人によっては有給も入れて1週間はまとまった休みが取れるとなれば、そういう空気が流れても何らおかしい話ではない。


 まだ連休に突入したわけではないが、それでも期待というものはある。連休は何をするかという話があちらこちらで聞こえ始めるのは当然のことで、どことなく浮つくのも当然のことであった。



 『立花・エプレシア・舞子』



 その名が自分の名であることをしっかり認識出来るようになってから、幾しばらく。それは、自らの身体が如何に出鱈目の塊であることを自覚するには十分過ぎる時間であった。


 と、同時に、だ。これは本腰を入れて練習しておかないと本気でヤバい事態になると、彼女に心底理解させるのにもまた、十分過ぎる猶予でもあった。


 何が本気でヤバいって? 


 それはまあ、色々とある。その中で最も由々しき事態を述べるなら、答えは一つ。


 それは、生体兵器として改造された己の基本性能(スペック)があまりに高すぎて、頭で認識していることと実際に起きる行為の差異があまりに大き過ぎて、時に周囲への被害が生じるというものであった。



 ――具体的には、力加減が物凄く難しいのだ。



 それまで無意識に行えていた日常レベルでの様々な行為を、意識的に注意しながら行わなければならなくなったのである。


 例えば朝、起きてトーストを食べようとして、だ。冷蔵庫から取り出したジャムの瓶を開けようと、何気なく力を込めた……その瞬間。瓶は、文字通り粉々になって中身が辺りに飛び散って、朝から憂鬱になった。



 原因は、言うまでもなく力の入れ過ぎであった。



 どうやら、ジャム瓶は固いから力を入れなければならないという無意識が原因らしい。自己診断した結果、鉄パイプを捻じ切れる程の力が込められたことが分かった彼女の恐怖も想像が付こう。


 例えば昼、うどんが食べたくなって外に出て。買ったばかりの自転車を走らせている最中、信号が点滅しているのを見て、ペダルに力を入れた……瞬間。自転車は三つに折れて、周囲から凄い目で見られることとなった。



 ……これまた原因は言わずもがな。



 瞬間的に厚さ数センチの鉄板数枚分を貫通する脚力で踏み込まれれば、どんな自転車であろうとそうなるだろう。周囲に居た人々が口々に大丈夫かと声を掛けてくる中、急いで逃げた彼女の心境は想像するまでもない。



 他にも、例えば……夜だ。



 もう余計なことはしないぞと歩いてコンビニへと向かって。何事もなく買い物を終えた後、酔っ払った男たちの強引な誘いに怖気づいて、思わず力を込めて腕を振り払った……瞬間。その男の腕の関節が瞬時に二つ増えて肩の関節が砕けてしまった。



 原因は……まあ、あれだ。



 見るからに粗暴そうな男たちに囲まれたせいで、加減を考える余裕がなかったせいである。おかげで、悲鳴と動揺を露わに混乱する男たちを尻目に全力で逃走し、以後一週間……一歩も外へ出なかった彼女の憔悴と来たら……言葉が出ないだろう。


 なので、何処となく浮つく気配が見られる4月末。世間では黄金週間だとか銀週間だとか騒いでいる最中、彼女はバイトを見つけることはおろか、何処へ出かけることもせずにひたすら自宅に引っ籠って延々と力加減の練習に明け暮れていた。



 可哀想だが――仕方ないことだ。



 何せ、下手すれば人一人がミンチになっていたところなのだ。生体兵器となり、男から女(正確には違うが)になったとしても、精神的には一般人のそれと何ら変わらない。


 そんな彼女にとって、いくら相手が悪漢であったとはいえ、だ。何の恨みもない相手を、不本意とはいえ殺し掛けたのは耐え難き恐怖以外の何物でもなかった。


 しかも、わざとそうやっているわけではないのだが、彼女の表情は『無表情がデフォルト』である。加えて、言語機能にも障害が残っている(これは、しばらくして分かった事)せいで、どう頑張っても淡々とした口調にしかならないのだ。


 なので、万が一何かが起こった際、いや、何かを起こしてしまった際。


 間違いなく、彼女は弁明が上手く出来ない。ただひたすら無表情のままに、ブツブツと呟くようにして答えるしか出来ない。最悪、それすら出来ずに無言を貫いてしまう……彼女が自身を恐れて、当然であった。



 ……とはいえ、だ。



 何も、無意識に働くのは悪い面だけではない。例えば、それまで知り得ていなかった言語や知識を、いつの間にか知っているといったプラスに働く面も確かにあった。


 具体的には、テレビを見ている最中だ。特に見たい番組もなく、適当にぱちぽちとチャンネルを変えている途中、不意にCNNといった海外のニュース報道を目にする。


 映し出されるのは海外のレポーターで、映っているのは海外。当然ながら、現地から伝わる様々な雑音……言語は英語なり何なりの外国語である。


 流暢な報告は一拍か二拍遅れて日本語に翻訳された音声が流れ、かつてはその音声を聞いてニュース内容を理解していた……つもりだったのだが。



 今は、日本語の翻訳が流れる前にニュース内容が分かる。



 つまり、外国語を無意識レベルで翻訳し、理解しているのだ。外国語と言えば下手くそな発音でナイストミーチューと言うぐらいの語学力しかなかったはずなのに、だ。


 他にも、手先が器用になったし物覚えが非常に良くなった。これはあくまで『そうなんじゃないかな?』という具合の体感でしかなかったが、パラパラのチャーハンが作れるようになった辺り、そうなのだろうと思っている。



 極めつけは、収入だ。



 どうやら、『自立行動モード』の間に、彼女の身体は資金を調達していたようで。いつの間にか用意されている自分の通帳の口座には、20億近い預金が有ることが、発覚したのだ。



 ――まあ、そんなわけで、だ。



 5月に入り、遂に金週間(ゴールデンウイーク)へと突入した世間とは裏腹に、何処にでもいそうな冴えない男から超絶美女な生体兵器へとジョブチェンジを果たしてしまった彼女の日常は……相も変わらず、日常の繰り返しであった。








 ……。


 ……。


 …………早朝の、6時00分。



 それが、ここしばらくにおける彼女の起床時間となっている。それは探し続けていたアルバイトがようやく決まった……わけではなく、同時期に始めたジョギングの為であった。


 何故そのような事をしているのかといえば、単に己の身体能力の確認である。まあ、確認といっても既にある程度の加減を覚えてはいるが……何せ、この身体は常識で測れる代物ではない。



 いくら気を付けているとはいえ、無自覚に超常的な事を仕出かしてしまうのが、このボディだ。



 諸々を経て様々な機能を失ったことで、その危険性をかなり落としてはいるが……そのせいで、気を付けても自覚出来ない変化を認識出来ない。つまり、無意識に何かを壊しかねないのだ。


 なので、実際の所は早朝に始める理由は特にない。しかし、深夜は当然だが真昼に走り回るのはあまりよろしくない。時間や体力的な意味ではなく、近所の目という意味で。


 特に、夜に走るのは色々な意味で無用なトラブルを招いてしまうことを身を持って学んだ彼女は、その時より早朝に走ることを決めている……まあ、早朝なら早朝らしいトラブルも起こっているのだけれども。



「――よし」



 指定した目覚まし時計が鳴る5分前きっかりに目を覚ました彼女は、ぱちん、と緩やかな所作で時計を止める。一度、以前の調子で叩いて粉微塵にしてしまってからは、気を付けている。


 むくりと、ベッドから身体を起こす。露わになった裸体は、実に眩しい。けれども、グラビア雑誌から飛び出て来たかのような見事なそれを彼女は気にも留めず、無表情のままにクローゼットを開け……ふと、傍に置かれた姿見に目を向ける。



(……羽とか鱗とか、ないよな?)



 一笑に出来ないのが、悲しい所。映し出された己の身体は、相変わらず凄まじいモノだ。文字通り、シミ一つない。表面に薄くコーティングを張っているのか、無駄毛はおろか、毛穴すら見えない。


 陶磁器のような滑らかな肌とは、こういう事なのだろう。かつての自分なら、目に痛みを覚えてもまだ瞼を閉じるようなことはしなかった……だろうが、今はどうでもいい。


 ひとまず、最後に確認した時と全く変わりないことを見やった彼女は、改めて着替えを行う。


 まあ、着替えるといってもジョギング用のやつに着替えるだけだし、元々の精神が男(太一)である彼女だ。『自立行動モード』にて事前に用意されていた下着やら何やら一式……というか、ジャージを着るだけだ。


 ……ちなみに、朝の目覚めはいつも快適だ。


 『何時に起きる』と念じて目を瞑ればきっかりその時間の5分前に目が覚めるし、そもそも眠気を覚えない。だから、ジョギングを始めてからこれまで一度として寝坊をしていない。


 まあ、それも当然だ。生体兵器となった彼女にとって、寝坊等のアクシデントは起こらない。それは彼女自身が一番良く分かっている。


 故に、彼女は何時もと同じ手順で下着を選ぶ。何時もと同じ手順でシャツを着て、何時もと同じ流れで上下のジャージを身に纏い……さらりと流れる黒髪を、足元に置かれている箱からヘアゴムを取り出し、纏める。


 そして、最後に靴下を履いて――これで、準備万端だ。


 何時ものように一通りの準備を終えた彼女は、誰に言うでもなくそう己に呟いた。







 ……。


 ……。


 …………そうして、だ。


 着替えに掛かった時間は4分、階段を下りてマンションの外へ25秒。それから慣らす為に徒歩で5分35秒。これまでのと比べて約2秒程度の誤差を残しながら……彼女は、自宅近くの河川敷へと到着した。


 河川敷といっても、そう大きなものではない。堤防から見下ろす川幅はせいぜいが30……メートルぐらいだ。階段を下りた遊歩道には彼女と同じくジョギングなり何なりに勤しむ者は多く、見渡す限りでも17人を確認出来た。



(相も変わらず、この人たちは朝から元気っすね……この人たちを見ていると、何だか俺のやっていることが不純に思えて辛いっす……)



 あくまで無表情のまま、彼女は内心にてため息を零した。


 走り始めてから気付いたことだが、健康に気を使う人は意外と身近にも多い。この身体にならなければ一生気付かなかっただろうなあ……と思いつつ、堤防の階段を下りて、遊歩道へ。


 偶然なのか、それとも暗黙の内にそうなっているのか分からないが、彼女が何時も降りるその先には数名の男性がウロウロしていた。


 年齢はバラバラで、見た所、走り終わった感じではない。準備運動をしている者もいれば、知り合いなのか雑談をしている三人組もいる。中には柔軟なのか……変な体勢を取っている者もいた。


 ……謎の柔軟ポーズを取っているやつが気になるけど、とりあえずは、何時もこの時間帯にいるメンバーだ。二人ほど見慣れた顔がいなかったが……そのまま、彼女も柔軟を始める。



(……はたして、意味はあるんすかね、これ?)



 学生時代に流れ作業でやっていた柔軟体操を、そのままやる。生体兵器としての身体は人間とは思えない柔軟性を有しているようで、どれだけ筋を伸ばそうが、どれだけ関節を解そうが、全く痛みがない。というか、筋が伸びている感触すらない。


 そうして、準備を終えた彼女は……走り出す。ペース配分やら平均速度やらがさっぱり分からないから、だいたいこのぐらいかな……という、実にアバウトな感じであった。


 それでも、最終的には相当なタイムとなる。何故なら、300n、500m、1km、2kmと進むに連れてもペースが欠片も落ちることなく、常に速度を維持し続けているからだ。


 何時もと同じように景色が流れ、何時も通っている雪柳(ゆきやなぎ)の通路を進み、何時も見掛けるベンチに座っている老夫婦を横目に、ひたすら走る。そこに、苦しみなんていうものは全くない。


 車のエンジンのように規則正しく駆動する手足は、実にスムーズだ。右、左、右、左、右、左……痛みはなく、疲れもない。たった今走り始めたかのように、力が満ちている。


 痛い程に眩しい夏の猛暑の下であっても、芯まで凍えそうな真冬の寒空の下であっても、彼女にとっては大した違いがない。というか、その程度でどうにかなるなら彼女(太一)もそこまで慌てない。


 例え、このままフルマラソンを走ったとしても、汗一つ掻かず顔色一つ変えず呼吸一つ乱すことなく完走するだろう。走る前から確信を得るぐらいに、彼女の身体能力(スペック)は異常であった……と。



「――あっ」



 何時ものUターン地点へと到着した彼女は、何時ものように身を反転させ……た、ところで。少し離れた場所にぽつんと出来ている、草木が乱雑に繁茂している所に……何時もとは違う出来事が起こっていた。


 一言でいえば、それは自然界における弱肉強食であった。


 もっと正確に詳細を表すのであれば、強いのはカラスで弱いのは猫だ。遠目からでもその大きさの違いがよく分かる。パッと見た限りでも、猫はカラスの胸元にすら頭が届いていなかった。


 彼女は知らなかったが、カラスが野良猫を襲うというのはけして珍しいことではない。特に動きも鈍く体力もない子猫はカラスに狙われやすく、囲まれてしまうとまず逃走は不可能となる。


 捨てられたか、あるいは親猫とはぐれたか。状況からは、分からない。


 耳を伏せ、尻尾を丸め、みゃあみゃあと必死に威嚇しているが、その程度でカラスは逃げない。一突きで傷を負わせるであろう分厚く黒いくちばしが、かあ、と子猫へと鳴いた。



(――駄目だ!)



 それは、無意識の行動であった。


 ――ただ、子猫を助けたい。


 そう思った時にはもう、彼女は踏み込んでいた。ざりっ、とシューズのゴムがコンクリートを舐めて、砂埃がふわりと舞った――その、瞬間。ぼこん、と地面を踏み砕く感触を覚えた。



(あっ!?)



 しまったと、思った時にはもう遅かった。刹那よりも速く出力を発揮した彼女の身体は瞬時に音速を超え――反射的に、彼女は大地を蹴って飛んだ。


 彼女が生み出した突風によって、カラスはぐるんぐるんと回転しながら上空へと舞い上がって、そのまま逃げ去る。それよりも小さな子猫は、理解する間もなくコロコロと地面を転がった。



(――っ!)



 それを上空から見下ろすしか出来ない彼女は、心の底から強く舌打ちをした。


 一つ、二つ、三つ。彼女が砕いた地面の足跡に、同じく砕けて弾けたシューズを飛び散らせながら、彼女の身体は数十メートル上空まで放物線を描いて……着地する。


 幸いにも、猫は川がある方向へは転がってはいない。けれども、何かしらの怪我を負った可能性がある……急いで、(先ほどのようなことが起こらないよう、気を付けながら)彼女は猫の元へと向かった。



(……よ、良かったっす。これで死んでしまっていたら、一生もののトラウマっすよ)



 そうして、驚きに目を丸くするだけで出血の様子も見られない猫を見て、彼女は安堵のため息を零した。次いで、彼女は改めて猫の状態を観察する。


 それは、黒と白のまだら模様の猫であった。


 大きさは……野良であることを考えても、小さい。おそらく、まだ子供なのだろう。猫を飼った覚えない彼女は、特に何をするわけでもなく猫を見つめた。


 彼女が眼前にて止まれば当然、猫も異変に気付く。


 河川に沿うようにして生えている草むらを背にした猫のつぶらな瞳が、彼女を捉える。必然的に、視線を合わせることになった彼女は……屈んで目線を近づけた。



(それにしても、猫ってほんと可愛いっすね……一度は飼ってみたかったけど、あいつらは許してくれなかったからなあ……)



 無表情のままに、ちっちと舌を鳴らす。これまでにも(太一だった時も含めて)野良猫に遭遇したことは何度かあるが、今のところは一度として懐かれたことはない。


 まあ、猫はおろか動物を飼ったことがない身だ。扱い方というか、距離の詰め方が駄目なのだろう。この子も怖がって逃げるのかなあ……と、思って眺めていると。



 ……意外な事に、猫は逃げなかった。



 ジーッ、と。まん丸に見開かれた目が、彼女を見上げている。多少なり警戒心を見せているようだが、それだけ。他の猫たちのような露骨な態度がそこにはなく、最も強く表に出ているのは……好奇心であった。



(あれ……もしかしてコレ、いけんじゃね?)


 ――その瞬間、ぐわっ、と。



 胸中にて噴き出した興奮を、彼女は寸でのところで堪える。これが以前の己であったならば、ぶふっと鼻息を吹いていただろう。それぐらい、彼女の気分は高揚していた。


 元々が、猫好きな方である。何度か猫カフェを利用したことはあるし、猫の写真集だって立ち読みしたし、お気に入りの猫動画だってある。


 そんな彼女にとって、野良とはいえ生猫が逃げずにいてくれるという状況は……喜び以外の何物でもなかった。というか、喜ばないわけがなかった。



 ちっちっち、ちっちっち。



 唇と舌を鳴らして、猫を誘導する。自分の物とは思えない細く白い指先を、ちょいちょいっと差し出してやる。すると、猫は興味を引かれたようで、恐る恐るではあるものの、たどたどしい足取りで彼女の指先へ……ああ!



 ――ぽふん、と。



 数回ほど、指先に近づけた鼻をすんすんと動かした後。それで危険でないことを理解したのか、子猫は母猫に甘えるかのように……その指先に、ぽふんともたれかかるように頭を擦りつけた。


 野良だから、ざらざらっとした毛の感触がする。意外と固いヒゲの感触と、これまたしっかりとした弾力を伴う頬の感触。最後に感じる、すりすりと押し付けられる子猫の感触と体温……もう、彼女は限界であった。


 そっと、残された手を合わせて、両手で猫を抱える。途端、突然のことに驚いた子猫は一瞬ばかり辺りを見回し……また、ゆっくりと体の力を抜いて、落ち着いた。



 ……自分の掌の上は、この子にとっては落ち着ける場所なのだ。



 言葉にはせずとも、それを明確に伝えられた気がした彼女は……堪らず、んふう、と鼻息を吹いた。外見は相変わらず無表情のままであったが……彼女はもう、決断していた。


 それは、ほとんど無意識の反射であって、意識したわけではない。


 ただ、それを思いついた時にはもう、彼女の身体は作業を終えた後で……『半径数キロメートルに渡って、この子の母親らしき猫はいない』という索敵結果が、彼女の脳裏に表示されていた。



(――母猫がもういないなら、こいつは俺が絶対に飼うっす!)



 気付けば、彼女は両手で作った器の中に猫を乗せたまま走っていた。だが、ただ走っているわけではない。安心している子猫を不安がらせないよう、子猫を全く揺らすことなく……自宅へと連れ帰った。



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