第20話 これが理想の生活っ!
気づけば二日経過していた。
『猫ちゃん! ご飯の時間だよ!』
ルルちゃんがご機嫌な様子でミルクと焼き魚を解したもの持ってきてくれた。
これが中々に美味しいのだ。
ルルちゃんは料理ができる子みたいだ。
農家の子だからかな。
家事全般出来るみたいだし、将来いいお嫁さんになりそうかも。
食事を終えると僕は床に転がって、まどろんだ。
『美味しかったぁ?』
「にゃあ!」
『うふふ、よかったぁ』
ルルちゃんは嬉しそうにしながら食器を持っていってくれる。
ふわあ、幸せだぁ。
適当に寝て、お腹が空いたらルルちゃんが食事を用意してくれて、寒かったら暖炉があるし、たまにルルちゃんが僕を撫でてくれる。
こんな幸せな生活があるだろうか。
ああ、このままこの堕落した時間を過ごしていたい。
ずっとここで暮らしたい。
争いがない場所で生きたい。
いがみ合いも競争も命のやり取りもない。
殺すだのなんだの、切迫した状況に身を置く必要もない。
これが平和。
これが平穏。
僕の望んでいた生活なのだ!
「にゃふぅぅ……」
僕は床にゴロゴロと転がる。
背中がいい感じに掻かれて気持ちがいいよぉ。
ふええぇ、このまま……。
このまま……??
僕は気づく。
このままの生活をするつもりなのか、僕は?
あかんでしょう!
それはあかん!
僕を待っている仲間がいるのだ。
正直帰りたくない。
でも帰らないとみんなが危ないのだ。
任務をこなさなければ、どうなるかわからない。
処刑される可能性もあるのだ。
僕も、逃亡犯として殺されるだろう。
そうなったらルルちゃんを巻き込むことにもなる。
ここで生活していられない。
ルルちゃんとは離れがたい。
彼女はとてもいい子だ。
世話好きの上、僕を撫でる技術が半端ない。
素晴らしい女の子だし、境遇を考えると一緒にいてあげたい……というか僕自身が一緒にいたいと思うんだけど。
でも、そうはいかない。
すでに二日、僕は無駄にしてしまっているのだ。
いや僕としては無駄じゃないけど、任務的には無駄になっている。
思い出せ、僕!
僕が何をしに村へ行こうとしたのかを。
問題はここをどうやって出るかという点と、種をどうやって手に入れるかだ。
僕は懐にあるお金を確認した。
金貨十枚。
これで種を手に入れなければならないのだ。
さてどうする。
村へとりあえず行って種があるか確認して……でも六百食分の作物が得られる分の種は買えないだろう。
どうしたものか……。
いや、待てよ?
ルルちゃんの家は農家だ。
その上、この畑はもうすぐ売りに出すと言っていた。
となると……?
僕は無意識の内に窓から外を眺めた。
じーっと外を見つめる。
すると視界に何かが入った。
窓の外に見える倉庫。
その扉が開いて、中が見えたのだ。
あれは!
僕は思わず窓から飛び降りた。
僕は玄関の扉を開けて欲しいと、カリカリと爪で掻いた。
いや、自分で開けようと思えば開けられるんだけどね……。
『どうしたの?』
少女は扉を開けてくれた。
僕は外に出て倉庫に入る。
目的の物を見つけると、喜びに小躍りしてしまう。
種だ!
大量の種がある!
種植えをする前だったのだろうか、仕入れた後なのかな。
幾つかの麻袋に複数の種が入っているようだった。
カボチャとニンジンとダイコンか。
これだけあれば十分に六百食分の作物が得られるはず。
『なあに、それが欲しいの?』
「にゃあっ!」
まさか種があるなんて!
こんな幸運があるのだろうか!
これが手に入ればすべては解決する!
『……それを持って家に帰るの?』
ドキッとした。
そうなのだ。
もしも種を貰ったとしても、それはルルちゃんの家を出るということと同義。
別れるということだ。
『ダメ、あげない!』
「にゃ……?」
僕はルルちゃんを見上げて首をかしげる。
『そ、そんな可愛い顔してもダメ!』
ダメだったか……。
正直、恥ずかしくてしょうがなかったのに、我慢してかわいこぶったんだけどね!
顔から火が出そうなくらい熱い!
そこまでしてもダメだったわけだけど……。
ルルちゃんは僕を抱えて家に連れていく。
『猫ちゃんは、ルルと一緒に暮らすの!』
ルルちゃんは僕をぎゅっと抱きしめる。
どうしたものかと思案する中、ルルちゃんの身体は小刻みに震えていた。
僕はどうしようもなくなってしまい、ルルちゃんの首に顔を擦りつけた。
種を手に入れるにはルルちゃんから貰わなければならない。
ルルちゃんから種を貰ったらルルちゃんときちんと別れなければならない。
そしてルルちゃんは僕と別れたいとは思わない。
あっちを立てればこっちが立たず。
かといって勝手に持ち出すなんてことはできない。
そんなことしたら僕は自分を許せないし、多分罪悪感に押しつぶされてしまう。
申し訳がなさ過ぎて、自暴自棄になりそう。
……どうしたらいいのかな。
なんて思いながらも明確な解決策が浮かばずに、僕はただルルちゃんの体温を感じていた。
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