第13話 マタタビって最高さ!
迷いの森。
鬱蒼とした原生林で埋まっている土地。
巨大な樹木と野生の動物と魔物達が生息する、自然が支配する世界。
魔界からやや深い場所に僕の住処はある。
任務達成の功績により数日間の休暇を貰った僕は、久しぶりに我が家へ帰ってきた。
森の中で小さな広場があり、木漏れ日が照らしている。
小池に蓮が何枚か浮かんでおり、小さなカエルがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
辺りにはウサギやリスのような小動物が戯れている。
ここら辺は安全な地帯で、獰猛な生物はほとんどいない。
比較的静かだし、鳥のさえずりが聞こえるくらい。
広場の中央には巨大な樹木をくりぬいた家がある。
枝葉を刈って、中を空洞として、扉や窓を備え付けた家だ。
これが僕の城。
「あああ! 帰ってきた、我が家!」
見るだけで心が洗われる。
僕は帰ってきたんだ!
あまりの安堵感に涙があふれてきそうだった。
この激動の一ヶ月以上。
死ぬ思いをして過ごした。
今、生きているのが不思議なくらいだ。
場に参加したわけでもないけど、僕にとっては危険な日々だった。
任務を達成できなかったら、処刑されていただろうし。
とにかく今は無事を喜ぼう。
僕は丸扉を通って家に入った。
内部は左側に台所兼リビングがあって、右側には書斎がある。
仕切りはなく、全部の部屋は繋がっている。
二階は寝床でクローゼットや雑貨入れの棚があって、ハンモックが吊るされている。
結構質素だけど、暮らしやすくて気に入っている。
僕は荷物をテーブルに置くと、ソファーに寝転がった。
ああ、ちなみにここにある家具類はほぼ全部自分で作った。
魔物なのに作ったのかって?
ふふ、僕は魔物だけど、自分で何かを作ることは趣味なんだ。
だから料理をしたり、知識を得るために本を読んだりしているわけ。
本を手に入れるのはとても大変だけどね。
ただ僕には変化の能力があるから人間と関わること自体は簡単だ。
そのために人語も学んだわけで。
「……はぁ、どうしようかな、これから」
問題は山積みだ。
むしろ最初の頃より問題が増えてしまったような気がする。
報酬は結構貰えたので、懐は温かくなった。
次にドーラちゃんと会った時に、借金を返そう。
お金を貰うのは嬉しいけど、僕が欲しいのは平穏だ。
だけど正直、平和だった過去の生活に戻れるとは思えない。
「オクロン隊長、とりあえず休日をくれたけど、休日明けに任務がある、って言ってたしなぁ。
なんだろう……嫌な予感しかしないなぁ。
こんな時は現実逃避をしよう」
僕は居間の棚からマタタビを取り出して、くんくんと嗅いだ。
「ふわあぁ、これこれぇっ! これが癖になるんだよぉぉっ!
ふにゃああ……うへへぇっ……にゃうふふふぅっ!」
僕はテンションが上がってしまい、その場でゴロゴロと転がってしまう。
ソファーから落ちてもお構いなし!
いやっふぅぅぅっ!
嫌なことは忘れちまおうぜぃぃっ!!
僕はガンガンと家具に体当たりをしながらもマタタビを嗅いでは再びハイになる。
ふぇぇぇ……これぇ、最高だよぉ……!
「にゃふっ! にゃふふっ!」
僕はだらしなく頬を垂らしながら久々の時間を過ごす。
そしてしばらくして。
僕は冷静になった。
「……寝よ」
疲労が蓄積した上に、妙にテンションが上がってしまった僕は、突然の睡魔に襲われた。
眠い。
急激に疲れてしまった。
身体も心も限界だったのだ。
マタタビでも癒すことはできなかった。
もう寝るしかないのだ。
現実逃避の方法はそれしか残されていなかった。
僕は二階に行くとハンモックに横になり、毛布を被った。
「まっ、何とかなるさ。うん、そう考えよう!」
前向きに思考を変える。
だって、うだうだ考えても仕方ないんだもの。
もうやるしかないし。
だったら考えても無駄じゃない?
ということでおやすみなさい!
僕はすぐに意識を手放した。
なんとかなる精神のまま、眠りについた。
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