第6話 男の子なんだよなぁ
僕とコボくんは肩にスコップを抱えて並んでいた。
正面には荒れた畑。
枯れた作物が無残にも放置されている。
「んで、どうすんだ? おいら畑を耕したことなんてないから、
なんもわかんねぇんだけど」
確かに。僕も含めて魔物が畑を耕したことなんてあるはずがない。
それに農業に関しての知識もないだろう。
僕は少しばかりわかるけど、ドーラちゃんほど詳しくない。
ただやるべきことはわかっている。
「まずは畑の表層の土が弱っているから掘り返すべきだろうな。
その土を横に避けて、下層の土を更に掘って反対側に置く。
そしたら最初の表面の土を下層部分に埋めて、最後に下層の土で表層を埋める」
下層部分の土は栄養が残っているはず。
上層部分の土は以前は作物が実っていたはずだから下層は大丈夫だと思う。
……待てよ、もしかしたら畑を作ってみたはいいものの、作物が実らず困っていたという可能性もなくはないのか。
うーん、さすがにそれはないか。
村がここまで発展しているわけだし、畑がまったく育たない状況だったとは考えにくい。
うん、問題ないな。
「なるほどな!」
コボくんは満足そうに満面の笑みで自信満々に頷いた。
これは……!
「コボくん、今の説明でわかったのか?」
「わからないな!」
ですよねー。
あれだ、コボくんに言葉で説明しても多分ダメだ。
「やって見せるから、隣で見てるんだな!」
「おお、ワンダは何でもできるな! 助かるぞ!」
助かってるのはこっちだけどね。
コボくんが手伝ってくれるのは本当に助かる。
いい子だなぁ。たまにちょっと怖いけど。
僕は畑の端っこに移動するとスコップで土を掘った。
うーん、やっぱりちょっと重いな。
それはそうか。僕の身体の大きさに対してスコップは結構大きいし。
成人した人間用だから、かなり難儀する。
でも扱えないことはない。
魔物は人間に比べれば腕力も体力もあるからだ。
身体は小さくてもスコップを扱うこと自体は問題ない。
僕はさっき言ったように、畑の一部だけ表層の土と下層の土を入れ替えた。
「こんな感じだな」
「ほうほう! これをこの畑全部やればいいのか?」
「ああ、そうだな。かなり大変だが、これをやれば任務を達成できる!」
かもしれない。
畑の規模からして作物が実れば三百食分は得られるだろう。
食料の種類は別に指定されていないし、問題ないと思う。
大体の魔物は生だったり、食材を鍋で煮込むくらいしかしないから、味なんて気にしないはずだ。
それに種を手に入れるにしてもその作物が何かはまだわからない。
……まあいいか。あまり深く考えなくても大丈夫っぽいしね。
ふとコボくんを見ると、なぜかそわそわしていた。
僕をちらちら見ては、何か言いたげだった。
「どうした? 何か疑問があるのか?」
「い、いや……その、ワンダは、あ、あの恰好にならないのか!?」
「あの恰好? ドラゴンのことか? さすがに畑を耕すのには向いてないからな。
別に変化するつもりはない」
「そ、そうか……」
コボくんがしゅんとしてしまった。
見たかったのかな。
なんかかなり気に入ってくれていたし。
ドラゴン格好いい! って思ってるのかな。
しかしコボくんには悪いけど、四足歩行の姿では畑を耕すのは難しい。
それに変化の力は実は見た目が変わるだけなのだ。
炎を吐いたりできないし、腕力も体力も変わらない。
羽が生えたことで飛べることもあるけど、ほんの僅かだけなのだ。
威圧とか騙す時にしか使えない能力というわけ。
我ながら情けないけど、事実なのだから仕方ない。
まあコボくんには黙っておこう。夢を壊したくないし。
「げ、元気を出せ! 今回だけじゃなく、別の機会で披露する時もあるはずだ!」
僕の言葉にコボくんは暗い顔を一転、一気に輝かせた。
「おお! そうか! そうだな! その時を楽しみにしてるぞ!」
何という純粋さ。
これは本当に近い内に見せてあげないといけないな。
ここまで喜んでもらえるとこっちも嬉しいし。
「よし、それじゃ作業を開始するぞ! コボくん!」
「おう、わかったぞ! おいらに任せろ!」
おお! コボくんはやる気だ。
さっきの言葉が功を奏したのかな?
「頼むぞ! よし、じゃあ始めよう!
オレは反対側から耕す! コボくんはここから頼む!」
「任せろぃっ!」
鼻息を荒くするコボくん。
僕はうんうんと何度か頷き、反対側へ移動した。
さてこの畑、かなり広い。
僕とコボくんだけでやるには恐らく一週間ギリギリはかかるだろう。
それから腐葉土や種を運搬する必要がある。
ドーラちゃんが探してくれなければ、期限に間に合わないだろう。
とにかく時間はカツカツだ。
耕す時間をできるだけ短縮するのが重要だろう。
僕は歩きながら思考を巡らせた。
「うおおーッッ!」
うん? 気のせいか遠くで何か聞こえたような。
とにかくだ、畑を耕すには効率的に且つ的確にやらなければならない。
「うおおおおおおおおおおおッッ!」
うん? 気のせいか遠くで何か雄叫びが聞こえたような。
いやそれよりも、より効率的にだな。
「うおおおおりゃああああぁぁあぁあぁあーーーーーッッッ!!」
「な、なんだ!? き、気のせいじゃない!?」
何かしらの声が聞こえ、僕は思わず振り返った。
すると何ということだろう。
コボくんがすごい勢いで畑の土を入れ替えているではないか。
その速度と圧力は半端ない。
僕の場合はザック、ザックくらいだが、コボくんはザザザザザザザクである。
意味が分からないと思うけど実際にそう聞こえるのだ。
あまりに早すぎてザが連続でやってくるのだ。
その速度たるや尋常ではなく、手が見えない。
空を舞う土が遠くから見えるだけだった。
適当に掘っているのかと思ったけど、よくよく見るとちゃんと言った通りにできていた。
まずは真っ直ぐ移動しながら表層の土を横に置いて、端に到着したら折り返して下層の土を反対側に置く。
そしてまた折り返して表層の土を下層に入れて、端に到着したら折り返して下層の土で表層を埋める。
それが終わったら次の列、という感じで効率的、且つ迅速に作業をしていた。
なんということか。
どうやらコボくんはかなりの逸材だったようだ。
コボくんはあれだな。
頭で考えるより、行動した方がいいタイプのようだ。
おかしいなぁ。オクロン隊長はコボくんを役立たずという風に言いかけていたような気がするんだけど。
全然そんなことないじゃないか。
「よぉし、僕も負けてられないな!」
僕はコボくんの作業に刺激を受けて、奮起した。
さあやるぞ!
絶対に成功させてやる!
コボくんに触発されて、やる気が満ち満ちていた。
その勢いのままに僕は土にスコップを刺した。
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