第1話・その3


 

 八界市。よその地域の人間からは「ハチカイ市」と呼ばれることが多いが、正しくは「ヤサカイ市」と読む。

 戦前から複数の映画配給会社がスタジオ等を置き、「映画の街」として全国的に有名。20世紀後半からは特撮番組が多数撮影されるようになり、現代においては特撮ファンからは聖地とあがめられている。市民からのクレームなどで街頭撮影が難しくなっている昨今、八界市では撮影を容易にする諸条例が整備されており、故に「特撮特区」などとも呼ばれていた。

 そんな地域に降って湧いたのが、ファンタズマチャンネル現象である。

 現実世界の一区画を、特定の特撮番組内の世界に塗り替えてしまう――話で聞く分には非常に面白い現象だが、実際に怪我人、死人が出、社会経済に大きな影響が出るとなると、喜んではいられない。

 八界市は民間と手を組んで、自衛組織「スペシャル・シューティング・サービス」――通称3Sを立ち上げ、チャンネルが巻き起こす諸事象への対処を開始した。その活動はまだ始まったばかりだが、被害者の減少など、既に目に見えた効果は上がりつつある。

 もっとも、チャンネル発生の原因はまるでわかっていない。チャンネルが発生したのを受け、それに対処するという後手の対応しか取れないのが現状である。飯江亮太郎率いるスリーエス研究班が調査活動を行っているものの、解明の糸口さえ掴めておらず、現象の根絶にはほど遠い。

 故に一部の市民は市当局、3Sの無能や不手際を糾弾しているが、そもそも現象の解明など、3S――というか、地球人には不可能な話だ。

 なにしろ、魔害獣、そしてファンタズマチャンネルは、異界の魔の力によって生み出されているのだから。




「今日も遅くなっちまったな……まったくよぉ」


 スーツ姿の中年男性が、人気の途絶えた夜の住宅街を歩いていた。

 荒木浩二、38才会社員。週末、会社の飲み会に付き合わされた帰り道である。軽く酔ってはいたが足取りは確かで、まっすぐ自宅に向かっている。

 と――道の先に、奇妙な人物がたたずんでいることに気づく。

 身長体格からして、おそらく男性。古代ローマ風のチュニックみたいな衣服を身にまとい、頭には黒い犬を象ったような帽子を被っていた。知識のある人はエジプトの神アヌビスを想起したことだろうが、荒木はその手の知識は持っていなかった。

 男性は荒木に気づいて、顔を向けた。犬の帽子のすぐ下で、男の目が輝きを放つ。


「うあっ!?」


 荒木は息を呑み、小さな悲鳴を上げた。

 後ずさりしかけ――何故か足が動かない。

 突然の事態に、酔いが一気に覚める。恐怖の眼差しで犬頭の男を見返す。

 男は金色に輝く一枚のカードを取り出した。

 静かに荒木に歩み寄り、カードをかざす。

 近づくにつれ、金の輝きが少しずつ強くなっていった。

 そしてカードの中に、何者かの人影が現れる。


「反応している……。次は貴様に『奏星』してもらうぞ……」


 低く、よく響く声を、犬頭の男は漏らした。

 恐怖のあまり、荒木は全力で逃げ出したかった。しかし見えざる力に遮られ、直立姿勢から逃れられない。

 犬頭の男は、カードの一端を荒木の胸に押し当てる。

 と、ATMのごとく、カードは胸に吸い込まれ、消えた。

 その後には黒い一本のスリットが現れていた。


「解き放て……おまえの中の英雄を……!」


 犬頭の男の言葉をきっかけに、荒木の体内でカードが力を放ち始める。

 不思議な力が荒木の記憶を刺激し、とあるキャラクターの姿を思い起こさせた。在りし日の荒木を興奮させ、奮い立たせたヒーローの姿を。

 全身が輝き始めた。

 己の内側から力がわき出るような、不思議な感覚。

 ものの数秒で光は消え――荒木の姿は、別人に変わり果てていた。

 銀色をベースに、黒や赤のラインが入ったボディスーツに身を包んだ姿。

 頭部もヘルメットに覆われ、その内部にあるモニタから外を見ている状態。

 自分の姿を眺めわたし、荒木はその正体に気づいて息を呑んだ。


「これ……Uクリオン!? Uクリオンじゃないか!」


 子供の頃夢中になって見ていた特撮番組、「遊星仮面Uクリオン」。その主人公、Uクリオンの姿に、荒木は変わっていた。

 幼き日憧れたヒーローの姿に、自分がなっている。荒木は一瞬、奇妙な状況を忘れ、浮き立った。


「なんだよこれ!? なんで突然Uクリオンの格好になってるんだ……!? でもすごいリアルだぞこのスーツ!」


 一方、犬頭の男は顔をしかめた。


「また妙な姿になりやがった……この世界の英雄は、なんでどいつもこいつも妙な鎧を着ているんだ……?」


 疑問を口にしながら、もう一枚のカードを手にする。

 同じサイズだが、色が黒い。煙がたゆたうかのごとく、黒い輝きが奇妙に揺らめき続けている。

 黒いカードを、犬頭の男は先程と同じく、荒木の――今はUクリオンの――胸に突き刺した。


「我がファミリアよ……この男に宿り、奏星の力を支配しろ……!」


 カードを飲み込んだ途端、荒木の動きがぴたりと止まった。

 直立したまま、変身を解除。もとのスーツ姿に戻る。

 その双眸からは光が消え、曇りがかっていた。


「……この男の身体を支配しました。アイオン様……」


 荒木は答えた。荒木の声で、しかし荒木とは異なる口調で。

 犬頭――アイオンと呼ばれた男は軽く手を掲げ、「行け」というジェスチャーをした。


「……よし。然るべき時期を見計らい、チャンネルを開け。より多数の人間を巻き込めるタイミングを選べよ」

「……わかっております……」


 荒木は素直に答えると、犬頭の男の横をすり抜け、帰宅の途についた。

 犬頭の男はその背を見送って――自分の呼吸が少々荒いことに気づく。


「チッ。少しで歩いただけで随分と消耗した……この世界の空気は不愉快だ……ファンタズマが足りなすぎる……」


 舌打ちを一つして、犬頭の男も夜の闇の中に消えていった。




 市の中心から少し外れた国道沿いに、3Sの本部はあった。もともとは消防署で、老朽化にともない取り壊されるところだったのを、市が3Sの本拠として改装した建物である。立派な建築物とは言いがたいが、交通の便は非常によろしく、周囲には意外と自然も多い。ここで働く者にとってはなかなか快適な環境だった。

 ファンタズマチャンネルは火事にも似て、曜日を問わず発生する。故にこの土曜日も、複数の所属員が本部に出勤していた。


「教えて下さい。なんで俺たちの攻撃は魔害獣には効かないんですか?」


 そのレストスペースにて、アサルトチーム所属の狩野竜也は、研究班班長飯江亮太郎に質問を投げた。

 飯江はペットボトルのお茶の最後の一口を飲み干し、蓋を閉めた。空のペットボトルをもてあそびながら、答える。


「そりゃ、簡単な話だよ。君、特撮番組は見るかね?」

「いえ……もちろん子供の頃は見ていましたが、あまり覚えていませんね」

「そうか。特撮番組ってのは、端的に言えば、ヒーローが怪人を倒す話だ。逆に言うと、怪人はヒーローでしか倒せない。基本、ヒーロー以外が怪人を倒すことは許されないのだよ」

「それはそうでしょうが……」


 狩野は相づちを打ち、飯江の次の言葉を待った。

 が、飯江はそれ以上何も言わなかった。


「……それだけですか?」

「うん。それだけ」


 あっさりとした飯江の返答に、狩野は目を丸くした。


「いや待って下さいよ。それはあくまでも特撮番組の中の話でしょう?」

「その通り。だがね、その『中の話』が現実化しているのではないか、と私は考えている。正確には、ファンタズマチャンネルという事象の周辺では、と言うべきかな」

「話が現実化……?」

「理由は知らない。原理もわからない。ただ実際問題として、ファンタズマチャンネルはある特定の特撮番組の舞台を再現している。単に風景や建築物だけではなく、番組の中だけで通用する特殊な物理法則だったり、特撮番組一般に通じるお約束的現象までを現実化しているのではないか……というのが、私の見立てだよ」

「はあ……」


 飯江の主張を完全には理解しかね、狩野は生返事を返した。

 より具体的に、飯江は説明を続ける。


「君の最初の質問に答えよう。特撮番組では、我々みたいな一般人による武装組織は噛ませ犬として扱われる。警察だったり、架空の武装組織だったりね。通常兵器で武装した一般人ではまったく歯が立たない怪人を、ヒーローがやっつける。そうやってヒーローの強さを描写するわけだ。逆に言うと、我々はヒーローとの対比でボコられる運命にある」

「倒される運命にあるから、我々はどうやっても魔害獣には勝てない、とおっしゃるんですか?」

「そういうことさ。一般人が怪人をボコれたら、ヒーローの出番なんてないからね! ま、我々は怪人ではなくヒーローの方と戦わねばならないわけだが、人類を守る組織とヒーローが激突するという筋立てもよくある話ではあるし……とにかく現状、我々の勝ち目は薄い。だから魔害獣O類に任せるのがベターな選択なのさ」


 魔害獣O類。魔害獣でありながら友好的で、害をなす魔害獣――こちらはK類と命名されている――と戦う、グレンオーのような存在を示す、スリーエス独自の分類である。


「自分は、受け入れられませんね。どこの馬の骨とも知れない奴らに八界市の運命を任せるなんて、それでいいんですか!」


 思わず狩野は声を荒らげた。

 わかっている、と飯江は二度頷いた。


「もちろん、良くはないさ。いずれ我々はO類に頼らずK類を倒す力を手に入れなければならない。さもなくば、税金泥棒のそしりを免れ得ないからねえ。そうそう、そこなんだが、今日午後のミーティングで突入班に頼みたいことがあって……」

「何でしょう?」

「魔害獣の武装を鹵獲して欲しいんだよ」

「鹵獲……?」

「魔害獣は魔害獣でしか倒せないのであれば、彼らの武器を奪って利用すればいいんじゃないか? と思ってね。チャンネルの外に持ち出した物は、チャンネルが消滅しても残り続けることだし、試してみる価値はあると思わないかね?」

「なるほど。となると……」


 狩野が話を続けようとしたところ、不意に激しい足音が聞こえてきた。

 見やると、レストスペースに面した通路を、村上あやめがすごい勢いで駆け抜けていった。

 駆け抜けてから気づいたのだろう、あやめはバックで戻ってきて、飯江と狩野に叫んだ。


「ファンタズマチャンネルが発生しました! 工業団地の方だそうです!」

「……やれやれ。今日のミーティングは立ち消えかな」


 飯江は空のペットボトルをダストボックスに放り込んだ。


「ならばさっそく、鹵獲を試してみます!」


 小さく飯江に会釈した後、狩野は駆け出していった。




「見ろよ見ろよ! これ拾ったんだぜ!」


 土曜日の公園。

 小学校低学年の男子たちが、おもちゃの銃や剣を振り回して遊んでいる。

 銃を持った少年が「ズバババババン!」と見えない弾丸をばらまけば、剣を持った少年が「キンキンキン!」と見えない弾丸を剣で弾く。何も持っていない子供は「バリア!」などといってこれまた弾丸を防いでいる。やられ役がいない以上、ヒーローごっこは永遠に続きそうだった。

 たまたまそばを歩いていた蓮生は、そんな光景をぼんやり見つめていた――が、少年の持っている銃に気づいて、真顔になる。


「おーい。ちょっとその銃、見せてくれないか?」


 ヒーローごっこに割って入り、蓮生は声をかけた。

 蓮生の登場に、子供たちは一旦おとなしくなった。

 銃を持った少年は少しためらったが、蓮生の笑顔に少し警戒心を解いたか、素直に銃を差し出した。


「これは……神仙戦隊サイユウジャーのニョイボウガン!」


 蓮生は一目で見抜いた。

 銃形態からボウガン形態に変化する特徴的なギミックを持つ、比較的最近(といっても十年近く前だが)の特撮番組に登場した武器だった。

 ただし、どうやらこれはおもちゃ会社から発売された玩具ではなく、ファンタズマチャンネルの産物であるらしい。ずっしりとして、おもちゃにしてはあまりにも重量、質感が伴いすぎている。


「これ、どっかで拾った?」

「うん! その辺の茂みの陰に転がってた!」


 蓮生に問われて、子供は元気よく答えた。


(そういや、この近所でチャンネルが発生したことあったっけな)


 蓮生は思い出す。魔害獣はチャンネルの外で活動することも多い。3S、あるいはグレンオーたちと交戦し、その際にしばしば武器など所持品を取り落とすことがある。

 不思議なことにチャンネル外に持ち出された物は、チャンネルが消えても物として残ってしまうらしい。

 おそらくこの銃もその一つだろう。

 殺傷能力を持つ危険な武器を、子供たちは何も知らず振り回していたのだ。


「おいおい、まずいだろ! これで遊ぶのは危ないから、今すぐおまわりさんに預けとけって」

「やだ!」


 全力で拒絶すると、少年は蓮生の手からニョイボウガンをひったくり、全力で逃げ出した。


「あ、こら、待て!」


 蓮生は追いかけようとしたが、


「俺たちを騙して武器を取り上げようとする悪者め!」


 取り巻きの子供たちに足を引っかけられ、転倒。顔面から地面に激突した。

 子供たちは容赦ない蹴り、踏みつけを蓮生に雨あられと降らせ、全力逃走。あっという間に遠くまで駆け去って行った。


「おいこのクソガキども! 待ちやがれ! 街中でそれをぶっ放したら死人が出るぞ!?」


 なんとかして取り上げなくちゃ、という義務感に駆られる蓮生。

 ちょうどその時、スマホが振動した。

 嫌な予感がして、スマホの画面をつける。

 ファンタズマチャンネル発生警報の文字が表示されていた。


「なんだよ、こんな時に……!」


 場所は八界工業団地。現在地点とは随分離れている。

 遠くのチャンネルに向かうのが先か、子供たちから銃を奪うのが先か。蓮生は迷い――


「そういや、ニョイボウガンってダイヤル式だったよな」


 不意に、仕込まれたギミックのことを思い出した。

 ニョイボウガンにはダイヤルが組み込まれていて、特定の三桁の番号を入力することで機能が変わる。光線を撃つだけでは無く、捕獲用の網を放ったり、ビームフックを射出して高所に移動したり、といった多機能武器である。

 逆に言うと、番号を知らない限り、ニョイボウガンは無害であるはずだった。


「……多分あいつら、番号知らないだろ。生まれる前の番組だし……頼むからネット検索で調べないでくれよ!」


 決断を下すと、蓮生は近くの公衆トイレに飛び込んだ。

 内部に人がいないのを確認してから、ポケットからカードを取り出す。

 グレンオーの姿が描かれた、薄い金色の輝きを持つカードである。

 カードを手近な壁に突き立て、滑らせる。と、壁に亀裂が走り、扉が生まれた。

 かりそめの扉を開いて、蓮生は白い光の中へ飛び込んだ。




「……今日はちゃんとこっちに来たか」


 蓮生をまず出迎えたのは、魁の低く響く声だった。

 真っ白い床と天井に挟まれた、リビングのような奇妙な空間に、蓮生は踏み込んでいた。

 中心にテーブルが置かれ、その三方を二、三人座れる長さのソファが囲んでいる。魁は真ん中のソファに腰掛けている。

 照明はないが、天井全体が柔らかな光を放っていて、とても明るい。

 フロアの周囲に壁は無い。ただ扉のみが複数、無秩序に並んで、シュールな光景を作り出していた。

 蓮生がくぐってきたのも、そんな扉の一つである。

 別の一つが勢いよく開き――


「おはようございまーす……」


 不機嫌そうな顔の昴が姿を現した。


「人がせっかくカレー食べてる最中だってのにさあ! チャンネルももうちょっと発生タイミングを考えてくれなきゃ困るっての!」

「……おまえは土曜の昼間からカレーを食べているのか」


 困惑を隠さない魁を、昴はにらみつけた。


「何を食べようがボクの勝手だろ。というか毎日三食カレーでも問題ないよ。家族が許せばだけど」

「多分許さないでしょうネ」


 横手から、もう一人の少女の声が割り込む。

 昴は声の主を見やって、表情を和らげた。


「……アマルティア! 久しぶりー!」

「こんにちは。つい三日前に会ったばかりのような気がしますけど」


 名前を呼ばれて、少女――アマルティアは微笑みを返した。

 銀髪ショートヘア、透き通るような白い肌に青い目。日本人離れした――というか、明らかに異邦の顔立ちをした美少女である。着ているドレスは黒いシンプルなもの。上から白いエプロンをつければメイドに早変わり、といった服だ。

 昴は魁に頼み込む。


「魁、アマルティア連れ出していい? この部屋の中で一人でいるより、ボクの話し相手になってくれた方が絶対楽しいって!」

「許可できない。ファミリアを部屋の外に出すのはあまり良くないんでな」

「良くないってどういうこと? 説明して欲しいけど」

「細かいことを説明して、おまえに理解できるのか?」

「……はあ? ボクのことバカにしてんの?」


 険悪な雰囲気になりかけ、慌てて蓮生がアマルティアにアイコンタクトを送る。

 アマルティアは二人の間に割り込んで、微笑んだ。


「簡単に言うと、私はファミリアなので、外の空気が体に合わないんですネ。窒息とまでは言いませんけど、消耗が激しくなるもので……」

「ふーん。なら仕方ないね。ざーんねん」


 アマルティアの説明を受けると、昴の機嫌はけろりと元に戻った。

 魁はソファから腰を上げ、カードを取り出した。


「アマルティアと世間話がしたいなら、昴がこっちに来い。なんなら今からでも構わないぞ。カレーを食べたばかりで動くのがダルいんだろ?」


 応じて昴もカードをポケットから出し、その角を魁に突きつけた。


「ご冗談! この間は蓮生一人に持ってかれたし、今度はボクの番だよ!」


 そしてカードを自分の胸に差し込む。

 途端、昴の全身が金色の輝彩に包まれた。

 一瞬の後、輝きはガラスのように砕け散って消滅。

 その下から現れたのは、黄色ベースに白と黒を差した怪人の姿だった。

 いわゆる戦隊ものに出てくる戦隊メンバー、黄色担当の姿を元にしつつ、ところどころに邪悪さを想起させるデザインが織り込まれていた。

 アマルティアが扉の一つに歩み寄り、ドアノブを掴んで開く。


「いってっらっしゃいませ」

「行ってくるよ!」


 黄色い怪人は昴の声で応じて、勢いよく扉の向こうへ飛び込んだ。


「食ったばかりなのに元気な奴……」


 呟きながら、魁は左手の甲にカードの長い方の辺を当て、滑らせた。

 魁の姿も金の光に包まれ、光はすぐに砕け散る。

 その後に現れたのは、青いバトルスーツに身を包んだ、無機質で死の気配を放つ怪人だった。

 顔面には黒いX字のスリットが刻まれただけ、表情はまったくうかがえない。

 青い怪人――魁は無言を保ったまま、アマルティアに軽く手だけを振り、昴に続いて扉をくぐる。


「俺はまだ昼飯食ってない。さっさとケリをつけて、何か食べに行きたいね」


 最後に、蓮生がカードを握った。右側頭部にカードを当てて、


「魔害獣なんざ、朝飯前ならぬ昼飯前ってなもんだ!」


 威勢良く叩き込み、自分の身体を金に包む。

 輝彩がはじけ飛んだ後、蓮生の身体は炎の怪人グレンオーへと変貌していた。

 アマルティアに手を振って、蓮生が最後に扉をくぐる。


「行ってくるぜ!」

「お早いお戻りを待ってますネ」


 笑顔で応じて見送った後、アマルティアはぱたりと扉を閉じた。

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