147話

 見た目は全く変わらない魔王インビンシブルから発する威圧が伝わる。その魔王インビンシブルの口から『真魔王』と名乗り、何が面白いのか高笑いを上げている。


――――真魔王なんぞどうでもいい。


 何故こうなる?


 俺は顔色すら変えずに、ただ事の成り行きを見守ろうと決意。

 それは……今、俺に修羅場が、舞い込む。


――――何故、その眼差しで俺の手を握る?


 ユカリは聖剣を持つ俺の手をまるで包み込むように両手で握ってくる。そして、潤った上目遣いで頬を赤くする。

 そして、冷ややかな目がアヌビス達――――いや周りから突き刺さる。

 それよりもだ、ものすごい剣幕でやってくるペルセポネから放たれる威圧感は、真魔王インビンシブルの威圧をかき消している。

 ペルセポネの一歩一歩が、俺の中心にかなりの衝撃を受ける。


「あのー……ハーデスさん?」

「な、なななななんだ……ユカリ?」


 吃る俺についにやってくるペルセポネの怒号が。


「何しているのです。 こんな時に?」

「ハーデスさん……をいただきたい……」


 ペルセポネの怒号にユカリが気を退けている。

 しかし俺の手を先ほどより強く握り締めてくる。


「ちょっと、私の旦那よっ!! 早く手を離しなさいっ」

「離しませんっ。 私が相応しいと思ってます」

「はぁぁぁっ! 私は何年……何百年と共にいるのよ」


 ペルセポネの怒りが顔を紅潮させ目を血走らせるが、ユカリも負けじまいとペルセポネを睨む。


「時なんて、関係ありません!!」

「想いは私の方が上よっ。 なんてったって私、連れ去られたのだから!!」

「なら、今度は私が奪います」

「はぁぁぁっ? この小娘がぁぁっ!!」


 指を開けようとしてくるユカリ。


――――いがみ合う女同士の間が、こんなにもキツいとは。


 ゼウスの過去を思い出す俺、まさか自分にも同じ事が降り掛かってくるとは。


 その状況に、真魔王インビンシブルが高笑いをしやってくる。


「クックックックッ! 俺を恐怖し繁殖を優先したか?」

「「うるさいっ!!」」


 ペルセポネは、振り返り真魔王インビンシブルに向け斬撃を放つ。険しい顔のユカリも聖剣フラガラッハを差し向け奴を狙う。

 真魔王インビンシブルの両腕の付け根に突き刺さるフラガラッハ。そして崩れ落ちもがき苦しむ真魔王インビンシブルの足が切断され、地が赤く染める。


「――――何故だっ!! 何故ェェェッ。 このオレは、真魔王だそぉォォォォッ」


 その言葉を聞く俺だが、目の前のいがみ合う二人には届いて無い様子。

 アヌビス達やリフィーナ達は、少しだけ離れているのに気づき目を配るが、何故か全員目を背ける。


――――ユカリは何なんだ?何故その感情にいたる?


「邪魔が入りましたが、絶対に譲れません。 ペルセポネさんが狙おうと、本当にコレだけは絶対に譲れないです」

「旦那をコレ呼ばわりするとは……私たちをなんだと思っているの?」


 周りがソワソワしだす。リフィーナとフェルトは前に乗り出すようにこちらを眺めているし、ミミンは、ペルセポネを心配そうに――――いやうっとりと見つめている。


 ユカリは、この辺り響く程の大声を上げる。


「ペルセポネとハーデスさんの事よく分かってます――――」

「なら……その手を離し……」

「――――離しません。 私は勇者だからコレ、この……エクスカリバーが欲しいのですっ!!」


「……」

「…………」

「………………」


「へっ!?」


 修羅場に走っていた緊張が一瞬にして緩む。

 唖然とする周囲。ペルセポネも目を丸くしている。

 俺の手を包むように握るユカリは、真剣で力強い眼差しをペルセポネに向けつつ、俺の手を更に強く握りしめる。


――――痛みはないが、誤解が溶けて早く解放してくれ。

――――いや待て。解放したら聖剣エクスカリバーを振るうという俺の望みが消える?


「冥……ハーデスっ!! 早くユカリにその剣を渡して!」

「ハーデスさん、聖剣エクスカリバーはこの私――――勇者が持つべき、ですっ!!」


 ペルセポネとユカリ、二人の視線が俺に突き刺さしてくる。


――――渡せば楽なんだが。


 周囲特に、アヌビス達を眺めると俺との視線を外しこちらの状況を知らないふりをしているのが分かる。


――――諦める……か。


「……わかった……」


 俺は頭を掻き分け、聖剣エクスカリバーの柄から手を離す。俺の手を包んでいたユカリの手は、聖剣の柄を包むように掴んでいる。


「これで私は、もっと強く」

「はぁ、まぁ、それでユカリ。 早く魔王を、いや、真魔王を倒してきてくれないか」

「はいっ!!」


 慎重に真魔王インビンシブルに近づくユカリ。それに続くリフィーナ達。

 行先には腕でようやく身体を起こした真魔王インビンシブルが、俺たちを睨む。


「おっのぉっれぇぇぇっ!貴様らっ許さんぞっ」


 真魔王インビンシブルは、腕で身体を支えつつ少しだけ前進しているが怒りの表情は変わらず。


「魔王、足が無くとも魔王!! 警戒怠らないように」


 フェルトの声に頷くユカリ達。

 ユカリは、顎を引き視線をやや下にし真魔王インビンシブルをとらえ聖剣エクスカリバーに突き付ける。


「魔王! 私勇者ユカリがお前を倒す!!」

「倒すだと!? さっきまで縮こまっていた奴が……」

「縮こまっていないっうの! 回復すら出来ない真魔王って本当に魔王なの?」

「そう言われれば……そうですわね。 魔王なんだからもっと強く」

「むぅ、弱く感じるぅ」

「「……」」


 フィルとドナはかなり怯えているが、やはり技量、力量、異なる魔王だが、二回目の魔王と言うこともあってか立ち振る舞いが立派な四人。


「魔王インビンシブル!! 観念して私の刃の餌食になりなさいっ」

「ななななっななっ舐めるなっ!! 貴様らぁぁぁぁあぁっ」


 真魔王インビンシブルと激しくぶつかり合うユカリ達、その力は均衡している。

 ペルセポネの安堵と取れるため息。

 そして、目を逸らしていたアヌビス達が、何食わぬ顔で俺に声をかけてくる。


「王よ。 交渉相手逃げたが、どうする?」

「あの臭い女っ、あれほどの臭さを撒き散らすなんて、初めて知ったわ」

「ですが、王よ、向こうの警戒を解かなくては交渉できないですぞ」

「アヌビスとオリシスの言う通り。 こちらから会う事出来ない、人の生命を尊う事も無い奴だ。 親の顔を見てみたいものだ。 それにあの臭さ……」

「親の顔……ですか……」

「どこにいるか分からない親を探すより、あの臭い女の居場所を見つけた方が早いかも」

「そうです、王よ。 あの赤い空の下に降りた私達は、魔族の神すら見ていない」

「レベル上げにドラゴンやらゾンビやら、魔将とやを倒しまくってたけど、手応え無くてな。 あの魔王を見つけて魔神とやらとやり合いたかったけど……」

「会うことすらなかったわ」

「ここに来る間の違和感がある森。 もしかしたらソコにあるかも知れませんね」


――――レベル上げだと。アヌビス達も魔族の土地で苦労……いや楽しくしてたということか?


 ペルセポネが、真魔王と戦うユカリ達を眺めながら俺たちの会話に入る。


「森に確か、人や魔族と違う種族がいるわ」

「ペルセポネ。 違う種族……ならその種族に神がいると言うことか」

「さぁ、私も少しだけ寄っただけで、そんな話は聞いてないから――――わからないけど」

「寄った?」


 俺の言葉にペルセポネの目が泳ぐ。

 だが、その時ユカリ達の驚愕な叫び声と共に、大きな力の波動が俺たちの視線を集める。

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