146話

 激しく打ち合う金属音とほとばしる火花。

 エウラロノースの不敵な笑みを浮かべ、振り回す聖剣エクスカリバー。

 俺の二又の槍バイデントでやつの攻撃を打ち払う。

 中々隙を見せないエウラロノース。

 俺の狙いは奴の持つエクスカリバー。

 手放して貰えると助かるが、力の差を知らしめる為に奴の手ごと切ってもいい。

 たが、奴を殺してしまうことは今の時点は、厳禁。この世界の人に何か影響があるか分からん。

 俺はエウラロノースの猛撃、素早く振り回してくる剣を弾き返しながら、辺りに渦巻く業火を幾つも放つ。


「こっのぉぉぉっやろぉぉっ!!」

「もぅ、怖気付いたか?」

「何でっ人が――――冒険者如きがっ。 いやっコイツは母が言っていた奴」

「人の転移、その母が仕切っているのか?」

「うるさいっ!! 貴様に荒らされるわけにはいかない」

「そうか――――言わないか……」


 数多くの天を貫くほどの立ち上る業火に合わせ、聖女アルダーが放つメテオバーストがさらに地を焼き大地をえぐる。

 足場が悪くなる中、エウラロノースの飛び交ってる剣撃に手を焼いている。


――――エクスカリバー。この世界で最高の金属オリハルコンで出来た剣とか言ってたな。

――――だが、俺の持つバイデントは神の金属アダマス……別名アダマンタイトで出来ている。

――――かつて、俺の父クロノスがその父ウラノスの……アレを切った鎌が、このバイデントと同じ金属で出来ているんだったな。


 万物を斬ることが出来るアダマス……アダマンタイト。

 オリハルコンとやらも簡単に裂けるが俺は、聖剣エクスカリバーを手に入れる。


 何度も隙を狙い、弾き返ししてはエウラロノースがバランスを崩すのを狙う。しかしヤツは何故か、崩したと思ったら別の角度から斬撃を繰り出す。


「ええいっ、アルダー。 ヤツは火を使う!! 火でなく別の魔法を」

「わかったわい」

「それとぉっ、他の聖女から全ての力を寄越せと伝えろ」

「おっ――――それしたらっ!!」

「あと、そのババァ止めろっ。 ありだ、くるみィィっ」

「その名前で呼ぶなっ!! アウラっ」


 頭上から振り落ちる大きな氷のツララが、俺が放った業火に溶け込んでいく。しかし俺の生命線、ヤツがばら撒く悪臭をかき消す灼熱の炎の渦。

 ゆっくりと近づく人の気配。

 いや、俺と奴の競り合いで近づいていきたのか。


「もしかして、有田胡桃……先輩と――――浦北アウラ先輩?」


 ユカリの声が、二人の間に割って入る。

 目を見開く聖女アルダーと一瞬動きが止まるエウラロノース。

 俺のバイデントの刃が、やつの聖剣エクスカリバーを持つ手首を刎ねる。


「うぎゃぁぁぁぁああああっ!! アルダー回復……いや、全……聖女よっ生命エネルギーを送れっ!!」


 手首から真っ赤な血が噴き出し、暴れ回る鬼の形相のエウラロノース。

 天から降り注がれる光に包まれエウラロノースの手首が塞がる。

 俺は落ち着きながらゆっくりと聖剣エクスカリバーの刃を踏み、柄についた奴の手をバイデントで削げ落とす。


「きっさぁっまぁぁっ!! そのクソ勇者がぁぁっ」

「アウラ。 ここはっ」

「ハァハァハァッ……わかっているっ」

「逃げるのかっ?」

「逃げるわっ。 命あっての物種だし、私はこの最高の姿でずっと生きていたいのっ――――だから貴様を許さないっ。 母に言いつけてやるからなぁっ」

「母か。 マザコンか?」

「何を言おうと気にしないわ。 それに貴様が死ねば私は今まで通りに過ごせるもの」

「アウラ……早く」


 聖女アルダーはエウラロノースに手を差し出す。それに捕まるエウラロノースの視線は、未だ戦っているペルセポネと魔王インビンシブルの方へ。

 すると、エウラロノースは上空へ視線を動かし大声を上げる。


「聴こえるかっ!! 魔界の神クロセアノスッ――――その魔王をっ……真に……せ……」


 エウラロノースの言葉が消えると同時に聖女アルダーと共にこの場から消える。

 周囲に取り巻くあの臭いが消え、ただ大地を焦がす匂いが溢れる。


「まさか、あの先輩が……」


 ただ、消え去った二人のいた場所を眺めるユカリ。


「おい、あれっ!!」

「ペルセポネがっ!」

「空から落ちた黒いのが、あの魔王何がするのか?」


 アヌビス達が声を荒らげる。

 ヘルの高い声で俺は、ペルセポネに視線を向ける。

 既に弱りきっていた魔王インビンシブルに、振り落ちた黒い玉。それを受けた魔王インビンシブルは断末魔に近そうな叫び声を上げる。

 ペルセポネがこちらにやってくる。しかも駆け足で、何やら仕損じたような表情で。


「大丈夫か?」

「ええ、あの魔王――――いきなりすごい高い声で叫ぶのよ」

「王よ」

「どうした?アヌビス……いや三人とも」

「あれ、ヤバイんじゃない?」

「うむ、あの黒いエネルギーが溢れ出ておる」


 絶叫が終わり魔王インビンシブルが、笑いだす。


「きゃっ」

「ユカリそれっ?」「もしかして?」「ムッとして鑑識眼?」

「鑑識眼が……弾き返えされた」


 左眼から血の涙がスっと流れるユカリに、リフィーナが回復魔法を掛ける。


「貴様ら、特にその女!! 礼を言う――――」

「礼? 私、そんな素敵なことやってたの?」


 微笑むペルセポネ。俺やアヌビス達の視線は一気にペルセポネに向けるが、まだ、話途中の魔王インビンシブルは、笑いながら口を開く。


「あぁ、そうだ!! あの方から素敵なチカラを下さったのだ」

「あの方?」

「あぁ、魔界の神クロセアノス様……感謝」


――――あのエウラロノースが最後に叫んでいた魔界の神とやら……クロセアノス。

――――この二つの神の名前……俺の知る神の名と少し被るんだよな。人族の女の神の名を聞いた時は、そんなに気にしなかったが。今はな……。


「あぁ、ついに昇華させて頂いた――――我の名はっ真魔王インビンシブル様だっ!!」


 真魔王インビンシブルは、黒いオーラを激しく放出させ大気を揺るがす。

 その力になのか笑いあげるあの真魔王インビンシブル。

 二又の槍バイデントをしまう俺は、エウラロノースが叫んだ時にこっそりと回収したあの聖剣エクスカリバーを片手に持つ。

 ゆっくりと一歩一歩、踏みしめる度に笑う真魔王インビンシブル。

 エクスカリバーを持つ手に人肌の……熱、温もりを感じ、その方を振り向く。


「誰だっ?」

「ハーデス……さん」


 少し怯えつつ頬を赤くし上目遣いのユカリが、俺の手を握る。


「お願いします……お願い……私に……し……て」


 ユカリは足を震わし、直視できないのか顔を下にそむけ声も震えながら聞き取りづらい声。

 だが、ユカリは俺の手を強く握り締めてモジモジしている。

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