145話

 真っ赤に燃え上がる炎の球が、俺を目指し落下してくる。

 それを避ける事をさせないのか、エウラロノースの剣撃が、絶え間無く繰り出される。

 一瞬の隙も許さない攻防に、立ち込める土煙。

 エウラロノースの剣を弾き返す。

 奴の剣を何度も弾き返しているが、当のエウラロノースは、ふらつくも瞬時に立て直し剣を向けてくる。


――――やはり口と鼻を塞ぎつつは、キツい。


 迫る炎の球が大きく見え、徐々に上から熱さが伝わってくる。

 視線を上に向ける。

 聖女アルダーの声が響く。


「どくんじゃっ!!」


 素早く俺から離れるエウラロノースの姿が、轟音と爆発と爆煙で消える。


――――業火に身を焼かれるだろ。普通なら。


 更に爆炎に巻き込まれる俺に、吹き付けてくる高熱と煙。そして炎の球と地面の衝撃で土石が、俺に数えられないほど降り掛かってくる。


――――熱い、人間なら目を開けれないかもな……。


 爆音が、鳴り止まない。

 爆煙も、熱気も落ちつかない。

 あの炎の球が、止めどなく振り落ちてくる。


――――ちっ、初手のは落ちただろ。あんの婆さん、幾つも放ってやがるな。

――――直撃しても炎の球の方が壊れるだろうけど、熱が近づいてくるのが鬱陶しい。


 炎の球の直撃を避ける俺は、ある事に気付く。

 抑えていた鼻と口。指の隙間を通り爆煙と焦げた匂いを感じる。


――――アイツのくさい臭いが……消えた!?

――――爆発でヤツの臭いが拡散。焼かれた匂いがアレを薄めているということか!!


 口と鼻から手をどかす。

 煙を吸ってしまうが、あの息絶えそうになる臭さよりかはまだマシな方。

 塞がっていた手が使えるようになると、打つ手が増えるからな。


――――風魔法とかでの拡散は無意味だろうな。焦げ臭さが肝心なのかもしれん。


 地面を蹴り炎の球が振りおちるこの場から飛び抜ける。煙から飛び出てきた俺にエウラロノースは、驚くこと無く武器を構えている。


「こやつ、メテオバーストから抜け出しおったっ」

「だから言ったろぉ。 私ぃ〜勇者のスキルを付けてしまった事に――――後悔しているとなっ」


 バイデントの鋭利な刃がエウラロノースの首を狙う。

 肉体を貫く音でなく、響くのは金属音。

 迫る脅威の先端を体制を崩しながらも、俺のバイデントを払い除ける。

 飛び出した勢いを失った俺に迫まってくる、あの悪臭が、頭の中に激痛が走る。

 俺は口と鼻を手で塞ぎ、すかさずエウラロノースから距離をとる。


――――マズイな。


「逃げるなっ!!」

「何故、あやつはまた」

「アルダー!! 放て」


 俺は、未だ振り落ちている炎の球の中に身を潜める。激震が走るあの悪臭から離れる為だ。


――――やはりここなら。


 再確認をした俺に、もうひとつの仮説が浮かぶ。


――――焼けた匂いが俺の周りにあれば、俺は抑えた手を自由に出来るのではないか。


 炎を撒き散らしエウラロノースを無力化する作戦に移すと考えがまとまると同時に、炎の球が落ちてくる音すら無くなり、爆煙も静かに薄まっていく。

 考えがまとまった俺は、口と鼻を手で塞ぎつつゆっくりと煙から出る。


「何度も何度もメテオバースト使っても無傷じゃ」

「何度も掛けたんじゃないのぉ。 損害庇護保護膜を」

「そんなに消える度に掛けることなんて出来るかえ。 レベル十のヤツがじゃ?」

「私が、出来てるんだから出来るんじゃな〜い。 いい男だしぃ」

「お前、変わらぬの。 男となると目が節穴になるところが」

「だから、勇者のスキル付けちゃったんだよねぇ。 楽しみは多い方が良いとおもってねぇ」


 睨んでいる俺の目の視線を合わせてくるエウラロノースの表情は、悦に入ったような不気味に笑う。


「――――諸行無常……」

「えっ!?」

「あやつ何を言った?」


 口と鼻から手をどかし、その手を前に突き出しながら俺は、口が緩む。

 鼻に入るあの悪臭。

 しかし、口と鼻を抑えていた手に現れる灼熱が凝縮され黒くなった小さな球。

 俺は、エウラロノースの放つ悪臭に耐えながら、黒き小さな球を解き放つ。


「地獄の業火を知れっ」


 俺の手から解き放たれた黒き小さな球は、ものすごい速さでエウラロノースに目掛け飛んでいく。

目を見開くエウラロノースと聖女アルダー。


「ちっ!! なんだあの黒いの」

「魔力が凝縮されておる。 防ぐのじゃっ!!」


 大声を上げた二人は、黒き小さな球が破裂し血の色をした炎が、二人を包む。

 焼け焦げる匂いが、周囲に広がる。

 あの悪臭の苦痛が、弱まっていく。

 爆炎に包まれた二人を包む煙が次第に晴れる。

その中から声が聴こえる。


「あと何回いける? 咄嗟の判断で引き戻しちゃったけど」

「庇護膜でも、魔法壁でも無理じゃったから――――こうするしかあるまいてな」

「まぁ、あっちに勝てそうにないから。 使い道は上手くよね」


 立ち込める煙から人影が現れる。

 エウラロノースの姿に違和感を感じる。

 金髪で赤いドレスの女の首を掴んでいるエウラロノースは、その手を離す。

 鈍い音を立て崩れ落ちる金髪で赤いドレスの女は、人の形が残っているぐらいの焼けただれ、動くことすらない。


――――ユカリ達と戦っていた金髪で赤いドレスの女をいつの間!?


 俺は、一瞬ユカリ達へ視線を動かすと彼女らも目を丸くしている。


「あ〜ぁ……もう、使えないわ。 たった一度しか使えない盾なんて」

「あの黒い球を使ってきたら離れる避ける。 それが最善策じゃ」


 近づく俺に警戒をしているのか、距離を保ちながら離れるエウラロノースと聖女アルダー。


「さぁ、行くぞ」


 俺の声に、顔が引き攣り青ざめるエウラロノース。

 俺は勢いよく迫る。


――――臭いが薄まった。焦げ臭いのが上手く消臭される。


 再びバイデントの先をエウラロノースに向け、駆け出し、ヤツの手を狙う。

 そう、狙いは聖剣エクスカリバー。

 俺は、バイデントの先が狙いを定め突き出す。

 エウラロノースのかわせないと誰もが思う態勢から俺のバイデントを払い除けられてしまう。


「私は、どんな態勢になろうと防御が出来る」

「そうか……」

「じゃぁ、その落ち着き感から焦りになる顔が楽しみだったのに」

「ふん、俺にそれは、もう既に関係ないっ」


 俺の攻撃を聖剣エクスカリバーで防ぐエウラロノース。

 その位置はゆっくりと後退し反撃の隙を伺っているようだが、その表情は次第に険しくなっている。

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