144話
――――膝が地に着いたのは何時ぶりか?
――――ハルバードが割れたか……コベソ悪い。
大地に転がっている石に視線を合わせている俺は、握りしめていたハルバードを手から離す。
そして、片手……を直ぐに鼻を抑える。
「あら、鼻を痛めたって事? 私の見当違いのようね。 聖剣……エクスカリバーなのに」
エウラロノースは、振るった聖剣エクスカリバーの刃を眺め、まるで刃こぼれが無いか確認しているようだ。
「王よっ!!」
「今助けにっ」
激怒するアヌビス達が、こちらに駆けてくる。
ペルセポネさえ、魔王インビンシブルを蹴り倒しやってくる。
俺は鼻を抑えている反対側の手を軽く上げる。アヌビス達は地を滑り足を止める。
――――俺の不甲斐なさに、部下を面倒事に巻き込むとは……。
俺の視線はエウラロノースを突き刺す。
「何その目ぇ〜降参じゃぁないのぉ?」
「降参? 笑わせるなっ」
――――口から臭が入る!!
――――この臭い……神でさえ耐え難い臭いなのに、仮にもだ、地球の人間が吸ったら死んでしまう。
――――例える物が見当たらないこの悪臭。そう……この臭さで死んだらショック死か、いや臭いで死んだんだんたら臭死?
そんな事を頭に過ぎらせながら、俺はたち上がる。
「降参した方が、身のためなのに?」
「……」
――――これ以上喋るのは、キツい。耐えれるが……。
まともに対話できない俺は、二歩、三歩後退し試みるが。
「また、口と鼻を手で塞いだら――――命乞いをする言葉は届かないわよ」
「……する訳ない」
「まぁそうなのぉ? まぁ、お前は武器は無いのだから……」
アヌビス達は、俺の後方にいる怯えているのを感じるユカリ達の元へ向かって行く。
エウラロノースの目線はユカリ達にたどり着いたアヌビス達を捉えていた。
「そうか。 やはりそうか!! 貴様らは、母が言っていた奴らだな!?」
「母?」
エウラロノースは、左手を上に掲げると黄金の光が体にまとわりつき、その光が次第に鎧へと変わる。そして聖剣エクスカリバーを横に振り不敵の笑みを浮かべるエウラロノースに、黄色い膜が一瞬浮かび上がる。
「ふん、この人族の神の私エウラロノースの手で葬ってあげるわ」
「おまえ、母とは?」
「教えるわけないでしょっ」
振り下ろされるエクスカリバー。
折れたハルバードで受け止めるのはムリ。
俺は咄嗟に手に取る、二又の槍バイデントがエウラロノースの剣を受止め、払い除ける。
エウラロノースは、二又の槍バイデントの刃を避け後退する。
「ちっ、武器を持っていたなんて……。 いや、空間収納を持っているんだったな」
「あぁ……」
「その顔から手を離せば良いものを――――」
俺を睨むエウラロノースの視線が少し逸れると、その近くで歪む空間。
そして、聴こえる聞き覚えのある老婆の声。
「もぅ、事を終え遊んでいるのか?」
杖をつく老婆、聖国の聖女アルダーと、つい先程エウラロノースに変わったあの金髪で赤いドレスの女が現れる。
「向こうの状況は?」
「お互いが削りあっておる」
「聞きたかったわァ、阿鼻叫喚」
「そんなんでは無いわ……それよりもこっちの状況、宜しくないのでは?」
「ええ、母の言っていた奴らがわかった」
――――母か、あの聖女アルダーでは無い。人族の神だからその上にいると言うことか。
「あのユカリの傍にいるのもか?」
「あの姿で人族を守るか」
「つまり、あの男とお前は失敗したと」
「ユカリを殺せばいいだけの事」
「まぁ、あの姿の者を突破すればいいだけか」
聖女アルダーは、杖の先をユカリ達がいる先をさすと、金髪で赤いドレスの女が目を見開き疾走する。
「ちっ!」
「なんでアイツは口と鼻を塞いでいる?」
「知らん。 ハンデというつもりなのか」
「はっははは」
「こんな時笑うか……」
「その鎧に傷を付けるとは、ハンデありという事じゃ」
「なっ、この鎧に!?」
エウラロノースは、黄金の鎧を手探りで言われた傷を触る。
「この鎧に……この聖剣エクスカリバーと同じ、最高の金属オリハルコンで、出来た鎧なのよ」
「早く事を終え、立ち去らないからじゃよ」
「再び、組むか」
「そうするかの」
エクスカリバーを構えるエウラロノース。そして聖女アルダーは、その隣で俺と対峙する。
――――バレて良かった。そうこの世界の者ではないと分かってもらえれば対話しやすい。
――――だが、こうも敵意を向けてくるとなると……聖女アルダーは、殺してもかまわんだろうが。あの神は殺してはダメだろうな。難しいんだよ殺さずに扱うのは。
俺は、バイデントを数回振り回し臨戦態勢を取る。構える事などしてないが……。
エウラロノースと聖女アルダーは、目を合わせた後、お互い少し離れて武器を構える。
「その武器が幾ら硬くても、この聖剣エクスカリバーは最高の硬度。 いつまでいられるか」
「それにじゃ、私とエウラロノースが組めば、そこにいる魔王なんぞ、楽勝じゃ」
「――――そうか」
「強さなんぞわかるまいって。 あやつレベル十じゃ」
「レベルという数値に頼ってはいけないわ。 なんたってアイツに勇者のスキル付けちゃってるし」
エウラロノースと聖女アルダーが少し言い合いが始まってしまった。
俺の目が悪くなければ、ペルセポネと魔王インビンシブルとの戦いは、どう見てもペルセポネが余裕もって圧倒している。
――――それに気付かないのか?
そして俺は内心、異世界の神と聖女が、どんな攻撃を仕掛けてくるか心躍っている。
そんなエウラロノースは、不敵の笑みを浮かべながら聖剣エクスカリバーの切っ先を俺に向けゆっくりと近づいてくる。
聖女アルダーが、杖を空にかざし円を描く。
エウラロノースが、口を動かすが聴こえない。
二人に光るベールと板が出来ると、そのまま消える。
――――勇者のアレか……。損害庇護保護膜だったか!
エウラロノースが大振りに聖剣を振り下ろす。
二又の槍バイデントで聖剣を薙ぎ払おうと構える俺の目に入ったのは、空から俺を目掛け堕ちてくる多数の大きな灼熱の球。
「ちっ、払えばあれの餌食か」
「この攻撃で貴様の死は決まりだ!!」
「我が魔法で灼熱の炎に焼かれて死ぬか、聖剣で刻まれて死ぬかのどちらかじゃ」
エウラロノースの一撃は重い。
だが、俺は弾き返す。
しかし、エウラロノースはそれを逆手に再び俺を狙ってくる。
火花が激しく散り、攻撃の手を休むことなくエウラロノースの攻撃を弾く。
だが、その間にもあの灼熱の炎をまとう球が近づいくるのだった。
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