148話

 ユカリ達の恐怖する声。

 禍々しい波動が、この辺りに広がる。

 その中心には真魔王となったインビンシブルが、言葉にならない声を荒らげ空から振り落ちるおぞましい感覚が伝わる柱に包まれている。


「あれは!?」

「あの柱……《魔王の儀》というやつだったような」


 確か魔族領内にある北の国アイスクォールで魔将スノーに放たれた禍々しい色をした柱。


「魔王の儀? あれに入れば魔王になれるっていうのか」

「なんか苦しそぉ」

「演出ですかね。 簡潔にやれそうなと見てて思いますが」


 苦しくもがいている真魔王インビンシブルを眺める俺とペルセポネ、引き気味のアヌビスとヘルに分析しているオリシス。

 そんな真魔王に対峙するユカリ達。


「これって……」

「ええ、《魔王の儀》ですわ」

「むっ、あの魔王になれるってやつ」

「魔王……。 魔王なのに?」


 ユカリ達は、俺たちと同じ疑問を持っているようだが、やはり問うべき所はユカリの言葉通り。


「何故、魔王よりも上の真魔王となった奴が、魔王の儀をされている?」


 首を傾げるアヌビス達。

 ペルセポネは、再び武器を手に取り微笑みを浮かべる。

 すると、魔王の儀の中で見覚えのある姿が目に映る。


「あれはっ。 魔王ノライフ!?」

「そうですわ。 あの姿忘れませんわ」

「むっ、あの鎧のは」

「あれは、魔王バスダト」

「リフィーナさま、ユカリさん達。 もしかしめしたら真魔王が、顕現するかもしれません」

「フィル……わん」

「フィル、どういうこと?」

「本来、魔王はその時代に一体のみ。 ですが、今期は三体――――つまり……」

「つまり、もしかして?」

「ええ、三体の魔王が集まり本来の魔王……真魔王の姿になると。 私達エルフの頂点にして長のアイナノア様が言ってました」

「あ、アイナノア……様……が?」

「そうです、リフィーナさま。 エルフ内では伝わっている話でもあります」

「あっ、そそそそそうだったわね……あはは……はぁ」


 フェルトとミミンは冷ややかな目で苦笑するリフィーナを眺めている。


「柱が消える」

「さっきとは全く違うじゃない」

「なんであろう、少し楽しみですね真魔王の実力」


 アヌビス達が笑顔にユカリ達の所へ向かい出す。併せてペルセポネも肩を回しながら向かっている。

 あの禍々しい色をした柱と真魔王インビンシブルの苦痛の声が消え、真魔王インビンシブルの姿が顕となる。


「これが……私……本来の私か!?」


 先程までと全く姿が違う真魔王インビンシブル。無骨な鎧の姿では無くなり、ローブをまといその下には軽そうな鎧、そして褐色肌をした中年男性の顔が、不敵な笑みを浮かべこちらを睨む。


「飛べっ、フラガラッハッ!!」


 ユカリの上で待っていた聖剣フラガラッハが、光を放ち五本のフラガラッハと同じ剣が発生する。併せて六本の剣が真魔王インビンシブルに向けて放たれる。

 だが、真魔王インビンシブルの背中に後光のような光を放つ輪から、ほとばしる光がフラガラッハの行く手を阻み、しまいにはユカリの上へと戻ってしまった。


「なんで!!」

「それは、簡単な事だ。 真なる真の魔王――――真魔王になった私が強いだけの事」


 低い声でニヤリとする真魔王インビンシブル。

歯を食いしばるユカリ達の横をペルセポネ達が、通る。


「少しマシになったようね」

「ほんと、初めはお前を見て魔王の力量知って愕然としたけどな」

「ほんとよ。 なんなら魔将の方が強かったし」

「うむ、この双杖を振るう相手を求めてました」


 ペルセポネ達の登場に真魔王インビンシブルの笑みが消える。


「ちっ、双剣の女に、珍妙な三人」

「珍妙……くっくく……」

「珍妙じゃねぇし、ペルセポネ笑わないでくれるか?」

「アヌビスとオリシスは見た目からして珍しいけど、私は美人で有名よっ」

「ヘルの言葉も私からしたら心外。 ですが、それよりも我々を数える単位……助数詞は『柱』ですけど」


 真魔王インビンシブルに冷たく敵意剥き出しの目を向けるペルセポネ達。


――――神の数え方は『柱』だが……。依り代に入った俺たちはこの世界の人族という存在でこの世界にいるからな、『柱』だろうが『人』だろうが、オレは気にしてなかったけどな。


「お前たちは、もしかして……」

「おっ、あの魔王分かったみたいだな」

「ペルセポネに先越されないように、私達からしかけるわ」

「うむ、だがヘルよ。 その剣でいいのでありますか?」

「刃こぼれしているし、大振りになってしまうけど……棒を使うわよ」


 ヘルの手には既に自分の身の丈より少し長い棒がある。アヌビスはウアス杖を手に持ち、既に双杖を持つオリシスは頷く。


「それで、この真魔王の私を倒そうと。 珍妙……がっ……」


 笑い上げながら話すインビンシブルの視界に飛び込むのはヘル。

 間合いに入ったヘルが長い棒を振り回す。

 棒がしなりにしなり、真魔王インビンシブルの脇腹を直撃。

 絶句するインビンシブルは、目を見開き口を半開きしたまま横へと倒れようとする。

 しかしアヌビスの持つウアス杖をインビンシブルの肩へ振り下ろす。杖の先端が肩にのめり込み目が見開いたまま、そのまま倒れ地面に倒れ伏している。

 インビンシブルは、歯を食いしばり立ち上がろうとする。

 だが、インビンシブルの背中に跨るオリシスの双杖が、インビンシブルの首を捉える。

 インビンシブルの頭が地に付くとアヌビスとヘルが薄ら笑いを上げる。


「真魔王さまが、その程度とはなぁー」

「ほんとぉ、期待してたのにぃ〜。 気持ちが沈んでしまうわ」

「うむ、我々三柱の攻撃がすんなり入るとは、この私も残念である」


 歯を食いしばるインビンシブルの目は、アヌビス達を睨むも曇りつつある。


――――まぁ、一瞬にし叩き落とされ地に着いている、力の差を知ったようだな。


 そんなインビンシブルを見下す冷ややかな目をするペルセポネ。


「でも、魔王を殺すの……勇者しか出来ないのよ」

「それ、本当かっ!!」

「それじゃぁ、どんな事やっても死なないのっ!?」

「分からないわっ。 でも勇者しか殺せないのは事実」


 ペルセポネの視線はユカリに。アヌビス達の視線はそのままインビンシブルへ、不気味な微笑みをして。

 その三つの表情にインビンシブルは、血の気が引くのが分かるほど青ざめている。

 ユカリが重い腰をあげ、ゆっくりとペルセポネ達の所に向かう。

 それを確認したペルセポネの視界に真魔王インビンシブルの無惨な姿に目を丸くしている。


「本当に死なねぇな」

「頭何回も潰しているんだけど、即死になるものは元に戻っちゃうのね」

「名前の通り無敵かと思っていたが、ダメージは受けるようだな。 しかし我々では簡単に殺せぬと言うのも無敵の意味通りか」


 オリシスは、真魔王インビンシブルの頭と地面に広がる血を眺め分析をしている。

 悲痛な叫びが枯れて声を失っている真魔王インビンシブルに飽きているアヌビスとヘル。


「あら、もう飽きた?」

「飽きるだろ。 真魔王ともあろうが死に際を諦めてくれないんだからな」

「疲れるわ。 のれんに腕押しってやつ」

「何をしようとしているんだ、ペルセポネ」

「オリシス、そいつ抑えながらちょっと後ろにズレて」

「分かった……」


 オリシスは首抑えていた双杖を外し、腰の辺りにズレ双杖で背中を押す。


「グヌヌヌッ、貴様ァァァッ何をする気だっ」

「へっ、魔王の魔石を取るのよ。 隣に勇者いるし」


 真魔王インビンシブルの背中に剣の切っ先を向けるペルセポネの隣には、剣を握ったユカリが倒れている真魔王インビンシブルを見下げている。

 真魔王インビンシブルは驚愕な顔で、ユカリの姿を見ている。


「せぇっ、のぉぉっ」

「ウッ、ギャァァァッ」


 待機を揺るがす悲痛な叫び。

 真魔王インビンシブルの叫びを気にしないペルセポネ達。

 インビンシブルの背中にぽっかりと穴が空く。

 すると、七色に輝く彫刻された魔石が現れる。

 次第に真魔王インビンシブルの空いた背中がゆっくりと修復されようとする。

 その隙に、ペルセポネの手が見えない程の速さで魔石を奪い取る。

 背中を修復が止まるが、少し遅めに再び修復が始める。

 しかし、再び止まる。

 背中の先、真魔王インビンシブルの首が、切り落とされ頭が地を這うように転がっている。

 インビンシブルの切断された首元から噴き流れる大量の血。


「何度見ても、首から噴き出す血はキレイと思う」

「そうねぇ、でも私たちでは出来なかったのにぃ〜、勇者がやると……こうも鮮やかに血が噴くのね」

「見事!!」

「ちょっと、この魔石の煌々とした輝きよりも血ぃ?」

「ぬっ、真魔王とやらの身体が……」


 インビンシブルに跨っていたオリシスが立ち上がる。

 下にいたインビンシブルの肉体が崩れ始めやがて塵と化す。

 魔石に興味の無さそうな素振りのアヌビス達は残念そうに、消えるのを見ているが、ペルセポネは、消えた真魔王インビンシブルに興味なく、ただ魔石を眺めている。


「キャァッ!!」

「「ユカリィッ」」

「むぅ、魔石がっ」

「ちょっとっ、なんで魔石が浮くのっ?」


 ユカリから抜きでるように現れる魔王の魔石と、ペルセポネの手から離れた真魔王インビンシブルの魔石が、かなりの速さで飛んでいく。

 魔石の行先に皆が視線を向ける。


――――誰だ?

――――いつの間にいんだ?


 まるで影のような真っ黒いローブを羽織り、フードで顔が見えない者が立っている。三つの魔石がその者を中心に回転しながらフワフワと浮いている。


「やぁ、まさか魔王三体を倒してしまうとは。 それにアウラ……エウラロノースが居なくなると――――これは、困った」


 影のような黒いフードの者の若そうな口調とは裏腹に、真魔王インビンシブルとは比べ物にならない威圧を感じている。

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