85話

 フェルトは、スケルトンナイトの力に押し負けない為か大盾の裏に潜り片膝を地面に付け支える。

 その大盾をスケルトンナイトは、その大盾に武器を打ち付けて、火花を散らしながら轟音を響かせている。

 打ち付けられる大盾を支えている事しか出来ないフェルトの後ろでリフィーナも身を抱えスケルトンナイトの視界から外れている。


「フェルト、私出る。 このままだとフェルト危ないし」

「ダメよ。 このままこのまま、リフィーナが出ても……」

「分かっているけど、この十数体の攻撃いつまで受けられていられるの?」

「分かるけど、ユカリが向こうを倒すまでの辛抱だわ。そうしたら反撃……ん」

「音が……」


 フェルトとリフィーナは、大盾から少しだけ頭を出してスケルトンナイトの状況に目を丸くする。

 十数体いたスケルトンナイトが、内部から爆発しその塵と化した破片が、大気に舞い散る。


「何が起きたの?」

「あ、あいつ……」


 ユカリが、スケルトンナイトを一体残す所まで倒していたその時、ペルセポネの二本の剣を振るい数が捉えられないほどの斬撃が、スケルトンナイト十数体を粉々にし、そのままマナラの正面に向かう。


「ペルセポネさん、そっちは……」

「あいつ少しずれてない?」

「いやもしかしたら、あれを倒すのでわ?」

「あぁ、あれ……かぁ」

「おねぇ……さまぁ。 素敵」


 剣をスケルトンナイトに突き刺しトドメを刺すユカリが、見た二本の剣を翼のように広げ走るペルセポネの先にはファントムやスケルトンメイジがいる壁に飛び乗っている。

 その壁の上を見渡したユカリ達は、ペルセポネの進路方向に納得している。

 そして、俺も焦らずペルセポネに近づくように歩み進める。


「大丈夫そうだな」

「えぇ、スケルトンナイトに手こずってしまって」

「まさか、スケルトンでもあんなに強いなんて……。 フェルト大丈夫?」

「持ち堪えたけど、何度もスケルトンナイトの攻撃、打ち付けられて手が痺れて……」

「むっ私ももうヘトヘト。 魔法使えないよぉ」


 座り込み休むフェルトとミミンに、立ち上がりペルセポネの行く先を眺めるリフィーナ。そして、ユカリが、持っていたポーションをフェルトとミミンに渡し、二人は飲み干していた。

 俺は、疲弊しているユカリ達に声をかける。


「見ての通りペルセポネは、あの魔族となったカツオフィレの騎士、団長といってたあの二人を全く気にかけて居ない」

「そんな事、見てれば分かるけど」

「ペルセポネさんらしいっちゃそう思うわ」

「ハーデスさん、もしかしてあの二人どうするか、ですか?」

「あぁ、勇者のパーティーである君達が戦うのか。 俺があの二人を倒すかだな。 そう……攻撃は最大の防御と言うからな」


 俺の言葉を聞いたユカリ達四人は、一斉に目が合い無言のまま頷くとユカリが、俺に向かって決意を固める。


「いえ、私達が戦います。 魔王ノライフを倒すのも私達」


 ユカリの言葉を聞いた俺の目に入って来たものは、リフィーナやフェルトにミミンが、ユカリの言葉を発した後力強く頷いている。


「おぉいっ。 お、おおおおおん女ァァァッ」

「俺達を無視して、ガァァッ。 何ィィファントォォォォムゥゥゥ」

「おいおい、あの女ァ。 そう易々とファントム、スケルトンメイジ倒せるんだぁぁっ」

「もしかしてだっ。 あいつの剣。 聖剣かぁッ」

「もしかしてなんて無いだろぉ。 勇者でも無いならアイツの持つ剣。 唯一無二の聖剣……エクスカリバーに違いなぃぃっ」


 壁の上にいるファントムとスケルトンメイジは、剣を振るうペルセポネに向け風や氷の魔法を放っているが、ペルセポネの剣の斬撃は、その魔法すら切り裂き、放つファントムとスケルトンメイジも倒されていく。


「ペルセポネさんの剣を見ていると……あれね次元が違うって思い知らされるわ」

「アイツは規格外なのよ。 ランクAとか言うけどこんなに長く一緒に行動してたらそれ以上なんて分かるよ」

「おねぇさまの事、リフィーナ認めたぁ」

「ハーデス貴方もだし、ペルセポネも私には分からないほどの高次元なのよ」

「さすが、アホエルフ……。 いやアホでは無いな」

「当たり前って何度も何度もアホって言うな」


 リフィーナは、俺に向かってしかめっ面をしているが、直ぐに笑顔になると周りにいる三人も笑い出す。


「みんな、あと二人。 やるわよ」

「そうね。 やりましょう」

「当たり前よ。 あんな高次元の存在目指すわ」

「ミミンも目指す。 おねぇさまとぉねぇ」


 ミミンの発言に三人ため息を吐くが、その当人は少し頬を赤くしている。

 そして、マナラの街に入る事を阻むカツオフィレの騎士団第五と第六の団長は、ファントムやスケルトンメイジを一方的に倒しているペルセポネの状況に目を見開いていたが、そこに迫ってくるユカリ達に気づくと表情が、ガラリと変わり険しい面持ちになる。


「第六ぅ気にすんな。 それよりも本命が来たぞぉ」

「そそそそそそそうだなっ。 第五いい事言うでは無いか」

「アイツら勇者とその仲間を殺して。 そそくさと戻るぞ」

「あぁそれが良い。 そうしよう」


 棘の着いた鉄球を軽々と縦回転させる第五騎士団の団長と、少し大きめの剣を片手で担ぎ上げる第六の騎士団団長は、チラッとペルセポネの動きを確認し、安堵の息を吐くと直ぐに視線をこちらに向ける。


「勇者ぁぁ。 よくも我が軍の兵を倒してくれたなぁっ!!」

「このカツオフィレ全体が赤い空で覆われている。 どういう事かわかるか?」


 分からないと手を振るユカリだが、リフィーナがそれを聞き直す。


「赤い空……。 まるで魔族の土地、魔界みたいだけど」

「赤い空、緑色の太陽。 ――――緑色の太陽は赤い空の影響で緑に見えるらしいが。 それよりも赤い空だっ」

「第六の、さっさと話したい事を話せ」

「あぁ、赤い空は、魔素が濃い影響で赤くなる。 つまり、青い空である人族の土地だと魔素が薄いため魔族は、本領発揮できん。 つまりココだと貴様らなんぞ一捻りだっ」


 大盾を構えるフェルトの後ろには、ユカリとリフィーナにミミンが、既に陣形をとり態勢を整えていた。

 俺は、ユカリ達の後ろで待機する。奴らがユカリ達を飛ばし馬車を狙わないようにする為だ。

 フレイルを振り回しやってくる第五の騎士団長は、おおきく振りかぶって棘の付いた鉄球をフェルトの大盾に当てる。大きく鳴り響く金属音は、まるで鐘のように反響する。


「さぁ、やるぞ勇者とその仲間ァ。 これが戦いの合図だぁ」


 第五の騎士団長の怒号を浴びせてくると、第六の騎士団長も剣をとり切っ先をユカリ達に向ける。


「やるわよ」

「魔族、倒すっ」

「むーっ!!」


 間合いを狭める二人の騎士団長に、ユカリも声を荒げ声を張る。


「貴方達に、勝って魔王ノライフ。 やつを倒す」

「青い空の下でしか魔族を倒してない勇者に、赤い空の下での魔族を思い知るが良いっ」


 険しい顔でユカリ達を睨む二人の騎士団長が、ユカリ達に向け走り出した。

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