86話

 フェルトの大盾スキルである挑発のプロヴォウグによって第五と第六の騎士団長は、フェルトの構える大盾にそれぞれの武器を振るい、激しく打ち合う。

 だが、騎士団長二人が大盾を攻めている時にユカリとリフィーナが、二人の隙を狙い攻撃を仕掛けようと走り込むが、プロヴォウグの効果が消え騎士団長は、ユカリとリフィーナに向きを変える。


「勇者ユカリィィッ逃げるなっ」

「大盾の嬢ちゃん。 そろそろスキルを使う力が、尽きるんじゃねぇかぁっ?」


 フェルトの大盾より後ろに退くと、プロヴォウグを再び発動させ二人の騎士団長は、大盾に惹かれ大盾を狙い出す。だが、二人の騎士団長は、大盾を狙いつつも鋭い目線は、ユカリとリフィーナに向けられている。


「この二人。 レベル二十五とあの鉄球回しているのが二十七」

「レベルだけなら何とかなるかも……だけど」

「そうだわ。 騎士団長なのよあの二人。 技術面でとうか」

「私は打ってでる。 ミミン援護よろしく」

「ほーぃっ。 任せてっ」


 少しずつ前に出るユカリは、フェルトの大盾の横を通り過ぎると走り出し第五騎士団長に向け突進する。

 だが、第五騎士団長の不敵な笑みを浮かべ右腕が横に振るうと合わせて棘の付いた鉄球が、薙ぎ払われる。それが視線に入るユカリは、自らの剣の勢いを殺し身を屈め鉄球をやり過ごす。

 第六騎士団長が、割って入ろうとする所にミミンの放たれた数多くの石礫が、まるで雹の様に降り注ぎ第六騎士団長の行く手を阻む。

 ミミンの魔法ストーンバレットが、更に第六騎士団長の行く手を阻むと同時に攻撃を仕掛けている。

右往左往に行き交う棘の付いた鉄球。

 それを交わすのに精一杯のユカリは、攻撃が出来なくなっていた。


「中々、こちらに攻撃の主導権を譲ってくれないのね」

「譲って欲しいなら勇者ユカリ、貴様の命を譲ってくれれば攻撃させてやろう」

「そうしたら、攻撃出来ないじゃない。 それにそう易々と命をあげられないっ」

「なら、そのうち力尽きて我がフレイルの餌食となれ」


 ユカリは、屈んだり跳ねたり身体を逸らしたりと第五騎士団長の攻撃を避けているが、それに痺れを切らした第五騎士団長は、第六騎士団長に怒鳴り散らす。


「おっ第六ぅ。 貴様は何しているんだっ?」

「何ってなんだっ。 俺だって攻めているんだ」

「攻めるってのはなぁっ。 こうやるんだよォォ。 貴様はただ見ているだけでは無いか!!」

「今まさに腹だしエルフにっ」

「誰がっ腹だしエルフだぁっ」


 緑色の太陽の光で細剣の刀身を光らせながらリフィーナは、第六騎士団長に打ってでる。第六騎士団長とリフィーナは、剣と鍔迫り合いや打ち合いをし、中々決め手にかけるが所々押されそうなリフィーナをフェルトの大盾での守りとミミンの魔法であるストーンバレットが、助けにはいる。

 フレイルを振るう第五騎士団長の間合いに上手く入るユカリ。フレイルをおおきく振りかぶった右腕の関節にユカリの剣が、入る。その剣筋は、逆袈裟に斬り上げ肘諸共切断されるが、フレイルを持った腕が、宙を舞い鉄球が、回転を強め次第に俺に向けて飛んでくる。


――――おい、まさかまさかっ。


 血飛沫を上げた第五騎士団長の右腕を俺は、腕をのばし片手で受け取る。棘の付いた鉄球が振り子になり俺の顔と腕の間で揺れ動く。

 無言でユカリは、第五騎士団長の腕の行方を見ていたが、俺が受け取ると視線を直ぐに対峙している騎士団長に戻す。だが、その第五騎士団長は、ユカリに目を大きく開いて白い歯を見せ笑みを零す。


「クックック。 我の腕を斬るとはなぁっ」

「まさかっ」

「まさかだよぉっ。 俺の腕よぉっ、その黒服のぉ男をヤレェッ」


 目を見開いた顔をするユカリが、再び俺に向け振り返ると俺の手に持つ第五騎士団長の手首が動き、鉄球の鋭い棘の先端が俺の顔に迫る。


「ガッハッハ。 清々しい顔でこっちを見やがってぇっ。 俺様の鉄球でその顔も真っ赤に染まってぐちゃぐちゃになっただろう」

「ハーデスさんっ」

「ハーデス!!」

「ムッー!!」


――――危ないな、この鉄球。 棘もあるから普通の人間ならこの鉄球が迫ると危険だろう。


 棘の先端が、俺の鼻先に当たりはするが、刺さる事は無くそのまま顔面の前に鉄球がぶら下がる。

 受け取った第五騎士団長の腕を軽々と握りして潰すが、その瞬間上空から、いや壁の上から大気を震え大地を揺るがす怒号が、響きその声にユカリ達と二人の騎士団長が、身をすくめた顔を歪ませる。


「きっさぁまぁぁぁっ。 私のォォ旦那に何してくれとるんじゃァァァッ!!」


 二本の剣を振るうペルセポネの両脇にあった壁が、切っ先から地面に向け一直線に綺麗な一本線の亀裂が入る。

 そして、怒りに満ちた鬼の形相をし鋭い眼光を発したペルセポネの視線は、俺に攻撃してきた第五騎士団長に注がれる。

 その視線に畏怖を感じる第五騎士団長は、ペルセポネからの襲撃に身構える事なくただ、立ち尽くしている。


――――あっ、これはダメなやつだ。 あの街の半分を含むこの辺り一帯、耕されてしまうぞ。


 ペルセポネは、農耕の女神。春をもたらすと言うが、その裏には生と死の間を廻ると言うのもあり、ここに有るあらゆるものを絶命粉砕し、大地の肥料に変えてしまい作物を育ててしまう。しかも意図も簡単に。

 騎士団長二人もだが、ユカリ達やコベソやトンドまでも粉砕され大地の栄養となってしまうであろう。

 そうなってはこの世界に来た事が、破綻となってしまうし楽しみも減ってしまう。そう回避するためいち早くペルセポネの行動に気づきペルセポネの動向を目指する。

 そしてペルセポネが、壁から第五騎士団長に飛び付く。

 俺のステップでミミンの横を通り抜け、更にステップでユカリ達の所に辿り着くと、直ぐにペルセポネに飛び付く。

 第五と第六の騎士団長とユカリ達は、ペルセポネの声に固まっている。

 鬼の形相というより般若のような憤怒に満ちた顔をするペルセポネに俺は、左腕で脚を抱え右腕に肩を抱く。俺はペルセポネをお姫様抱っこし、再びペルセポネが飛び降りた壁に戻る。


「なっ!!」

「良いんだ」

「何……がっ。 あの野郎っ! 冥王さまの顔にキズを……をっ!?」

「俺は、無事なのだがな。 あんな物に俺は傷つけられん」

「でも、うん」


 抱き抱えるペルセポネの顔は、先程までものすごい剣幕の顔だったのに対し今は俺と目を合わせながら頬を赤く染めうっとりとしている。


「そう怒るな。 ペルセポネ、君は笑顔の方が素敵だし魅力的だ」

「……ぽ」


 壁に乗るとペルセポネを下ろすが、モジモジして中々離れないペルセポネを俺は抱き締める。


「あっちゃぁ。 二人のイチャつきなんて見たくないのにぃ……はぁ」

「そうね。 ……羨ましいけど」

「フェルト、今何か言った?」

「えっ? ううん。 あー、二人仲むずましいねって言ったかしら」

「そう……」


 ため息を吐くリフィーナと抱き合う俺とペルセポネに視線を捕らわれているフェルトだが、ミミンの叫び声とユカリの掛け声に我に戻り、対峙していた騎士団長二人に視線を向ける。


「ムッー!!」

「コイツらは私達が、倒すっ」

「そう来なくっちゃ」

「あのフレイルってやつを慎重に対処すれば……」

「ユカリはそのフレイルのやつを」

「任せて」

「ミミンは、ユカリに援護して攻撃を仕掛けて」

「むっ、わかったぁっ」

「私とリフィーナは、あっちを倒すわ」


 ユカリ達全員が頷くと、再び第五、第六騎士団長に武器を向けると激しく打ち合う金属音や魔法での爆発する音に怒号の掛け声が、壁の下の大地ので繰り広げられているが、把握する事はしない。

 何故なら俺の視界には愛するペルセポネの姿しか見えないし、俺の聴覚もペルセポネの声のみを捉えようとしている。


「これ、見て魔石」

「綺麗だな」

「そう、キレイ」

「俺はペルセポネが一番なんだが」

「もぅ、冥王さまったらぁっ」


 ペルセポネを見つめ合いっていると時間を忘れ、いつの間にか競り合う激しい轟音は、無くなっていた。

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