81話

 フォルクスの妹が作った料理を食べ終わると、そこにやつれた顔したコベソとトンドが現れ、ゆっくりと椅子に腰掛け無言のまま食事に手を出す。


「ちょっとぉっ。無言すぎるっ」

「コベソさん、トンドさん。 『いただきます』は?」

「フェルトっ。 そこじゃなくてぇ」

「えっ」

「あぁ、すまん。 すまん、いただきます」

「いただきます」


 リフィーナとフェルトの事を気にもせずに、そのまま貪り食う二人は、時折ため息を混じえてスプーンを動かしている。


「二人ともどうした?」

「明日には完成させねばならんのだ」

「何を?」

「いや、それは言えん。 まぁギルドには明日向こう側にいるアンデッドを討伐してくれと言ってしまってな」

「それで、急遽ポーションを増産しなくてはならんのだが、ここでは機材が小さくてな……」


 トンドの言葉が徐々に小さくなり、やがて力尽きため息を漏らすと併せてコベソもため息をつく。


「まぁ、自分から言ってしまったんだから自業自得よねぇ」


 リフィーナの鼻を鳴らして言うとその言葉を聞いたフェルトとミミンは、頷いてそれを賛同している。


「俺は、コレからあの魔王ノライフと戦うとしているであろうお前らの武器や防具を造っているんだ」

「えっ!!」

「それ本当ぉーっ」


 テーブルに手をついて飛び上がるリフィーナとフェルト。


「あぁ、だが必死になってやっている俺達に優しい言葉すら掛けないお前達だからな。 さてどうするか?」

「ちょっとでも手抜いたら承知しないんだからっ」

「リフィーナ。 大変お疲れのコベソさんとトンドさんになんて事言うのっ。 謝って」

「えぇぇ。 フェルト……態度変わり過ぎて変だ」

「そうだ、フェルトよ。 ハーデスさんとペルセポネさんに鍛えられろっ。 武器や防具を変えた所で技量が足りんかったらなんも意味無い」

「そう、さすがコベソ。 言う事違うわね」

「お前もだ、リフィーナ。 特訓して貰わなければお前の武器防具はダサくするぞ」

「ダサく……って?」

「俺とトンドの顔を彫った武器や防具にするか。 これでヒロックアクツの武具だと一目瞭然。 いい宣伝にもなる」

「ぜ~っ、たい、イヤぁっ」

「なら、見学なんて許さん。 参加しろ」

「分かったわ。 やってやるわよ」


 こうして、ユカリ達勇者パーティーの特訓が、始まった。

 あの会話の最中にペルセポネが、フォルクスの妹に『美味しかったわ。この前より一段と美味さがましてたわ』と伝えていた。フォルクスの妹も万遍の笑みをしていたのを俺は、見届けていた。

 全員食事を終えフェルトやミミンにユカリも笑顔でコベソの造る武具について盛り上がっているが、不機嫌な顔をしながらブツブツと呟いているリフィーナが、後から着いてきている。


 外に出ると歩哨の兵が見えるぐらいの位置に俺達は、街から少し離れる。

 ゆっくりと武器を構えるユカリ達だが、俺とペルセポネに向き合った瞬間、ペルセポネの姿が消え大盾を構えたフェルトの目の前に着く。

 驚くフェルトだが、地面に背を擦りながら倒れミミンが、受け止め介抱する。


「あんたっ!! 急にっ卑怯じゃない」

「ふん、何言ってるの? 敵が、アナタ達の準備を待つと思うの」

「でも、特訓なんでしょ」

「外に出てるの。 いつ魔物が現れてもおかしく無いのに。 それに目の前にいる私とハーデスは、今この特訓の時間は敵なのよ」

「……」

「フェルト、ペルセポネさんの言う通りよっ。 確かに油断……侮ってたわ。 もしここに魔王が急に現れてたら」

「わーっ。 わかったわよ、分かった。 フェルトすぐに」

「えぇっ」


 俺も参戦しユカリ達勇者パーティーを何度も地に手をつけさせていた。だが、日が落ちる頃最初の頃よりか反応が良くなっていた。

 ユカリ達は、重い足取りでセレヌの街に向かうのに対しペルセポネは、久々の運動で上機嫌。


「なんか、軽くだけど動けてスッキリだわ」

「そうか、あの女魔法使いの時かなり動いてたじゃないか」

「あれは、ダメよ。 思いっきり振り回したいのよ」

「今度の魔王でそれをすればいい」

「そうね。 お膳立てを私がヤレば」


 頷く俺は、足取りが軽いペルセポネと共にユカリ達の後に続いてセレヌの街に入っていった。


――――そして、次の日。


 俺達は、カツオフィレとランドベルクを分ける硬く閉ざされた国境の門の前にいる。この門の前には既に何十人ともなる兵士や冒険者が、武器を構え群がっている。

 そして、ムキムキ半袖に髭面のギルドマスターが、群がる兵士や冒険者と門の間に現れ挨拶をしている。

 だが、最後尾にいる俺達は、その声が届かない。しかし、この場に来る前にコベソから聞いていた事を思い出す。


「お前たち、そしてハーデスさんペルセポネさんもお願いしたい」

「何よ。 もしかしてアンデッド?」

「あぁ、カツオフィレ側にいるアンデッドを討伐してくれ」

「……」

「今日この街の兵士や冒険者が、撃ってでる予定になっている。 それで今積んでいるポーションやらを納品しに行くんだが、少し嫌な予感がしてな」

「嫌な予感ってどんな感じなんですか? コベソさん」

「あぁ、分からんが……あれだ。 何か途方も無いヤツが来たりして」

「尚更嫌よ。 コベソの予感当たりやすいって」

「えぇ、私も。 確かにコベソの予感って当たるわ」

「途方も無いヤツ……。ドラゴン?」

「ドラゴンなんて!! おねぇさま怖いっ」


 飛びかかって抱きつこうとするミミンを躱すペルセポネは、横に首を振るコベソを見て軽くため息をつく。


「そんな途方も無いんだが、ドラゴンって感じじゃないなぁ。 よく分からんからお願いしたい」


 そうコベソが、手を合わせ言っくるものだから嫌がっていたリフィーナは折れて、この場にいる。

 俺とペルセポネは、コベソの予感を気にし期待を込めやってきている。

 そして、ギルドマスターが手を高く上げ一気に振り下ろしその場から離れる。アンデッドを街への侵入を防ぐ為に大盾を構える兵士が並ぶ。

 ゆっくり扉が開き向こう側の景色が見えた頃、雪崩のようにこちらに悲痛な唸り声をあげる青ざめた肌に乾いた血がへばりついたゾンビが押し寄せて来た。

 大盾を構える兵士の間から勢いよく冒険者達が、武器を振るい次々に襲いかかってくるゾンビ達を地面になぎ倒していく。

 騒がしい掛け声と共に門を抜けてカツオフィレ領に入る冒険者達だが、急にその勢いが止まる。


「調子こきやがって冒険者共が」


 低い声で大声を出す者が壁のようになって滞留する冒険者達の向こうにいる。そして、その壁から負傷した冒険者を引っ張ってランドベルク側に連れてくる者が、俺の目に入る。

 ギルドマスターやギルドの職員らしき者も、負傷した冒険者達を引っ張り介抱していた。


「貴様っ!!」

「おい、誰かこいつをギルドにぃっ」


 低い笑声と共に、カタカタと何かが動く音が向こう側からやたらと聴こえる。


「すスケルトンだっ」

「この鎧ぃ。 アンデッドなのかっ」

「薄汚い冒険者共ォォ。 このカツオフィレ第七騎士団団長で、更にィ、魔族としてお前らをっ。殺しに来てやったぞぉ」


「まままっ魔族ぅぅっ」


 冒険者達の叫び声が、大気に響く。だが、俺には全く状況が分からない。


「やはり、最後尾に居たら全く分からないわね」

「そうだな。 このアホらしい内容からして騎士団団長の魔族とスケルトン数体が、向こうにいるんだろうけどな」

「それなら、わかるわ。 でもねぇ」

「なんか、緊張感の無いな。この状況……」


 俺とペルセポネが、冒険者達の壁で何も見えない中ユカリ達も困惑を隠せない顔をして話し合っている。


「魔族らしいわ」

「第七とか言ってたけど、騎士かぁ。 少しだけど特訓したし少しだけどダンジョンも潜ったんだから……。戦い甲斐があるでしょ」

「むっ。 スケルトンもいるとか。 私の魔法でやれる」

「そうね。 レベルとか不明だけど、でもカツオフィレの騎士団の団長は強い。 だけどもう、引き下がれない。魔王ノライフが、私達に仕掛けて来たと解釈して良い……かも」

「魔王……。 ここからが魔王ノライフへ挑戦の幕開けって感じね。ふぅ……緊張してきたぁっ」

「みんな、武器を構えて油断なんて許されないわ。 気を引き締めて、アイツと戦いましょ」


 フェルトが、大盾を構えながら先導し冒険者達をかき分けてユカリ達と共に前にでる。

 引き気味になる冒険者達は、前に出てくるユカリ達に進路を譲るように、後ろへ後ろへとゆっくり後退している。


「ムムっ何用だ、女ぁっ。 貴様らが、この魔族となって更に強くなった俺様に楯突く気なのかっ?」

「そう、私は勇者ユカリっ。 貴方を倒す者よ」

「ききききっ。 貴様が、貴様がァァ、勇者ァァァかぁァっ」


 激し怒りの振動が伝わる程の怒号が、若干耳が痛い。全く見えない俺とペルセポネ、同時にため息を吐く。


「多分怒ってるのね」

「あぁ、勇者に対して怒ってるんだろうな」

「そうかもね。 でも、もしかしてら城が、あの惨状だったから怒ってるのかも」

「それもありそうだな。だけど……全く見えんからな。わからん」

「そうね。 あんな冒険者達が、意外とゾンビは簡単に倒せるが、驚きだったわ」

「倒すと言っても何人かの魔法使いとかがトドメ刺していたんだろうけどな」

「まぁそうだろうね。 でもこの状況……」

「だな。 散ってくれると有難いんだけどな」


 ユカリ達にカツオフィレ第七騎士団団長とスケルトンの対峙する状況が、野次馬と化している冒険者達に遮られ全く見えない俺は、右足を軽く地面を叩きイラつきを抑えていた。

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