80話
コベソとトンドは、この街セレヌの支店の中で従業員と共に作業に入ってしまった。その為、俺達は、近寄る事は出来ずに店舗にて並べられた椅子に座わっている。
この部屋から空を眺めるとランドベルクに入った時は赤い空が、今では徐々に元の色である空の色に戻りつつある。
女性陣が、談笑している中俺はある事に気づく。
「そういえば、ペルセポネとフェルトあんなにいがみ合ってたじゃないか? いつの間に、元に」
「ええ、あれね」
「そうです。 あれは誤解でした」
「だから、ハーデス気にしないで」
「そう言われると気になるが」
「私が、仲違いしたのよ。 本当言葉足らずで行き過ぎるフェルト、そりゃ自分の目の前で旦那に迫ってたら怒るわ」
呆れた顔をしながら淡々と話すリフィーナに、フェルトは、顔を真っ赤にししょげている。
つまり、フェルトが俺に迫ってきたのは教示を受けたかったのだが、言葉足らずでペルセポネとしては、フェルトが愛人にしてくれと言っていると聞こえたらしい。
――――誤解が溶けて良かったが……。 異世界と言えばハーレム。 強い者に惹かれて恋に落ちるなんて少しだけ体験というかそう言うのをしてみたかったと言うのが本音。 しかし俺にはペルセポネがいる。
そんな気持ちの中で、ペルセポネが鋭い目付きを俺に刺してくる。
「そうだな。 ペルセポネと俺でフェルトに戦って見ると良いかもな」
「良いんですか?」
「何? 私も……」
「当たり前だ。 強くなろうとする者に手を差し伸べるのが良いという物だろう」
「何が良いという物だろう……ですか。 まぁこっちは攻めでフェルトが守り。 良いわ」
「あっ、ありがとうございます」
「戦うだけで盾について俺達は、分からないから自分で精進してくれ」
「は、はいっ」
「つまり、あれね。 殴り掛かってやるから自分で試行錯誤して勝手に強くなれって事ね。 呆れた」
「リフィーナ!! あのスペクターを簡単に倒せる二人なのよ。 こんな強敵と対峙できるなんて……」
「はいはい。 まぁ良いわ。 私は、見学ね。 ユカリは?」
「技術は伸ばしたい。 私も混ぜて欲しい」
「むっー。 私も。 おねぇさまの援護するぅっ」
熱意が高まるフェルトのユカリとムッとしているミミンを眺めているリフィーナは、少しだけ寂しそうな顔をする。
「リフィーナは、見てて改善案を出すといい。 後連携に案があれば入ってきてくれ」
「ふん。 そんなの言われなくても私達ユカリのパーティーなんだから入るわよ」
ツンとした顔をするリフィーナは、ユカリ達と笑顔になる。
「じゃ今か――――らぁ?」
リフィーナの声に被るように聞いた事のある男性の声が、この支店内に響く。
「すみませんっ。 コベソさんトンドさんいらっしゃいますか?」
冒険者タリアーゼのリーダーであるフォルクスが、扉を開けて直ぐに頭を下げていた。
この部屋にいる者は、全員フォルクスに注目している為か無言になっていた。そしてフォルクスが会いたがっていたコベソとトンドは、この部屋に居ない。
店員さんが、フォルクスに二人の事を伝えると少しだけ肩を落とし店員さんに何度も頭を下げていた。
「この度は、ありがとうございました」
「伝えておきますから」
店員さんが、所定の位置に戻ろうとすると俺達の存在に気づくフォルクスは、困ってた顔から笑顔になると店に入り俺達の元に歩み寄ってくる。
「いゃ、お二人さん。 あっユカリさん」
「久しぶりだな」
「そうですね。 ハーデスさんも変わらず」
「どうしたの?」
「えぇ、助けて頂いた事の感謝を伝えにと思ったんですが」
「まぁ、あの二人ならそんなの気にしないだろう」
「そうだと思うんですが、やはり言わないと気が済まないという性分でして」
「厄介ね。 所でこの辺りで広い場所ってある?」
「えっーえぇ、あぁ……。 ギルドにも有りますけど。 ローフェン程じゃないんで、やはり外の方が良いかと」
「フォルクスさん。 二人はコレから事を考えて何か作業していると言ってたんで終わったらでも良いかと」
「そうですね。 先程の店員さんにもそう言われ。 そうだっ」
「なにっ!」
ユカリへ返答していたフォルクスが、何か気づき大声を上げるとこの部屋に大きく響くと共にリフィーナ達三人は、ビクッとする。
「いや、ドラゴン。 ドラゴンが飛んでったんですよ。 カツオフィレの方に」
「あっ……」
「もし、カツオフィレに向かうのであれば気をつけてください。 ドラゴンなんて魔王と同等もしくはそれ以上の強さですから」
「わっ分かりました。 フォルクスさん達も気をつけて」
「ありがとうございます。 他のメンバーにも伝えます。 勇者様に言われると感激ですから」
「ちょっと、待った」
ペルセポネが、急に声を張る。
俺達は、全員ペルセポネに注視する。
「ドラゴンって魔法使う?」
「俺は、分からないですね」
「使うわ。 多分だけど使うって聞いたわ」
「むっ。おねぇさま。 殆どが使えますよ。 ごく稀に使えないドラゴンもいるんですが」
「種族なのか、歳を重ねすぎて物忘れが激しそうな人とは違い、ミミンの言葉だと説得力あるわー」
「だぁーれぇが、歳を重ねすぎてよ。 まだこれでも若いんだから。 物忘れなんてしないんですよ。エルフはっ」
「あっ!その髪色……エルフのっ。 俺知ってます。 もしかして青銀の戦乙女の三人ですか?」
「ええ、私たちがそうですわ。 でも今は勇者のパーティーをしているのよ」
「まぁ、ランクBの私たちが仲間なんだから魔王の一体二体なんて楽勝よ。 今回のアンデッドの元凶である魔王もパパっと倒して見せるわ」
「魔王を倒した勇者ユカリさんの新たなパーティーが、まさかの青銀の戦乙女だなんて。 嬉しいのやらです。 これでランドベルクや隣国のカツオフィレも平和になれば――――」
奥の作業場に続いている扉が、急に開くと怒鳴り声が、この店中に響く。
「おにいちゃん!!」
「いっ」
「冒険者なんだから、早くみんなの所に戻りなさい」
「妹よ。 元気な兄がきたんだぞ」
「何が元気よ。 ダナーさん達が倒れているのにこんな所にきて良いの?」
「それは……」
「さぁ、戻った戻ったっ」
追い払う妹にたじろぐ兄のフォルクスは、そのまま店の外に出されて泣く泣く冒険者ギルドに戻って行った。
そして、一息つくフォルクスの妹は踵を返して作業場に戻ると思いきや俺達の前に立つ。
「皆さん、食事はどうですか。 奥で用意してますが?」
「そうね。 有難く戴くわ」
「俺も、貰う」
「私もいただきます」
「正直、いい香りがしてたのよ」
「お腹が、ムッと減ってたのぉ」
「まぁ、頂こうじゃないのっ」
俺達は、フォルクスの妹の先導でいい香りがする、その場所まで案内される。
「ペルセポネさん、もう言わせませんからね。美味しいけど庶民の味なんて」
「えっ? あぁ……」
忘れてたのかフォルクスの妹の言葉で思い出すペルセポネは、少し困惑気味な顔をし、フォルクスの妹はしたり顔でペルセポネの顔を覗いていた。
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