79話

 門を抜けそのままヒロックアクツ商事の支店に向かうのだが、途中で声を掛けられ行く手を阻まれ困る御者は、コベソを呼ぶ。


 コベソが、小窓から行く手を阻む者を睨む。


「助けてくれっ! コベソさん」

「俺の名を呼ぶのは……貴様かっ」

「知っている奴なのか?」


 コベソの後ろからトンドは、訪ね外の様子を知ろうとする。リフィーナやフェルト達も窓から外の様子を伺っていた。


「あぁ、フォルクスだ」

「フォルクスか……」

「誰なの?」

「ローフェン、セレヌ間の輸送護衛をして貰ってた冒険者だ」

「ふーん。 若そうね」


 トンドは、皆に窓を占領され外の状況が分からないのにも関わらずリフィーナは、足止めくらっている者について聞いていた。


「どうした!?」

「怪我人がいるんだ」

「怪我人だと……トンド出るぞ」

「アンデッドの襲撃被害少なさそうだが」


 コベソとトンドは、フォルクスの元に向かうとそれに続いてユカリ達も降り、心配そうな顔をしているが動きがソワソワしたペルセポネもそのまま続いて降りる。勿論俺も降りコベソユカリ達の後ろから耳を澄ます。


「怪我人――――国境の門を封鎖してアンデッドの襲撃防いだんだろ?」

「そうですだが、数多くやられてしまって」

「分からん。 攻撃を受けて無いのに怪我を追うのが」

「時間が無いんです。 皆衰弱してきて……。 兎に角来て欲しい、詳しい話は向かいながら話します」


 焦りが顔の表情から浮き彫りになっているフォルクスは、直ぐにでも怪我人の元に向かおうとしているが不信感を抱くコベソとトンド。

 コベソは、馬車を支店に向かわせるよう御者に指示を出すとフォルクスの案内で怪我人の元に向かう。

「今、怪我人は冒険者ギルドで治療中……いやただ、休ませてます」

「ポーションとか回復魔法使えるものは居ないのか?」

「えぇ、ギルド内の在庫も街で売っている店の在庫も使い切ってしまって」

「うちのヒロックアクツの物もか?」

「多分そうだと。 俺が手配したわけではないので全部かどうかはわからないのですが」

「なんで怪我人がいるんだ」

「門を封鎖してアンデッドが雪崩込むのを防いだんですが、その変わりあの国境の壁を乗り越えるアンデッド……グールが現れて応戦していたんですが、倒しても倒しても起き上がってきて」


 早歩きするフォルクスの歩幅から、駆けてコベソ達を連れて行きたいと言う気持ちが伝わるが、それよりもアンデッドに対して疲弊の色が見える。

 すると、コベソ達の後を付いて来ているユカリが、口を開く。


「まだ、倒してないのですか?」

「えぇ、杭で地面に貼り付けて動けない様に」

「私達、行きます」

「そう来なくっちゃ」

「そうだな。 お願いする」


 フォルクスにそのグールがいる所を聞き笑顔になるリフィーナを含むユカリ達四人は、その場に駆けていく。

 ペルセポネは、離れていくユカリ達の後ろ姿を目で追っていたが、グールには興味がなさそうで目が合った俺に首を振る。

 俺達は、ユカリ達とは逆方向に進み目的地である冒険者ギルドにたどり着くと一目散に中へ入っていくフォルクス。

 俺達は、いつもの通り慌てずに中に入るとコベソとトンドは、目を見開く。

 人が横になって通る隙間しか無い程敷き詰められた布の上に人が横たわっている。傷が酷く苦痛の表情と声が、この部屋を埋め尽くす。

 フォルクスは、冒険者や兵士と言っていたが街の人の様な格好の者も数名いる。


「これは酷い」

「早くしなくては」


 トンドが、袖をまくり横たわっている人を踏まないように慎重にそして急いでカウンターに向かう。辺りを見回すコベソもゆっくりとトンドの後について行った。

 フォルクスの近くには、ぐったりとした神官服の女性が椅子に座っている。フォルクスのパーティータリアーゼの一人ライカだ。


「ライカ、大丈夫か?」

「ええ、でも回復しても直ぐに元に……」


 顔がゲッソリするほど疲労が伝わるライカだが、同じように疲労困憊の魔法使いやら神官服の者が数名壁に持たれる様に休んでいた。


「回復させても毒なのか、治した傷も広がって出血しちゃうし」

「トンドさんが来たんだ、コレで」


 すると、動きが活発になるトンドは、何処からともなくポーションを取り出して横たわっている怪我人など重軽傷者に飲ませ次々と傷や出血が、回復を見せていく。


「トンド、こっちにもくれ」

「おぅ解った」


「」コベソも倒れた重軽傷者の肩を持ち上げポーションの瓶を口に当て飲ませている。

 いつの間にか横たわっている人々を回復させるトンドだが、ギルドの職員に告げている。


「傷とか毒は、大丈夫だが体力はまだ回復して無い。 ここで体力回復するために安静にしておいてくれ」


 ライカ達回復魔法を使って凌いでいた者達にもトンドは、ポーションを渡している。


「ありがとうございます」

「いや、よくここまで凌いでいたと思ってな」

「ええ、交代で少しづつ回復させて回ってて」


 落ち着いて一息いれるライカ。

 コベソが、何やらギルド長らしき人と話をしている時にユカリ達が、戻ってきた。


「回復したのね?」

「どうせトンドのポーションでしょ」

「良かったわ。 グールを倒したし」

「むっ。 安心、安心だねぇ」


 ユカリ達が、着いた所はグール数体が動けない様に杭で体を打ち突かれていていた。

 バタバタともがくグールにユカリが、丁寧に頭を剣で突き刺し倒して行ったとリフィーナが、残念そうな顔で伝えてくる。


「フォルクスよ」

「コベソさん。 ありがとうございます」

「ダナーやマイクにマラダイは、どうした?」

「実は、あそこに」


 情けない顔をするフォルクスは、床に目をやり三人のいる方を指さす。


「グールにやられたか」

「ええ、最近妙に強くなった感じがして」

「最近?」

「空が急に赤くなった時いや……。 監視している兵士が、そう街から離れた所を通過する馬車を見た時、グールが急に強くなりだしたんですよ」

「馬車が……か」


 悩み出すコベソにフォルクスも不思議そうな顔をしてコベソに話し出す。


――――最近、馬車で通行しかも遠回り。俺達を乗せた馬車だな。


「まぁ、治りだした所だ。 フォルクスよ三人をしっかり見ろよ」

「はいっ」


 トンドは、少し大き目の箱をギルドの職員に渡している。どうやらポーションのようで効能らしき内容を説明していた。

 トンドが、会話を終わらせ近づいてくるとコベソが一息つく。


「終わったか。 いやまだ門の向こう側にアンデッドいるかもしれん。 ユカリ嬢ちゃん」

「はっ、なんですか?」

「再度アンデッド討伐お願いするかもしれんな」

「良いですよ。 さっきは突き刺しただけですからね」


 俺達は、そのままギルドを後にし、ひとまずヒロックアクツ商事のセレヌ支店に向かって行く。

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