78話

 馬車が変わり今までは幌の荷馬車だったが、乗合馬車のようなクッションが着いた座席があり、揺れも激変に少なくなった。

 ローフェンで、ランドベルク王からユカリに直々に謝罪があったらしい。その場にはユカリとコベソにトンドしか行かず俺とペルセポネは、街を歩いていた。

 この城塞都市ローフェンを囲む高い城壁。

 ゾンビやグールなら街にいる冒険者や兵士で応戦出来たが、あのスペクターの存在で籠城することになり困ってたとを耳に入れた。

 街を散策していると見覚えのある店。

 この世界に来て初めて出会った人族のリーダーの実家兼店舗だ。


「確か、タリアーゼのリーダー、フォルクスの店か」

「ここだわ。 あの丸デブともここで会ったのよ」

「あの五人は、どうしているんだろうな」

「アンデッドになったから殺されてるかも」

「まぁ、そう言うな。 もしかしたら生きているかもしれん」


 俺は、その店のドアを開けようとノブを掴むが、鍵が閉まっているようで開かなかった。


「確かあの男の妹が、コベソの所で修行するとかなんとか言ってなかった?」

「あ……あぁ。 泣きながら言ってた様な」


 店の前の大通りを眺めながら俺は、その光景を思い出していた。

 結局、タリアーゼのメンバーも妹も会うことすら出来ず俺達は、このローフェンから離れた。


「魔王ノライフ……。 ですか」

「あのカツオフィレ王が言っていた」


 コベソの深刻な顔をして今回元凶の魔王の名を口ずさむ。魔王の名を知った俺は、ランドベルク王と会合するコベソが魔王の名を伝えている。

 その名を知ったリフィーナやフェルトは、自らのの身を抱え身震いしながら魔王の名を呟く。


「――――ノライフ」

「その悍ましい名前。聞くだけでも鳥肌が立つわ」


 隣にいるミミンも、耳を塞さぎながらも震えている。


「アンデッドを扱う魔王。 多分ノーライフキングになぞっているのかも」

「ノーライフ……キング? ってぇ、ちょっと」

「なに、その変な名前っ」


 つい先程まで、凍えそうな程震えていた三人は、ペルセポネの言葉で腹を抱えて爆笑している。

 三人を見つめ首を傾げるペルセポネだが、俺もユカリもそしてコベソとトンドも笑う三人に凝視する。


「ユカリも、ペルセポネが言う事おかしくない?」

「えっ、私は……」

「ダメよ、リフィーナ。 失笑しちゃってるのよユカリは」

「そうよね。 だってノー……ライフ――――キングだって」

「むーっ。 おねぇさま面白すぎぃっ」


 あまりの笑い声にペルセポネのこめかみがピクリと動く。


「……ノライフ」


 ペルセポネの呟きで先程まで爆笑の渦の中だったこの場所が一気に静まり返る。


「止めてよ」

「そう、その名はヤバいわ」

「ほんと。 耳にしたくないよ。 おねぇさま言わないで」


 身震いし出す三人に、向かってペルセポネが再び口にする。


「ノーライフ」


 平然と構える三人にペルセポネは、続けて「ノーライフキング」の言葉を放つと三人は、腹を抱え自らの腿を叩き笑いだした。


――――意味わからん。 『ノライフ』で震え『ノーライフ』で普通にし『キング』を付けると笑う。何故だ?


 コベソもトンドもだしユカリも転移者だから三人を見て唖然としている。

 すると、ペルセポネが笑う三人に向かって再び口を開く。


「バスダト」

「止めてよ。 なんでその名聞くと鳥肌がぁ」

「私もよ。恐怖は感じないけど、その名も悍ましく感じるわ」


 横で頷くミミン達は、先程の爆笑で疲れが見えるとペルセポネが、首を傾げながら三人に投げかける。


「バスダート」

「急に何よ。 バスタードソードがどうしたの?」

「そう、バスダードソードって片手剣としても両手剣としても扱える剣ですよ。 そういえばあの赤毛の女戦士が持っていた剣がソレですよ」


――――ユカリが最初に倒した、トドメを刺した魔王がバスダトと言う名だが、もしバスタードソードから取られてたら濁点の位置が、違うんだがな。


 この場所の中は、『ノーライフキング』という単語で大騒ぎになっているが、それは三人だけで俺達は、静かに三人を見守っていた。


「そういえば、ペルセポネさん。 あの女魔法使い。いい研究が出来そうで」

「あら、そうなの。 魔法が何故使えたかだけでなく?」

「ええ、あの死体から何故アソコまで復元出来たか、そしてグールになっていたのにも関わらず何故、人と同じような思考ができるのか……ですかね」

「確かに、神官に言われて魔法使ってたし」

「魔石無いのに魔法が使える。 確かに興味深くもしかしたら我々でも魔法使えるようになるかもしれないですな」

「それ、問題ではないでしょうか?」


 コベソの考察にフェルトが、疑問を投げかける。


「何故じゃ?」

「魔法使える人が、路頭に迷ったりしたり」

「まぁ、あくまで俺なりの考えだ。 使えても最低限の魔法か、アンデッドになったヤツだけとかな」


 御者が、この客室を覗く小窓を開けコベソにセレヌの街に近づいたと告げてくるとそのコベソは、前方を見つめトンドと話す。


「この前は遠回りしカツオフィレ側は、ゾンビ多かったが、ランドベルク側はどうだろうな」

「国境の門を封鎖してアンデッドから退けていたらわからんが」

「常に見張っているんだ異変を察知して直ぐに門を閉めるかもしれんが」

「もしかしたら、生存者がいるかもな」

「そうだな。 このまま進め」


 小窓を閉めるコベソは、ゆっくりと腰を下ろす。




 ローフェンよりかは高くは無い城壁が見えると閉まっている門が俺達の行く手を阻む。そして歩哨の兵士が、城壁の上から声を掛けてきた。


「おい、貴様らゾンビか?」

「ゾンビなら馬車で来ないだろ?」

「確かに、だがどこから来た? ローフェンなら今ゾンビ共で囲まれていると聞いたが!!」

「それなら倒した」

「貴殿が!?」

「この御者の俺が倒せると思うか!!」

「……確か……に」

「この中に勇者様とその仲間がいる。 後この馬車はヒロックアクツ商事だ」


 すると、小窓を開けコベソが身を乗り出す。


「ローフェンにいる兵や冒険者は、今残ったアンデッドの掃討に出ている」


 コベソの言葉に兵士は、無言になりそのまま消え二、三分経つと門が開く。

 周りにアンデッドの存在は無く俺達はそのままセレヌの街に入っていった。

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