64話

 マナラの街を避ける為に迂回を選ぶと思ったが、コベソが選んだのはマナラの街を駆け抜ける事だった。

 馬も車も走りやすい路面の為、三台連なってマナラの街の大通りをひたすらランドベルクに向けて走り去る。

 ガダガダと車輪から伝わる揺れが激しさが、馬車の速度が上がっていると分かる。


「会頭、前!!」

「あっん! 前かっ。 ミミンこっちに出ろ」

「ムッ。 えっ〜」


 コベソは、ミミンに御者の後ろに来いと手招きをしているが、当のミミンは、明らかに嫌だと言う態度と表情が、現れているとミミンの手を取るペルセポネ。


「ねぇ、ミミン」

「ななんですか!! おねぇさま。 こんなところで」


 こめかみがピクリと動くペルセポネだが、軽く息を吐き再び顔を赤くするミミンの目を見つめ軽く肩を叩く。

「ここは、あなたが頼りよ。 ミミン」

「わ、わかりましたっ!! おぅやってやるわよぉ」


 肩を回しながらミミンは、コベソが指す場所に立ち二又のとんがり帽子を片手に押さえて、もう片方の手に持つ杖の先を進む前方に向ける。

 街の出入口を塞ぐように隙間なく並ぶゾンビ達。

『ブォォォッ』『ベェッボォォ』と何を言っているか分からんが苦痛に悩まされている声色に聞こえる。

 御者の後ろに着くミミンは、立ちながら杖を片手に前に馬車の駆る音で殆ど聴こえないが、ブツブツと言っているのか微かに届くと、杖の先に十の火弾が出来、その火弾が、ゾンビ向け目掛け放たれる。


「これでもかぁっ!!」


 何発、何十発も放たれた火弾は、ゾンビの壁を崩していく。

 だが、次々と現れ自らの体で壁となるゾンビ達。

 ミミンは、膝を着き地面に倒れるゾンビにも容赦なく火弾を連射し、消し炭のようになると次第にサラサラと風に流れ消えていく。そしてトンドからポーションを貰い飲んで、火弾を放つ。


「むーっ!! ゾンビ居なくなったぁ!」

「会頭、このまま」

「あぁ、突き進め」


 前方を塞いでいたゾンビが、無くなり馬車はマナラの街をすぎるが、後方から見えるゾンビの群れが、街の出口で止まってた。

 そのまま走り去る三台の馬車は、セレヌの街に向けて更に加速をするが、二又のとんがり帽子を押さえているミミンが、幌の中に入ろうとした時、まるで昼夜逆転のように暗くなると突風が吹き付けると、馬たちが急に暴れ、馬車の挙動がおかしくなる。


「おい、何が!!」

「キャッ」

「ミミン!!」

「会頭、どドドドドっ」

「落ち着けぇっ」

「おい、あれ」

「ドラゴン、ドラゴン」


 三台の馬車は、止まりコベソとトンドにリフィーナは、ドラゴンが通り過ぎるのを見守る。

 御者は、馬たちを「どうどう」と宥め落ち着かせている中、フェルトはミミンに駆け寄っている。


「おい、フェルト。 ミミンどうした?」

「いや、何か見たの?」

「何か? いやドラゴンだぞ。 何でドラゴンなんぞ出てくるかぁ」

「コベソもトンドも見てないのね……」

「何をだ?」

「見てないならいい。 貴方達……ハーデスもペルセポネも見てない」

「フェルト、もしかして」

「リフィーナは黙って、貴方夫婦に尋ねているの!!」


 ミミンは、とんがり帽子の縁を両手で握りしめ、深く帽子を被って座り込んでいる所に、フェルトが肩を抱き背中を摩っている。


「フェルト、貴女失礼ね。 そんな憎しみ籠った顔で聞くのに『さん』を付けるべきではなくて?」

「……それは」

「まぁ、いいわ。 私もこの世界では、一冒険者なのだから」

「この……世界?」

「それよりも見たのって何? ドラゴン?」

「見てなければ……それで」

「ふーん。ミミンの、そのとんがり帽子の中は見たわよ」


 平然と答えるペルセポネに、フェルトは睨みつける。ミミンは、座り込んだまま動かずただ帽子を深く被っていたが、ミミンのローブに水滴のシミが出来ていた。


「で、何?」

「何って?」

「聞き直すってどう言う事? 確かにミミンに角っぽいのが見えたけど、それが何って事?」

「ミミン言うわよ」


 フェルトの優しく覚悟を決めた声に頷くミミンは、縁から手を離しローブを握りしめていた。


「ミミンは、龍角族なの!!」


 フェルトは、目をうるわせて大きく声を吐き出すと幌の中は静まりかえる。

 フェルトは、想像としていたその状況に中を見渡している。


「まぁ、今更だな」

「俺もコベソもかなり前から知っていたしな」

「正直、鑑識眼使える者なら分かっていた事だからな」


 わらいながら言っているコベソとトンドを見たフェルトは、次に俺とペルセポネの顔を出来たらコベソとトンドのようなと言う思いがある険しい顔で見つめてくると、先ずは第一声ペルセポネの言葉にコベソとトンドがプスプスと抑えながら笑う。


「なにそれ……龍角……さん?」

「さん? いや、龍角族」

「龍の角っぽいのがあるから龍角族ね。で?」

「……」


 全く想像もしてなかった回答にフェルトは、黙ってしまう。


「ペルセポネ、見せてもらえばいい。 ミミン、フェルトがそんなに隠すって事は、希少の種族なんだろからな」

「貴方達二人とも……」


 椅子に腰掛け、ゆっくりと背中をもたらせている俺は、フェルトの言葉を返す。


「その、龍角族とやらが何なのか知りたい」

「ミミンっ赤毛なのねぇ」


 立ち尽くしているリフィーナの前を通り過ぎ、ペルセポネはミミンの横に膝を付いて、そおっと手を添える。

 状況を理解したのかミミンは、とんがり帽子を脱ぎ崩れた赤毛が長く下垂れると、同時に現れる大人の手よりも若干高い角。


「これが、ミミン。 この角に赤毛可愛いわ」

「ぐずっ。 おねぇざぁまぁぁぁ!!」


 ミミンは、ぐずぐすと鼻をすすりペルセポネに抱きつく。それを許しているペルセポネは、赤毛の頭を撫でている。

 すると、フェルトが真剣な眼差しで俺やここにいる者に龍角族の事を伝えてくる。


「龍角族ってのはね……」


 龍角族、エルフよりも高貴で武術や魔法に長けているが、繁殖力は低い移動民族だという事。


「……それに特徴なのが、その角」

「角?」

「ドラゴンの角とか希少価値があるからなぁ」


 トンドは、腕を組んで胸を張り知っている知識を吐くと、それを無視するフェルトは、みんなの目や顔を見回す。


「角、龍角族の角は魔石なの……」

「だからか」


 コベソの声に頷くフェルト。


「ペルセポネ?」


 抱きついているミミンの角が目に入るペルセポネのその目が、『角は魔石』とフェルトの声が聴こえた時、ペルセポネの目が変わるが、俺の一言で元に戻って赤毛を摩っている。

 すると、ペルセポネが、赤毛をさすりながらミミンに優しい声で話しかける。


「ねぇ、ミミン」

「なんですか? おねぇさまぁ」

「ミミン、貴女いつ死ぬの?」

「……死にたくないですよぉ」

「そう、なら死んだ貴女の一部は、私が大事にするから勝手に、私の知らない所で死なないでね。 死んだら報告するのよ」

「むーっ! というか、おねぇさま。 死んだら報告出来ないし、なんか死んで欲しいと聞こえるのですけど」


 コベソとトンドは、御者と三台の馬車に用があると出て行った後、ペルセポネが、大声でフェルトを呼ぶ


「所でフェルト。 龍角族の角は、成長すると変わるの?」

「私は、それは知らない」

「おねぇさま。 少し伸びるかも」

「へぇ、なら見守らないとねぇ」

「おねぇさま、怖い」


 ミミンの赤毛を、擦りながら宥めるペルセポネの目はミミンの角一点に留まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る