63話

 魔族三人の血が混ざる頃、俺はユカリを呼ぶと駆けつけてくる。


「なんと言って良いか……。 あっという間でした」

「そうだろうな。 魔王を倒した後の魔族だ。 アンデッドが出てきて、これはもしかして何か新しいスキルや魔法があると思ったんだが。 何も無かったな」

「まぁ、私は魔石さえ、綺麗な透き通った魔石さえ手に入れば、どうでもいいわ」

「私の攻撃が全く通らないのに、意図も簡単に斬ってしまうなんて」

「存在の差か……。 まぁいい、ユカリよ。 コイツらを殺せ。 早くしないとレベルが上がらん」

「ユカリ、先ずはこっち。 魔石引っこ抜いたらその瞬間ズブっといっちゃって」

「……ええ、はい……」


 ペルセポネは、背の高い魔族の胸元から肉を捏ねるかのように魔石を取り出した瞬間、ユカリの剣が背の高い魔族の頭を貫くと魔族は、苦痛と驚愕の顔したまま息絶える。

 ペルセポネは、軽くスキップと鼻歌をしながら背の低い魔族の所に向かい、ニコッと笑うと右手で胸元に深く陥没させ捏ねくりまわし魔石を抜き取る。

そして、ユカリは背の高い魔族と同様に剣を突き立てる。

 あまりにも恐怖だったのか背の高い魔族と低い魔族は、何か叫んでいるような口をしていたが、俺は、その言葉を耳にしてない。


「お、オレ。 じじじにだぁぐぅなぁいぃぃ」


 泣き叫ぶ筋骨隆々の魔族は、その場から逃げようと体を捩るように動かしていたが、ほんの少しだけしか動いていなくユカリが、筋骨隆々の魔族の元にやってくる。


「さっきは、良くもですね」


 ニコッと笑顔で微笑むユカリだが、その手には剣を持ち切先を筋骨隆々の魔族の後頭部に付ける。


「勇者なら助けろぉっ!! 無抵抗の者に刃を向けるのか?」

「貴方は、沢山の街や村の人族を殺してアンデッドにしたじゃないか!! その者達は貴様のように『助けて』と言ったはず!! だが、貴方達は、助けなかった。 なら私に貴方を助ける道理は無いっ」


 剣を振り下ろすユカリだが、何故かつき刺さらない。


コツッ!!


「また、弾かれる!?」

「貴様は、いや貴様の主とやらは、この俺にアンデッドを見せてくれた事に感謝するが。 はぁ、それ以外何も無い。 唯一良かったのは俺の妻が、魔石を手に入れた事で、あんなに喜んでいるんだ」


 ユカリは、コツコツと何度も何度も筋骨隆々の魔族の後頭部に剣を刺しているが、突き刺さる事すらない。


「防壁のスキルが……」

「コイツしぶといのね。 魔石無いんだからさっさとね」

「ユカリの言う通り。 コイツのスキルが邪魔してるんだろう」


 ユカリが、剣を突き刺す中俺は、ハルバードを持ち穂先を筋骨隆々の魔族の脇腹に突き刺しグリグリと掻き回す。


「ウッギャァアァァァッ!!」


 悲痛の思いを大きく口を開き泣き叫ぶ筋骨隆々の魔族は、体をバタバタと揺れ動かしていると、ズブっとユカリの剣が、後頭部から頭を貫通し地面に切先が突き刺さる。


「あまり、こういう事いい感じがしないもんですね」

「本来、勇者なら戦って命を奪うもんでしょ。 戦いもせずに……」

「そうですね」

「魔族もいなくなったし、アンデッドもいない。 これで片付いただろう。 ユカリ、レベルどうだ」

「正直、この魔族を倒して1しか上がってないです」

「そうか……。 レベルって高くなれば上がりにくいもんだろうからな」

「ユカリ、気を落とさず勇者なんだから、魔族や魔物倒して人族を守るのが使命なんだから」

「そうですね。 そうでしたね、勇者ですからね」


 ユカリは、走ってリフィーナやコベソ達がいる馬車の元に向かうと、俺らも馬車に乗り込みマナラの街に進む。

 夜なのか狼系の魔物など現れ、それらに対処するユカリとリフィーナ達は、幾度なく現れ馬鹿を襲う魔物に疲れて今は、寝ている。

 すると、御者がコベソに話しかけるが、その言葉にコベソは、驚き御者の後ろから外を眺める。


「会頭、夜が明けそうだが何か変だ」

「変? そのまま進め、見てみ……るぅ……がっ!!」


 固まったまま馬車に揺られるコベソの次の言葉で俺とペルセポネも後方から空とカツオフィレのこの景色を眺める。


「マジかっ!! この空はっ」

「何これ赤いじゃない。 空が真っ赤というか朱色というか」

「アレ月じゃないよな。 太陽だよな? そう言えば対抗の色って緑だったか?」


 緑色の太陽が上り、今まで暗かった空が朱色に変わろうとしている。それをみたコベソは、驚き悩んでいながら口にする。


「俺ら、魔界に入ってしまったのか? いやここは、カツオフィレだよな? なぁ?」

「か会頭!! そうですよ。 俺達はカツオフィレを通行してます」

「だよぉなぁっ!! この空……完全に魔族の領域、魔界だぞっ」


 コベソは、頭を掻きむしって幌の中に入り勢い良く座る。その音でユカリやリフィーナ達とトンドも起きた。


「何よ。 疲れてるのに」

「魔物か?」

「むー。 眠い……」

「おい、まさか」

「あぁ、そのまさかだ!! 俺達は今魔界を通っている」

「コベソ!! 何言っ……てる、の? ってぇ!!」

「それが赤い……」

「えっ、本当にぃ!?」


 ユカリは、無言のまま赤く染る空を見ているが、リフィーナ達やトンドは、困惑しているとそこにコベソが、一息つく。


「ふぅ……つまりだ。 カツオフィレは、既に魔族に占領されたって事だ」


 外の景色を見ていたフェルトが、中にいるコベソの声に振り返る。


「だから、魔物があんなに」

「あぁ、これで頻繁に襲って来たのか納得だな」

「もしかして、このカツオフィレに魔王が?」

「その可能性もあるな。 魔王が既にカツオフィレ王を殺して国を占領し魔族が、住み着いたって事だな」


 トンドやリフィーナ達は、幌の中に戻り腰をかけため息をつく。しかもコベソも合わせて一斉についた。


「兎に角、私達はランドベルクのローフェンに行って、そこにいる人族、人々を助けましょう」

「そうだね。 直ぐに魔王なんて……」

「どんな魔王かも分からないのに、いきなり戦うのも」

「そうだね。 あとふかふかのベッドで寝たいなかぁ」


 ミミンの言葉に、頷くリフィーナとフェルトの顔を見てコベソが、ボソッと呟く。


「魔王が何処にいるかも分からん。 もしかしたらローフェン攻めに指揮をとっているのかもな」

「そ、それ……あるの?」

「ふぅ、あるだろうよ」

「トンドもそう思うの?」


 トンドは、一息付いてフェルトやリフィーナの問に答えるとここにいる全員トンドの言葉に耳を傾ける。


「カツオフィレを落としたんだ魔王が、今度はランドベルクを落とすのに誰かを差し向けるより、自分から攻めた方が楽だろ? 仮に魔王が勇者のいる場所を把握していたら……。 魔王に対抗できる勇者が、アテルレナスでレベル上げしていて、遠分帰って来ないと知っていたら、部下にカツオフィレを任せて、自分から陣頭指揮を取って落とすのが早く損害が少ないと考える」


 トンドの言葉に頷くコベソ、リフィーナ達は、その内容に悩み考え込んでいる。

 外の景色に飽きた俺は、少し目をつぶり呟く。


「ふん、単純な事だ。 先ずはローフェンに行って魔王をぶっ倒せばいい事だ」

「そぉっ簡単に言わないでよ!!」


 大声を吐きながら立ち上がり俺に、文句を告げるリフィーナだが、俺は、そのリフィーナを直視する。


「何よ」

「この馬車には、勇者がいるんだぞ。 それに」

「それに?」

「トンドがいるんだ。 ポーションで回復出来るしコベソもいるんだ。 何も問題ないだろ」

「問題ありありでしょ!!」

「無いだろ。 俺もいるが、ランクBよりも上のペルセポネもいるんだ。 何が問題だ?」

「確かに、今はランクの事は置いとくわ。確かにこの女は、ちょっとおかしいけど……。 でも魔王なのよっ、ま・お・うっ!!」


 激しく怒るリフィーナと静かにしているフェルトとミミンだが、コベソとトンドは、俺の言葉の時に頷いていた。

 リフィーナの『ちょっとおかしい』の発言でペルセポネよこめかみが、ピクリと動く。


「ハーデス何言っても無駄よ。 所詮ランクBなのよ。 だってあのミノタウロスだって倒せなかったのに……ねぇ」


 にゃぁっと不気味に口角を上げ、立っているリフィーナの顔を覗き込むようにして笑うペルセポネの表情を、見たリフィーナとフェルトは、青ざめる。


――――ミミンは、何故、ペルセポネのその顔でうっとりしている?俺の気の所為なのか?


「ちょっと待て!! ユカリ嬢ちゃん、フェルト。ミノタウロスってなんだ? ダンジョンでのか?」


 焦り出すコベソの顔を見てユカリとフェルトは、頷いていると、御者の声が聴こえる。


「会頭!! そろそろマナラの街に着きます。 突っ切りますか?」

「あ、あぁ!! そのまま進め。 いるのは魔族か魔物になったアンデッド共だっ!! 加速して進め」


 御者が手網を振る音が響くと、俺達の乗る馬車と後続車が、一斉に加速しだしマナラの街に突っ込んで行った。

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