62話

 褐色肌で、銀髪の男性魔族が三人、こちらを見てほくそ笑んでいるのが俺の立ち位置でも、ハッキリとわかる。

 髪や顔は特に目立って違いがわからないが、魔族三人体型が違い、左端は背の低い男、真ん中に背が高くやせ細った男、そして右端は背は二人の中間で筋骨隆々の男だ。


「あと、残っているヤツらは……」

「い、居ねえじゃねぇかぁっ!!」

「お、おぉっ……」


 左から順々に会話をしているのか、魔族三人は、この辺りを見回しアンデッドがいなくなって居ることに目を丸くしているし、筋骨隆々の魔族は、言葉に詰まらせていた。


「あんた達何者?」

「アァっ!! てめぇ勇者か、てめぇが勇者かぁっ?」

「えぇ、私が勇者ユカリ。 勇者ユカリよっ」

「こっのっヤロォウ!! あの街とその近くの村から集めたゾンビ共がぁっ」

「あんた達がっ!! 酷い事をっ!」

「おぉっ」


 背の低い魔族が、険しく睨みユカリの顔を見上げ背の高い魔族は、ユカリを見下していた。


――――あの小さい魔族とユカリ。なんで二回言った?それに筋骨隆々の魔族、何にも言わん?


「それにしても勇者がいたなんてラッキーだぜぇ」

「そうだな。 ここでコイツを殺してアンデッドにしてしまえばぁ」


 背の高い魔族が、筋骨隆々の魔族へ顔を動かし返答を貰った後背の低い魔族に視線を動かす。


「おぉっ」

「手柄だぜぇ!!」


 上手く言葉を繋げたと言いたいのかわからんが、魔族三人は、何故かドヤ顔で俺達の視線を合わせてくる。


「なんなのあんたら、話しているだけじゃん」

「うるせぇ、この白服女!!」

「何ぉーっ!! この、褐色肌」

「良く言ってくれるじゃねぇかぁ!! この美人さんよぉっ」

「うるさいわねぇ。 あんたら魔法使えるの?」

「おぉっ」

「手柄だぜぇ……ってそんな事言う必要無し!!」

「お前らの死体をあの方に差し出すっ」


 筋骨隆々の魔族が、大層大きい戦斧を取り出し俺らに向け構えると、背の低い魔族と高い魔族は、杖のような棒を持ち筋骨隆々の魔族の後ろに隠れる。


「我らが魔の神の思想と、我らの主の野望の為。貴様を打つ」


 筋骨隆々の魔族が、地面を蹴りユカリに向け戦斧を振るう。

 だが、そこに割ってはいるペルセポネは、二本の剣で戦斧を受け止め、踏ん張って耐える。

 一旦下がる筋骨隆々の魔族の体に膜が覆うように、薄ら緑色に光ると次は黄色に、そして、赤く光る。

 そして、再び筋骨隆々の魔族が、ユカリに向け突進してくる。


「速ぁっ!!」

「おおっ……。 二回とも防がれるとはっ」

「あんた、喋れるの?」

「ふん、喋れるとも。 戦闘中と離れてればなっ」


 防がれた戦斧を一瞬引き、ペルセポネが防いでいた力が少し緩むと、その隙に筋骨隆々の魔族が地面を割るかのように戦斧を力込めて振り下ろす。

 地面が破裂したかのような土片等が飛び散るが、それすらお構い無しに筋骨隆々の魔族は、土片を払い除けるように戦斧を振るう。

 戦斧を振るって腕が、大きく開いた筋骨隆々の魔族の隙を、ユカリが潜り込んでいた。

 そしてユカリは、剣を筋骨隆々の魔族の胸に向け薙ぎ払うが、胴体に当たるかの寸前で何故か、ユカリは弾かれ転がり飛ばされる。


「なに?」

「おい、いま入っただろ?」

「クックック。 そりゃ入ってただろうな、本来ならな。さすが勇者だぜ、ビビったぞ」

「何かに遮られたような」


 剣を衝立にし立ち上がるユカリは、再び剣を構え少し魔族との間を開く。

 いつの間にかユカリ自信スキルを発動していたらしく、傷一つ無く冷静でいると同時に目を青く光らせていた。


「おぅ、あれが鑑識眼か!!」

「くぅっ。 俺達も勿体ぶらず、どんどん魔法ぶっ放していこうぜ」


 奥にいる背の低い魔族と高い魔族が、筋骨隆々の魔族に応援しているかのように腕を振り上げる。

それに気付いてない筋骨隆々の魔族は、何故か筋肉を見せびらかすポーズを取る。


「わかっまか、勇者? オレサマのスキル【防壁】。貴様の攻撃なんぞ、このオレサマに傷一つ付けられん!!」

「これが防壁のスキル……」

「ガッハッハッ!しかもアイツらに掛けてもらった魔法で更に強化されてるからなぁ。 ムダだァ」


 戦斧を肩に担ぎ一歩一歩近く筋骨隆々の魔族に、ユカリは再び剣を握り筋骨隆々の魔族の脇腹に狙いを付け振り切る。

 だが、鈍い音がしユカリの隙が生まれ、筋骨隆々の魔族はユカリに覆い被さるみたいに戦斧を大きく振り上げ、ユカリの頭を目掛けて空を切りながら振り下ろす。


「ニギィっ!! 勇者殺したぁぞぉぉ!!」

「おーいっ、粉々にしてないよなぁっ」

「はぁっ!! 一気に振り下ろしたんだぁ、粉々バラバラだろ」


 筋骨隆々の魔族が振り下ろした戦斧とその地面は、砂煙に寄ってないも見えなくなっている。


「あと、二人だぁ」

「その砂煙。 どうにかしろっ見えんぞ!!」


 筋骨隆々の魔族は、戦斧をうちわのように振ると、地面を見詰め微動だにしない。


「これで……ありゃ?」

「おい。 どうした?」

「勇者の姿形ないぞっ!! やべぇ、跡形もなく吹き飛ばしちまったぁ」

「おい! マジかァ」

「二人とも馬鹿かぁ!! あそこに白服女の所に居るぞ」

「馬鹿って言った方が馬鹿だぞ」

「うるせー。 そんな事より攻めるぞ」


 まともな背の低い魔族がペルセポネとユカリに指さして高い魔族と筋骨隆々の魔族もその方向に目をやる。

 阿呆な事を言っているが、背の低い魔族と高い魔族は、手を出し何やら口を動かしている。


「ありがとうございます」

「まぁ、あれは無謀だわ」

「す、すみません」


 しょげているユカリの肩を軽く叩き二歩前進するペルセポネ。


「ハーデス、どんな魔法か見てから」

「あの、筋肉はやってもいいか? 魔法無さそうだしな」

「そうね。 あっちの二体の魔族は私がやるけど良い?」

「殺すのはユカリだからな。 せいぜい息絶える寸前までにしとけ」

「勿論だわ」


 武器を持ち、ゆっくりと魔族三人に迫る俺とペルセポネに、筋骨隆々の魔族が不機嫌な顔をする。


「なんか調子にのってるなぁ。 オレサマの力を見て頭おかしくなったんじゃねぇかぁ?」

「……」

「何か言えやゴラァ!! 黒服男。 貴様が俺を倒すだと、勇者が倒せないのに勇者の仲間が倒せるわけないだろっ!!」


 筋骨隆々の魔族は、戦斧を持ち上げ俺に向けて『かかって来い』と無言で手招きをしてくる。


――――さて、どうしたらいいか……。うーん、自分で言っておきながら殺した方が早いんだけど、やはり、息絶える、死ぬ寸前って難しくないか?


 ハルバードを構えつつその考えをしながら、俺は筋骨隆々の魔族と間合いを取り睨み合いっている。

 背の高い低い魔族二人とペルセポネ側から、激しく光り炸裂音や爆発音が、聴こえ魔族の歓喜の声も後から耳に聴こえると、筋骨隆々の魔族が戦斧を両手で持ち腰を下ろした。


「ドッリャアァァッ!!」


 その雄叫びと共に地面を蹴って勢い付け迫る筋骨隆々の魔族。

 俺は、ハルバードの穂先を突き刺すもそれを戦斧で跳ね除け体当たりされ、背中を地面に擦る。


「黒服男! お前のはこけ脅しか?」


 ニヤニヤと笑いながら俺の事を見下す筋骨隆々の魔族だが、俺は直ぐに起き上がる。


「まぁ、少し考え事してただけだ。 貴様のその顔が直ぐに恐怖へと変わるから安心しろ」

「なぁ〜にが、恐怖に変わるとか言うかぁ。 俺のスキル【防壁】を看破できるのかぁ? 恐怖にかわるのはぁ……それは黒服男、貴様だァ!!」


 再び筋骨隆々の魔族は、戦斧を構え突進してくるが俺はそれを紙一重で躱すと、筋骨隆々の魔族は、よろけながら着地し辺りを見渡す。


「どうした?」

「貴様避けたな!!」

「避けるだろう。 そんな事すら考えられないとは馬鹿だな」

「貴様っ!! 馬鹿と言った方が馬鹿なのだぁっ」


 戦斧を何度も何度も振って、風を切る音が徐々に大きく聴こえてくる程の攻撃をする筋骨隆々の魔族は、俺を狙って間合いを詰め戦斧を振るうが、俺自身、スレスレの所で躱して間合いを詰まらせないようにしている。


「な、何故当たらん!! オレサマの攻撃がっ何故当たらんのだぁっ」

「知らん。 俺の方が一枚も二枚も上手なんだろう。貴様のその攻撃、鈍すぎる」

「なぁにぉおぉぉっ!! のろいだぁとぉっ」

「あぁ、のろい」

「おい!! 俺に攻撃速度上がるヤツ掛けてくれっ!!」


 戦斧を振りながら後ろにいる二人の魔族に届きそうな程の大声で叫びながら、汗だくになりつつある筋骨隆々の魔族。


「おい!!……。 おいっ!!……。 おいぃぃっ!!」


 何度も叫ぶが、一向に返事が来ないし、そう言えばあの炸裂音や爆発音が聴こえない。

 筋骨隆々の魔族は、俺に手を向け『ちょっと待て』と無言の仕草をし二人の魔族へ顔を向ける。

すると、ペルセポネは、立っているが二人の魔族が地面に這いつくばってもがき苦しんで、地面を引っ掻いている。


「なっ、何がぁ合ったァ!!」

「そう言えば、直ぐにあの魔族の魔法の音が、無くなってたな」

「グッアッァァァッ!!」


 怒りを発し叫ぶ筋骨隆々の魔族は、涙を流し俺を睨む。


「ぎぎぎ貴様ぁっ!!」

「ペルセポネは、終わらしたのか。 なら俺も何か面白い事起きそうだったが……いいか」

「う、るせぇ!!ここで黒服のぉ死ねぇぇえっ」


 戦斧を大きく振るう筋骨隆々の魔族の脇を狙う。

大きく戦斧は、回転し俺の後方へと飛んでいきやがて地面に突き刺さる。

 その戦斧と筋骨隆々の魔族を繋ぐように、俺がいる地面の両脇には赤い血の線が描かれる。

 何度も何度も戦斧を振るっている動きをする筋骨隆々の魔族は、やがて怒りの顔から青ざめ頭を横に振るって俺から遠ざかる。


「い、いやぁっだァァァ!!」

「何が嫌なんだ?」

「死ぬのはぁっ」


 振り返って俺から離れ、叫んでいる筋骨隆々の魔族。


「何でたァ、何で俺のスキル【防壁】を破られたぁ? うぉぉっそれよりも早く街に戻っ!!」


 俺は、ハルバードを構え走り、直ぐに追いつき筋骨隆々の魔族の右太ももに穂先を突き刺し薙ぎ払う。

 地面に顔を打ち付け両腕の無い肩を動かしもがいている筋骨隆々の魔族は、俺の顔を見上げて涙を流す。


「た、助けてぐれぇ」

「はぁ、何でそれを言うのかなぁ。 こう答えるしか無いじゃないか……。 ゾンビになった人族の奴らも同じ事言って助けたのかぁ? お前……」

「……」

「だろ。 貴様は、命乞いした者を笑いながら殺したんだ。 同じ事されても何も言えない」


 歯を食いしばって険しい顔をし睨んでくる筋骨隆々の魔族の地面には少しずつ赤い血が、流れてやがて三人の血が一つになっていく。

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