61話

「こんな所でいいか」

「ええ、馬車から離れてしまったけど」

「丁度良い、あのアンデッドの群れと馬車の中間だからな」

「それにしても、冥王さま。 あの死者達どうにかできるの?」

「ペルセポネ、わかっているのだろう。 この世界でも俺たち神の力が普通に使えるんだ」

「ふふっ、そうね。 実は分かってたんだけど」

「まぁ、この冥王。 死者の扱いには慣れている」

「そう、私の旦那は死者の国の王。 片っ端からぶっ壊して細切れにしていきましょっ」


 ペルセポネは、二本の剣を引き抜き少し肩をまわす。そして、俺は黒いハルバードを軽く降って迫ってくるアンデッドを待つ。


「わ、私も戦います……」


 すると、後ろからやってきたユカリか、少し息を切らしている。


「ユカリ、あそこにいなきゃ」

「まぁまて、ペルセポネ。 いい事思いついた」

「はぁ、また変なことを」

「ユカリ。 アンデッドは、魔物になったんだよな?」

「あっ、はい。 鑑識眼では魔物と」

「なら、アイツらにトドメを刺せばユカリは、レベル上がると」

「冥ぉ……ハーデス。 やってきたわ」


『グォゥッォオォォ!!』


 アンデッドの群れから鳴り止まない苦痛の声が、この大地に響き渡る。


「ユカリは、俺達が取り逃した奴を倒してくれ」

「はいっ」

「後、あの時の魔族と同じように残すから、トドメを刺せ」

「……わかりました」


 戦えると笑顔になり剣を構えるユカリだが、俺の言葉で何故か少し肩が下がっている。

 だが、ユカリよりも迫り来る『ブッオォォ』『バッアァァ』聞き取りづらい汚い声を上げ手を前に出し小走りになるゾンビ達。

 皮膚が腐り爛れどす黒い血のような液体が、付着した汚れた服を着て目玉が無かったり垂れてたりと見てくれが非常に不快な輩が、俺やペルセポネ、ユカリを目掛けて突進してくる。


「汚っ!!」


 ペルセポネの一声が上がると同時に、ゾンビの断末魔の声が迫り来るゾンビの苦痛な声と混ざり合い、おぞましい声が渦をまくようだ。

 俺もペルセポネに負けじとハルバードを振るい、ゾンビ達の首、腕、脚を力を入れずにスパスパッと切り落とす。

 ゾンビ共は倒れ『アウアウッ』と口をパクパクする頭、切られたトカゲのしっぽのようにジタバタする胴体と四肢それが次々と俺の後ろへ転がる。

 ペルセポネ側にも落ちているが、それをユカリは剣で突き刺し落ちたゾンビの肉体が、【破邪】のスキルで消滅していく。


「また、やっつけ作業になるのか?」

「ハーデス!! そろそろ兵士の……スケルトンがやってるわ」

「やっぱ単なる死体よりも、あれが異世界って感じがするな」

 

 襲いかかってくるゾンビ共を俺は、ハルバードで蹴散らし、跳ね飛ばし、撒き散らし、辺り一面バラバラ死体の山にし、後始末はユカリに任せる。

 目を赤く発光し、顎を動かしながら腰を低く円盾と剣を構える兵士のような軽装備をしたスケルトンが迫ってくる頃、後ろの方からユカリの悲鳴。


「ギャァッ」

「ユカリっ?」

「取りこぼしあったか?」


 結構、ハルバードを遊びながらゾンビの身体を切り落としていたが、取りこぼしは無かった筈と、ユカリへ視線を動かす。

 ユカリは、切先を下にして剣を持ち上げていて地面に転がるのはお下げ髪の少女の頭。

 首を何度も振りながら剣を降ろせないユカリに、転がる少女の顔に滴るユカリの涙が、少女の頬を伝い地面へ垂れる。


「ダメ、魔物になっても、アンデッドになってもやはり人の命を奪うのは……」

「何をしているの? 早く突き刺しなさいっ」

「ダメぇえぇ!! 私は殺すのはっ」

「ユカリっ。 何を今更。 もう既に何体ものそのゾンビ達を殺しているわ」

「でも、でもっ……」


 震える剣、流れる涙、ユカリは動けない。

 俺は、スケルトンを牽制しつつユカリの元に戻る。


「ユカリよ」

「ハーデスさん。 こんなの……こんなの……無いですよ」

「だな。 でもなユカリ」

「……」

「彼らはアンデッドになった時点で死んでいるんだ」

「彼女……涙ながして」


 ユカリの足元で口をパクパクしているお下げ髪の少女の目に涙が、流れている。だが、俺がユカリの元に着いた時、ユカリの涙が落ちて少女の頬を伝っているのを分かっていた。


「正確には死んでないが、元に戻す事もできない。それなら、彼らの痛みや苦しみを解放してやるのも勇者としての使命だと思うが」

「痛み、苦しみ……」

「魔族や魔王の欲望で、彼らは痛み苦しみに囚われたアンデッドにされてしまったんだろう。 だから彼らに安らかな死を」

「安らかな死?」

「彼らは死で永眠できる。 成仏できる。 それが出来るのは【破邪】のスキルを持ったユカリだけだ」

「わかったわ。 ごめんね、今楽にしてあげる」


 ユカリは、切先をそのまま勢いよく、お下げ髪の少女の眉間に突き刺すと、お下げ髪の少女の口が、開いたまま止まると頭が砂のように崩れていく。


「ユカリ、アンデッド全員解放し、安らかな死を」

「はいっ。 私やります」


 俺は、スケルトンがゆっくりと歩いて剣で俺に突き立てる。ハルバードの穂先で、スケルトンの剣を弾き鎧に突き刺そうとするが、円盾でハルバードを払い除ける。

 だが、それを利用して遠心力でぐるっと身体を横に回転させ斧部でスケルトンの横腹に命中し、骨が一気に砕け散り、赤く光った目の頭蓋骨がゴロゴロと転がりユカリのつま先にぶつかる。

 ユカリは、先程とは違って何も躊躇無く剣で、スケルトンの頭蓋骨を粉砕した。

 何体もスケルトンが、やって来ては持っている武器で払い除け数多くの骨が散らばってしまっている。


「死体、死体、骨、骨の量が多すぎ。 足場ないじゃない」


 ペルセポネは、剣を降るって着いた汚れを振い落しながら周囲を見回す。何体か残っているが、こちらにはやって来ない。


「ペルセポネ気をつけろ!!」

「ギッ!! コイツぅぅ」


 突然迫ってくるアンデッド、爪を立てて俺とペルセポネに襲いかかってきた。

 そのアンデッド、ゾンビよりも動きが速いし、筋肉がしっかり付いているが、皮膚はゾンビと変わりはない。

 俺とペルセポネは、持っている武器で払い除けそのアンデッドは、俺達から離れて間合いを取る。


「こいつ、なんだ」

「ゾンビって言ったら筋肉あんなにないじゃないのに。アイツらなんなのぉっ」

「この世界独特のアンデッドか?」

「ノロノロだから余裕ぶって斬りまくってたのにぃ。こいつら俊敏過ぎるぅ」

「もしかしてコイツら!?」

「ハーデス、わかるの?」


 俊敏と言っておきながらも軽々とアンデッドの脚や腕を切り落とすペルセポネは、次々と地面にそのアンデッドを落としていく。


「コイツら、食屍鬼……グールだろ!?」

「グール? あぁ、そんな感じに見えてきた」

「グールならさっきのゾンビよりも動きが、良いのがわかる」


 俺の身体を掴もうと突進してくるグールを俺は、ハルバードで払い切り倒していく。

 転がるグールの胴体や四肢に頭、ゾンビ達と混ざっているが、このグールの切れた部位は、気持ち悪い動きをし、少したってやがて止まるが、そんなのが幾つも溜まってきた。


「えぇ、そのアンデッドは、グールです」

「グールねぇ、それよりもあの多かったゾンビやスケルトンは?」

「何言ってるペルセポネ。 半分は自分が倒していただろう」

「何にもないじゃないっ!! こんだけ入れば一人や二人、魔石持ち居たってぇ」

「仕方ないさ。魔法使えない時点……。 そう言えばコイツらに魔法掛けたやつが居るはず」

「それって。 単に可能性でしょ!! 居たら嬉しいけど」

「これであらかた、片付いっ」

「ペルセポネさんっ!!」


 急に視界が赤くなり、熱を感じると目の前に現れた燃え盛る炎が、大きな弾となって俺とペルセポネに放たれた。そこにユカリが咄嗟の判断で、ペルセポネの間近に迫る火弾を、剣で払い除け地面に焦げ目がつく。

 俺も迫る火弾を、ハルバードで払ってかき消す。

すると、拍手がなり褐色の肌をした銀色のオールバックの髪型をした人のような存在の魔族が、三人笑顔と共に現れる。


「さすが、勇者とその仲間」

「だが、貴様の命もここまで」

「貴様のその体。 我らが大事に扱ってやるからさっさと死ね」


 ニヤニヤと笑いを堪えている魔族に、俺とペルセポネにユカリは、武器をかまえ相手の出方に興味を持っている。

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