60話

 ドロシンの街は、カツオフィレの城から南東に位置をしアテルレナスとの国境付近にある。アテルレナスから来た者は荒野を通り抜け一息つける場所であるが、今の俺達にはそれすら出来なさそうだ。

 夜空の下、少しの灯りがともるドロシン。


「灯りが少ないな」

「ドロシン、前に見た時はもっと明るく賑わってたような」

「もう、既にアンデッドに占拠されてるんだろう」


 馬車の走行を敵に見つからないよう速度を下げ、ゆっくり進みつつ街に近づかないように迂回して進む。


「あの山沿いにマナラの街に行く」

「了解ですが、そろそろ」

「あぁ、馬達の疲労か……」

「街道に入って馬たちもちょっと楽になると思うんですがそれでも、汗もかいて疲労が見えてきてますね」

「まだ、光が見えるが、そろそろ加速させ更に離れて見えなくなる所までだな」


 御者が手網を叩き馬車を加速させる。

 リフィーナもフェルトは、アンデッドから離れているためかぐっすりと寝ているが、ユカリとペルセポネは、そのまま起きていた。

 俺から見える後方には、ドロシンから届く光が、小さくなりやがて見えなくなる。


「コベソ、消えたぞ」

「お、ハーデスさん。 確かにここいらで一旦停めて、馬たちを休ませよう。 トンド起きろ!!」

「ウボッ」


 トンドの頬に平手打ちをし起こすコベソは、起こした後に、そのまま馬車を降りて各御者達の所へ行って話をしている。

 起きたトンドは、頭を掻きむしりながら馬車を降りて馬たちの汗を拭きポーションを飲ませていた。

幌の中で仲良く寝ているリフィーナ達を残し俺とペルセポネにユカリは、馬車から降りて俺は背伸びしするとペルセポネもしだす。


「トンド、どうだ?」

「ポーションで体力や疲労とか身体にかかる負担は無いからこのまま行っても行けるが、やはり馬たち一度寝かせた方が良いかもな」

「やはりそうだよな。 でもな」

「まぁ、アンデッド生息地のど真ん中で留まるのは……」


 真っ暗な夜空の下で辺りを見回すコベソとトンドは、肩の荷を下ろすかのように安堵の息をつく。

 馬車が通った街道の方、ドロシンの街があった方を見ているとペルセポネがやってくる。


「こんな夜なのに星が無いなんてね」

「この世界が、どんな世界なのかわからんが、地球とは違うんだろうな」

「そうね。 異世界……宇宙の領域内は同じなのかしら」

「分からん。 だが、この世界も地球の世界も実際しているのは確かだな」

「でも、あっちの方星が見える」

「ん? あっちは空じゃ……無いだろ……おっ」


 ペルセポネの指さす方向は、ドロシンがある方で、さっきまで真っ暗だった筈。


「おい、コベソ!!」

「ハーデスさん、なんですぅぅぅかぁってっ!!」


 疲れた顔をして一本手にポーションの瓶を持ちながら走って俺の所にやってくるコベソが、俺の姿を見た途端、目が飛び出そうなほど見開き口を開く。

 コベソが見た景色は、ドロシンの方角は真っ暗だったがまるで都のような多大な光が段々と大きく広がっていく。

 トンドを呼びに振り返り、慌てるコベソ。

「トン……。 おっ、ユカリ嬢ちゃん。 あっアレ見てくれ。 目でアレをだ……トンドっ来てくれっ」

「はい!!」


 ユカリは、遠くから迫る光の姿を見ているといつか眺めている。


「ど、どうだった?」

「えっ、光ですよね? えぇ光って……」

「ま、まさかっ?」

「光が増えて……」

「ち、違う。 鑑識眼で向こうの、あの光に何があるのか見てくれ。 トンドも早く、見ろ!!」


 目を青く光らせ三人は、遠くのものを見ているが、三人共薄目になっているのを見て驚き笑いを堪えるペルセポネ。


「さ、さん、さんにん、三人共同じ目っ!! 薄目したって遠くのなんてってどんだけ目悪い」

「いやいやペルセポネさんっ。 私目悪くないですよっ。 これでも視力、一・五有りますよ」

「俺達もそんなに……」

「俺は悪い」


 ユカリは、否定的な表現なのか手を振って違うとし、コベソも同じような口調だったが、トンドに同意を求めよう顔を見ると、眼鏡を掛けていて口を閉じる。


「三人共、どうなんだ?」

「いや、全く何にもわからん」

「近くなってもらわないと」


 俺は三人に聞くと同じような解答だけど、トンドが淡々と答える。


「でも、アレだろ。 アンデッドがこっちに向かって来てるんだろ。 あの国境にいたゾンビとかと混ざって」

「でも、こんなに早く」

「もし、向こうに魔族がいて、そいつが魔法使って移動速度を速めるとかあったら、この状況有り得るだろ?」

「それも有り得るな……ん? どうしたユカリ嬢ちゃん」

「あれ、敵です。 魔王バスダトの時も感じた、嫌な感じ? 空気? そんなのが向こうから伝わる」

「ユカリ嬢ちゃんがそう言うならっ。 あれがアンデッドだとして、倒せるのはユカリ嬢ちゃんだけだ」


 トンドの意見に、納得しているコベソは、ふとユカリの顔を見る。そして、コベソの言葉に俺は、アンデッドに対抗する為の理由を聞き出している。


「そんな事、言ってたな。 なんでだ?」

「勇者のスキルで魔王を倒す為の【破邪】が今現在有効な手段だ」

「コベソ、今現在?」

「そうです。 一番なのは神官やその上位が持つ聖なる魔法や力ですが、今使えるのはユカリ嬢ちゃんの【破邪】しかない」

「リフィーナとかは使えないのか? 回復魔法使えるとか言ってたような」

「治療魔法と聖なる魔法は違うんです。 邪な力に抗って滅する力が聖なる力なので」

「そんな……」

「どうしたんだっ!!」

「コベソ。 鑑識眼っ、鑑識眼使え」

「おおっ……マジか」


 ここからでも見える。松明やランプを持ちこちらに迫ってくる歩き方がぎこちない動きをする街人や村人、兵士の格好をした者。そして中には人と変わらない歩みをする者も。

 それを見ている青く目を光らせている三人の後ろの馬車から出てくるリフィーナ達。


「ちょっとぉ、うるさい」

「ゾンビから逃げ、てた、のに?」

「むにゅ、いい枕が居ない」


 瞼を擦り杖で身体を支えて降りてくるミミンと、目覚めの良いフェルトに、不機嫌なリフィーナが俺達のいる元にやってくるが、先ず先に声を掛けたのがコベソと思いきやペルセポネだった。


「ふん、アホエルフが、二足歩行の牛のようにイビキかいてたから、アイツからがやってきたちゃったじゃない!!」

「はぁ!わ、た、しぃっ。 イビキなんてかいてないっし、アホ牛でもアホエルフでもないっ」

「えっ? コベソあれ?」

「あぁ、アンデッドの群れだ」

「マジ? リフィーナの鼾が!!」

「えぇっ!! おねぇさま怖いっ……でっ」


 フェルトの驚く声で口を開いたまま黙るリフィーナ、その横にいたミミンが、ペルセポネを発見すると怖そうな顔をし、また抱きつこうとするが、手刀で追い払わずサッと避けるペルセポネに、ミミンは、コケていた。


「やはりここは、アホで牛……でなくて。 冒険者ランクBのリフィーナ様がぁ、倒してくれるのかも」


 ペルセポネが、少し嫌味のある声でリフィーナを、睨むと、その顔に苛立っているリフィーナは、顔を紅くししかめっ面になる。


「あんた何処まで私をっ!! おぉ、やってやろうじゃないのっ」

「リフィーナっ!! ムリよっ。 ここはどう見てもユカリか、ミミンの火の魔法でしか対応出来ないわ」

「グッヌヌヌヌッ」


 リフィーナは、握り拳の指が若干紅く染めペルセポネに向けてた顔をそっぽ向くと、フェルトの言葉に気付くコベソ。


「そうじゃ、ミミンお前もユカリ嬢ちゃんと共に頑張ってくれるか?」

「ええ、頑張るわよ」


 ミミンは、握り拳をグッと力を入れて俺達に意志を伝えると、ペルセポネは一歩、リフィーナに近づきコベソに向かって状況を打破出来そうな面持ちになっている。


「もう一つ有効なのが、あるわ」

「なんですか? ペルセポネさん」

「このアホエルフのスキル」

「えっ? おい、リフィーナ。 アンデッドに対抗するスキル持ってるのか? 何故教えん!!」

「貴女何突然言うのよ。 そんな嘘!! コベソ持ってたらあの国境辺りで戦っているわよっ」

「確かに……でも。 ペルセポネさんリフィーナの何が有効なん?」

「こいつの、イ・ビ・キッ、よっイビキ!!」

「ぎゃあァァァああぁぁっ!! コベソ、分かってて言ってるでしょっ」

「あっ? 何が?」

「知らないわっ」

「みんな、アンデッドの群れ。 あんなに」


 ユカリの言葉に俺達は、ドロシンの方へ視線を動かすと、何十万人が移動している様な光景が数多くの灯りとともに黙然に迫る。


「よし、ユカリ嬢ちゃんは……」

「コベソ、俺とペルセポネが行こう」

「ハーデスさん、ペルセポネさん」

「あんた達では、ムリよっ。 有効打破を持つユカリがいなければ」


 リフィーナの怒号に、俺はその言葉を対処する。


「なら、ユカリは、頃合いを見て来てくれ」

「仲間を……」

「リフィーナ達はアンデッドじゃない魔物がやってくるかも知れん。コベソ達をも護ってくれ」

「わかったわ。リフィーナとミミン、私はここで。ユカリは?」

「そうだな。ユカリは、俺かペルセポネのどちらかから呼ぶから、ユカリだけ来てくれれば良い」

「……分かりました」


 不安そうな視線をするユカリとミミン。

 しかめっ面をし何か叫んでいるリフィーナとそれを抑えるフェルト。

 そして、コベソとトンドは、アンデッドの方を鑑識眼で何度も確認し、コベソが聞いてくる。


「ハーデスさん、ペルセポネさん大丈夫で?」

「俺達、死者なら専門だからな。対処なんていくらでもある」


 その言葉を残し、俺とペルセポネ更に先にいるアンデッド軍に向かって歩き出す。

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