65話

 カツオフィレ南西に位置をしランドベルクとの国境の街セレヌに近い街マナラを、ミミンの活躍によって突破した俺達が乗る馬車三台は、その国境の街セレヌに向かっているが、更に見えたのがドラゴン。空高く見えたが地上に映し出される大きな影が、ドラゴンの巨大さを物語っている。

 通り過ぎるドラゴンの羽ばたく翼によって風が生まれミミンの二又のとんがり帽子が、外れミミンの種族がわかる。


「じっと見ているな」

「そうなのよね。 ミミンの角見せてもらったんだけど綺麗で」


 宝石のように魔石を扱うペルセポネは、じっくりとミミンの角を見ていてうっとりしていた。

 俺も見させてもらったが、単色ではなく様々な角度から見ると色が変わる角だった。

 その時、フェルトがその角に付いて説明をしてきたが、当本人の龍角族のミミンは、全く知らなかってと言う。


「龍角族の角は、綺麗さからか、その昔高値で取引されていて貴族の中で持っている者は、出世するとか繁栄するとか言われていて冒険者や傭兵を使って乱獲してたって調べてわかったの……」

「だってねぇ、これ綺麗だもんね」

「だからって、ペルセポネ。 そんな間近に見るもんじゃないだろ」

「そうね。 そうだわハーデス」

「なんだ?」

「この際だから、ミミン達と同行しましょ」

「明らかにミミンの角狙いだと思うが、依頼しているコベソに聞いてみないとな」

「コベソぉー良いでしょ?」

「う、ペルセポネさん。 ですが、勇者のパーティーですよ。 我々とは別行動になる事」


 コベソが額に汗をかきながら応えているのは、ペルセポネの鬼も近寄らないほどの険しい顔でコベソを睨んでいるからだ。


「で?」

「コベソ、ユカリと同行もありなんじゃないか? それに神エウラロノースと会える機会があるし」

「あ、えぇありだな。 ……あり、そうですねペルセポネさん、我らヒロックアクツはユカリ嬢ちゃんとその勇者パーティーを……サ、サポートしましょう」


 目が泳ぐコベソとトンドは、額から汗がまるで滝のように流れているが、ペルセポネが笑顔になった瞬間胸を撫で下ろしていた。


「でも、やはりおねぇさまは、私のこの角しか」

「違うわミミン。 あなたの角は綺麗だわ。 それは認めるけど、あなたの赤毛の髪も素敵だし、それにミミン貴女も素敵だし大事だわ」

「ううぅ、おねぇさまぁー大好きですぅ〜」


 ペルセポネに絶好のチャンスと思い抱きつこうするミミンだが、手刀で弾かれるミミンは、額を手で押え痛がっている。

 そのミミンに話し掛けるペルセポネ。


「ミミン貴女だからなのよ。貴女のその角と赤毛があのアホエルフだったら、真っ先にぶっ殺してもぎ取っているわ」

「なんでよぉ!! あんたなんか私の大事な角奪わせないし、殺されないわよ」

「ちょっとみんな」

「ユカリは、どうなの?」

「リフィーナ、何が?」

「だから、もしミミンと同じ角が私とあの女ペルセポネに合ったら誰を選ぶの?」

「うーん。 フェルトごめん、意味わからない」

「ごめん、青銀の戦乙女のリーダーの私でも分からないわ」

「貴女のその小さいヤツの先にある二本の角は、誰が貰ってくれるんだろうね」

「ムッきぃぃっ!! 私はハイエルフなのよ。 私みたいな高貴の存在、その気になれば誰でも言い寄ってくるわ」

「はいはい、そんなに胸を張ってもダメだよ。 大きく見えながら」

「ムッきぃぃっ!!」


 顔を紅潮したまま、言い返せなくなり勢いよく腰掛けるリフィーナにユカリもフェルトもため息をつく。

 二日経ち、時折馬達を休め野営していた俺達は、ついに国境の街セレヌの姿が見えてくるが、御者が再びコベソを呼ぶ。


「見えてきました。 こっち側の街……いますね」

「やはり、アンデッド。 向こう側も既にだな」

「どうしますか?」

「迂回するか。 ちょっと面倒だが」


 前方に見えていたセレヌの街が、次第に馬車の左側へなり進路方向を変えていた。


「会頭、出てきました!!」

「何? さっきのマナラでは出てこんかったのにぃ。 何か光る物持ってないか? ありゃ……金属、武器だな……。 もしかしてスケルトン?」


 目を凝らし首を動かして遠くにいる人影を見ているコベソだが、その時ユカリもセレヌの街側を幌から頭をだして見ていた。

 ガシャガシャと金属音が遠くで鳴っているのがここまで届いていると、コベソが眉をひそめ告げると、一息ついてやれやれという顔をするリフィーナ。


「ユカリ嬢ちゃん達は戦えるか?」

「ふぅ、アンデッドでしょ。 戦えるには戦えるけどやはり……」

「コベソ、大丈夫よっ!!ねぇ」

「フェルトぉっ」

「リフィーナ、私達は勇者ユカリのパーティーなのよ魔物や魔族との戦いに拒否してどうする?」

「でも、アンデッドなのよ。 倒す事が出来ないじゃない!! ユカリかミミンの魔法出ないとダメじゃない!?」

「二人とも出るわよ」

「むーっ!! 二人行ってるよ」

「とにかく、魔王が、アンデッド率いているのなら早めに対策やら対処法を考えないと」

「フェルトなら何か考えているのね?」

「勿論……。 ってあっ……私の……」

「そうじゃん。 フェルト盾ないんじゃ」


 あたふたして焦りを見せるフェルトの顔が徐々に青ざめて行くのを見ていたコベソは、一息ついて腰を上げる。


「はぁ、そういえばクエンツの時もフェルトだけ何も持ってなかったな」

「コベソ、盾て大盾ある?」

「あるぞ、使え」


 幌の中、大盾が歩き出すかと思える程、コベソの全身隠れてしまう程の大盾が、フェルトに向かって前進しているように見える。


「コレは……」

「次、売り出そうとしていた大盾だ。 使って感想言えよ」


 その大盾、薄い銀色し少し輝きを放つ、縁が角度によって色が変わる。


「ありがとう。 リフィーナ行こう」

「やはりヒロックアクツ商事がスポンサーになって貰うのが一番だな」

「買えや!!」


 コベソの怒鳴り散らす声に後押しされてスケルトンの群れに向かうリフィーナとフェルト、そして既にむかっているユカリとミミンの姿が離れていく。


「ちょっと。 ハーデス何しているの?」

「何って、もしかして……」

「ミミンが死んだらどうするの?」


――――やはり、勇者のユカリでなく、龍角族ミミンの角だよなぁ。


「そうだよなぁ」

「そうなの。 兎に角行かなくちゃ」

「イヤイヤ、ペルセポネさん行かれちゃ、この馬車や俺達の護衛を!!」

「ん、あっそうだわ。 忘れてた……んで、ハーデスよろしくね」

「そう言うと思ったからな。そうしよう」


 笑顔で、ユカリたちの後を追うペルセポネは、俺から見ても軽い足取りだ。


――――絶対、ミミンの死亡を期待しているよなペルセポネ……。


 前衛にいるフェルトが、大盾を構えてスキル発動させ注意を引き付けている。

 後衛のミミンは、杖から火の魔法を放ち、そしてユカリとリフィーナが、スケルトンの体制を崩しながら破損させていた。

 トドメはユカリの攻撃よりもミミンの魔法が、主にやっているように見える。たが、それ以上に多い武器を片手に集まってくるスケルトン。

 ミミンの近くに立つペルセポネは、腕を組んでその戦いを見守っている。


「ハーデスさん、大丈夫ですかね」

「ユカリ達か? それとも……」

「ユカリ嬢ちゃん、勇者パーティーの事」

「大丈夫だろ。 俺もいるしペルセポネもいる。死者の扱いに長けている俺達だからな」

「ははは、そうですね。 そうでしたね……」


 幌に残るコベソとトンドにそれぞれの御者達は、俺と同じ方向へ視線を向けユカリ達の戦いを見守っている。

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