57話

 ブラックミノタウロスの皮膚の硬さに翻弄されるユカリとリフィーナ。


「ユカリの方がキズが深い」

「リフィーナの方がギズが長いし、多い」


 勇者でこの階層で推奨レベルより遥かに超えているユカリの方が、攻撃力が高いと言うことが照明される中、ハイエルフと言う種族であるリフィーナの技術力がユカリの攻撃力に近づき、ブラックミノタウロスを圧している。

 ブラックミノタウロスの体には無数の切傷があり、少しずつ流れ出る血。

 そして、ミノタウロスが振るう棍棒を受け止めるのでなく受け流す方を選んだ、大盾のフェルトもやはり技術でブラックミノタウロスに対応している。


「ユカリ、リフィーナこのまま、このままで慎重に焦らずじっくりと……」

「フェルト!! いけるわ」

「ミミン!! 私がやつの武器を払ったら隙が生まれる時に」

「分かった」


 ミノタウロスは両手で持つ棍棒を頭上に上げ、フェルトの大盾越しに地面に向け振り下ろす。渾身の一撃がフェルトの大盾に直撃し、ヒビ割れる。


「ぎゃっ!!」

「「「フェルト!!」」」


 ブラックミノタウロスは、棍棒を地面に打ち付け激しい音が響きと共に地面から棍棒を伝って衝撃が腕を通して全身痺れ固まっている。


「ユカリ! リフィーナ!」


 フェルトの掛け声で、二人は剣の柄を両手で持ち、何度も何度も身動きが取れないブラックミノタウロスへ斬撃を浴びせ、ミミンが魔法で追撃をする。


「ショックボルト!!」

「ヒートニードル!!」


 ミミンの杖から細い紫電がブラックミノタウロスを幾つも突き刺し、陽炎が揺らめく細線十数本が、ミノタウロスを貫通する。

 更に追い討ちをかけるユカリとリフィーナに合わせてミミンも魔法で攻撃し、フェルトはゆっくりとブラックミノタウロスから離れバックからポーションを取り出して回復に専念している。


 ガタッ!!


 片膝を着くブラックミノタウロスは、反撃すら出来ない程のユカリとリフィーナから数えきれない程の切傷を浴び、反撃すら出来ずにただ腕を下ろして、床を見つめている。

 ブラックミノタウロスの赤い目が発光する!!


「なに?」

「みんな離れてっ!!」

「ブッオォオオォォオオオォォォッ!!」


 天井に向け耳が痛くなる程の咆哮するブラックミノタウロス。その咆哮と共にブラックミノタウロスから威圧的な波動が、衝撃波となりユカリやリフィーナ達を吹き飛ばす。

 だが、ブラックミノタウロスよりもレベルが高いユカリと、近いリフィーナは踏ん張っていたのかその衝撃波から持ち堪えていた。


「ユカリ。 ここは、倒すしか無いわ」

「ええ、そうね」

「ブラックミノタウロスの角上手く取れたらラッキーなんだけど」

「あの角硬そうで……無理ね」

「ユカリでも、ムリなら私でもムリ。 諦めるしかないわ」


 立ち上がるブラックミノタウロスは、先程の咆哮でなのか衝撃波なのか分からないが、傷が塞がっていた。

 ブラックミノタウロスの左右にわかれて武器を構えるユカリとリフィーナを、見渡し睨んでいる。

そして、ブラックミノタウロスは、棍棒を両手で持ち替え、狙いを定め棍棒を何度も振り続けなからユカリを狙っている。


「こいつ、ユカリからの攻撃受けない為にぃっ!!」

「リフィーナ!! ヤツに少しでもダメージをっ」

「やってる。 堅っいのっ」

「魔法でバシバシ援護しちゃって」

「うぃっ」


 ミミンの魔法火弾を連射してブラックミノタウロスの体に当たってはいるが効いてないようで、リフィーナは、細身の剣で何度も素早く斬撃や刺突でブラックミノタウロスの背中や足に幾つも傷を付けているが、小さく浅い。


「ここは、剣で!!」


 フェルトは、ヒビ割れた大盾をブラックミノタウロスに向け投げ飛ばすが、棍棒によって更に破壊され砕け散ると、フェルトの手には幅広い剣を持ってブラックミノタウロスとユカリの間に走り出す。


「「フェルト!!」」


 攻撃を防ぐ為か剣を構えるフェルトの行動が、目に入り、血の気が引くリフィーナとミミン。そして自分の視界に入るブラックミノタウロスの振り下ろす棍棒を防ごうするフェルトに目を見開くユカリ。

 風を切る音を立てて振り下ろされる棍棒。

 それを幅広いが薄い剣で防ごうするフェルト。

ユカリ、リフィーナ、ミミン三人共にフェルトの死を確信し、その光景を視ないと目を閉じ、真っ暗中悲痛の叫び声が、この部屋に何重にも反響し合う。


「ブッオォッアォォッ!!」

「フェルト!!」

「フェルト……じゃない!?」

「今の……リフィーナ?」

「へっ? フェルト!!」


 フェルトは、尻餅付いて目を塞ぎ、ミミンもユカリもリフィーナ四人ともフェルトを中心にして目を塞いでいながら言葉で確認し合う。


「わっ……私は大丈夫だけど!! りリフィーナ、大丈夫?」

「えっ? えっ? 私、大丈夫だけど」


 フェルトとリフィーナの噛み合わない返答に、四人ゆっくりと目を開き、無事を確かめる。


「フェルト!! 大丈夫?」

「えぇ、ユカリ、ミミン。 大丈夫だけど!リフィーナが!!」

「た、確かにあの声。 ねぇユカリ!!」

「うん、リフィーナのっ」

「ねぇ……ねぇったら。 なんで私? フェルト大丈夫なの」


 フェルトの元にユカリとミミンが、肩を担いで立ち上がらせていると、青ざめた顔をするリフィーナが、駆け寄っている。


「私は、何故か大丈夫……。 でもリフィーナ何か何処か怪我したんじゃ?」

「だってあんな声出てたし」

「でも、なんともないけど……。 私の目じゃ分からない所怪我してるのかも?」


 フェルト、ミミンにユカリがリフィーナの体をまじまじと見ながら不安そうな顔で心配してくると、リフィーナが、ゆっくり手を前に出し手のひらをユカリ達に見せて、会話を止める。


「ちょっと、待って!! あの声どう見ても……」

「確かに!! この場所であんな声だしてたら変人だよ」

「そうだね。 それじゃぁあの声は?」

「ブラックミノタウロス?」


 肩を担いでいたフェルトを下ろし、ミミンとユカリはフェルトと共にブラックミノタウロスの姿を直視する。


「ぎっ!!」

「えっ?」


 仁王立ちしたブラックミノタウロスの頭が、床に転がり、悲痛な叫び声を上げていた顔をし、首の切断部分から噴水のように血が湧き出てブラックミノタウロスの体毛が赤く染まっていく。

 崩れ落ちていくブラックミノタウロスの体が、黒い煙となって消え、少し大きい魔石が、甲高い音を響かせて床に落ちた。

 消えたブラックミノタウロスの場所を唖然としながら見つめる四人の前に、剣をしまってペルセポネが落ちた魔石を拾って眉間にしわ寄せて魔石をじっくりと凝視する。


「なんで、くすんだ色なんだろう?」

「そ、それは……」

「待って!! その話は後で……その前に私の声について」


 顔が紅潮したリフィーナが、ペルセポネの会話を阻止して、フェルト達を睨んでいる。


「なんで、あのブッオォッア? って。 なんで私の声になるの? 攻撃されていたのフェルトだったのに?」


 三人が顔を見合せ、リフィーナの顔を視線を動かすと、リフィーナは眉をひそめる。


「だって、あの声確実にリフィーナだったし」

「私も、たまにだけどリフィーナあんな感じの声出るよ」

「私、あんな声出ないわよっ!! だって……」

「みんなと会って日が浅いけど、私も一回か二回聞いたよ」

「ユカリまで……。 だったらっ!! 何の時の声よっ?」


 足で地面を叩き体全体で激しく怒るリフィーナは、ふくれっ面で三人に怒りをぶつける。だが、その三人は、リフィーナの怒りを流すように平然と口揃えて伝える。


「「「鼾!!」」」

「あ、鼾?」

「そう、あんたの鼾。 たまに……あの、獣声になる」

「うん、うん。 本当に似てた」

「マジ……かよ……」


 フェルトは、気まづそうな顔をしながら答えると、隣にいるミミンが、大きく頷いている。

 二人の顔が本当の事を言っているのだと分かるリフィーナは、驚愕している。

 そこに歩み寄るペルセポネは、瞬きもせずに立ち尽くしているリフィーナに声かける。


「ねぇ、アホ牛イビキ。 突っ立ってないで」

「だァ〜れぇーがぁ!! アホ、牛、イビキだぁ」

「あんただよ。 アホェ……牛イビキ」

「牛イビキじゃないわ。 アホエルフよっ?」

「……」

「……」

「……」


 黙り込むペルセポネと、暫くして我に返るリフィーナ。


「ちがぁう!! ハイエルフッ。 アホじゃないっ。牛でもイビキでもない。ハイエルフっ!!」

「そんなのどっちでもいいわ。 それよりどうするの? 黒牛まともに倒せないみたいだし」

「ぐぬぬっ……」

「一旦地上に戻ります。 私の盾も無いし。 このまま引き返した方が懸命かと」


 ペルセポネを睨むリフィーナを無視しているペルセポネにフェルトが、方針を話し俺もゆっくりペルセポネ達の所に歩く。


「まぁ、それがいいわね」

「ところで、よくある地上に戻る転移する装置とかないのか?」

「転移?」

「あぁ! ビューんと地上に戻れるヤツ?」

「あぁ、それだ」

「うーん。 私は聞いた事ないなぁ」

「私も」


 フェルト達は考えていると、リフィーナがニヤつきながら答える。


「そんなもん無いわ。 確か無い」

「このまま逆戻りって事か……」

「そうね。 それしか無いわ」


 俺の言葉に、何故かリフィーナが満足気な顔を決めている所にペルセポネの一言。


「ここまで来たのにね。 やはり、アホ牛イビキってとこね」

「なんで!! アホ牛イビキ……って私の事じゃないからね」





 来た道を戻りながらユカリ達は、現れる魔物と戦い、同じ日数を掛けて地上にたどり着く。


「いやぁ、着いた着いたっ」

「早く風呂入りたいわっ」


 疲労困憊のユカリ達、リフィーナとミミンが力が籠ってない声で膝を曲げて体全体で息をしている。

 そして、まっすぐコベソやトンドがいる所に向かう途中、近くの冒険者ギルドの辺りがダンジョンに入る前とは全く違う様子で、慌ただしく人の出入りや怒鳴り声が飛び交っていた。

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