56話
焦げ茶色の背板のムカデ、ブラウンセンチピードを倒して二日経過したのだろう。
俺たちは、二十階層までたどり着いていた。
十の後半の階層から次第に人の姿が見えなくなり、この階層では俺たち以外見ていない。
十七から十九階層までは、炭鉱のような土壁に覆われた所に対しこの二十階層は、迷宮のような石壁で床も石畳になっている。
ここまで来て、気づいたがこのダンジョン松明等の照明を必要としないほど明るいのだ。
それすらペルセポネを始めユカリ達も気にしてない様子で、先に進む。
「ブラウンコボルト一匹倒した!!」
「後三匹!!」
ユカリ達は、連携を取りブラウンコボルトをスムーズに倒している。
次々に迫ってくる魔物も、倒して着実に力を付けているが、レベルが上がったのはリフィーナとフェルトにミミン。
ユカリのレベルが、リフィーナ達より高いのでレベルが上がって無いらしいが、これよりも更に下の階層に行けば上がるのだろう。だが、それをすればリフィーナ達の命に関わるから直ぐにはしないと見える。
「何か行き止まり?」
「いや、これ扉だな」
少し開けた場所に出ると、行く先が見えず目の前には、とぐろを巻いたデザインの高く大きい扉があり、それをリフィーナとフェルトが見渡している。
「何か気味悪い……」
「きゃぁ、おねぇさまぁ!! ……あっ痛でぇ」
扉を見たミミンが、怖がった素振りをしていが何故か笑顔でペルセポネに抱きつこうとする。
そこにペルセポネが、ミミンの額にデコピンしフラフラになっていた。
「ボス部屋だな」
「ボス?」
「この階層のヌシって奴ですか!!」
「そうだな。 それしかないっ」
「さっすがぁ!! ハーデスさん」
扉を眺めながら俺は、呟くとユカリが、ハッとした途端、何故かハキハキと答える。
「皆、ボス部屋いく?」
「ユカリ……このヌシって奴でしょ?」
「今まで居なかったのに。 なんでここで」
「ボス……部屋……。 強いんじゃない?」
開けるのを躊躇しているリフィーナ達。
「開けて先進むか! 引き返すかのどちらかだよ」
「今までブラウン系の魔物しか出てきて無いけど、ここでブラックやレッド……ましてやその上なんて出たら」
「もっとこの階で、力を付けて」
フェルトとリフィーナは、少し怯えた声でユカリに訴えかけ、ミミンは大人しく杖を握りしめている。
「ムリよ。 ……ここまで来てレベル上がったの私以外だけど、そこからここまで魔物を倒す度にレベルが、上がる気配無いわ。 ……みんなの」
「えっ?」
「勇者のスキルでパーティーメンバーの状況が、分かるの」
ユカリの言葉に息を飲み込むリフィーナ達に、更に続けてユカリは口にする。
「後、勇者のスキルで皆のレベルが上がってるから、この階層でやってたら上がらないわ」
黙るリフィーナ達を横に、ギィィィィと大きな扉が開く。
「何故!?」
「なんで、開いたんだ!!」
「ペルセポネっ!!」
「「「「えっ?」」」」
驚くリフィーナ達を置いて俺は急いで走り、扉を開けているペルセポネを制止するために腕を掴む。
扉の中の光が、こちらを照らし中が眩し過ぎて見えない。
「なっ! 何?」
「何って? まだ開けるか開けないかの話だが……」
「それは、ユカリ達の話で。 私は進みたいし何かありそうだから開けたんだけど?」
「そう……それは分かる。 ユカリ達の事よりも、俺も『ボスに挑戦』なんて憧れるからな」
「そうでしょ。 どんな魔物がいるのか楽しみだし」
「それを、言うならどんな魔石かだろ?」
――――あんな如何にもボス部屋です!!と言わんばかりの心踊らされる物を見て中に入りたいという衝動を抑えるのに必死だったのだ。
勇者のユカリの仲間リフィーナ達が失うのは痛手かもと考えいるからだ。もしかしら次回の魔王討伐をリフィーナ達含めた勇者パーティーが倒したらあの女の神エウラロノースが、現れるかもしれんしと思ってたけど。
「ハーデスさん! ペルセポネさん」
「私達が先に行ってるわ!!」
俺とペルセポネは、眩しい中ボス部屋へと足を運ぶ。後ろから四人の足音も聴こえ全員光に包まれた。
光が収まり、中の様子が伺える。
先程の所よりも更に広い、そして壁には演出なのか松明があり火を灯している。
そして俺たちの前に三匹の角が生え、足は蹄、手は五本指に片手には棍棒を持つ二足歩行の牛が立つ。
「ミノタウロス!!」
「しししかもっ! ブラックとレッド」
「ちょぉ、マジで」
真ん中に全身真っ黒の毛に覆われ赤く光る目のブラックミノタウロスが、少し腰を低くする。
顔が青ざめるフェルトとミミンは、ゆっくりと武器を構えユカリとリフィーナも、柄に手にかけて体制を整える。
「ブッオォォオォォォッ!!」
ブラックミノタウロスの咆哮にレッドミノタウロスの二匹も合わせて吠えると、この部屋の壁が揺れているように感じる。
俺とペルセポネは、間合いをとりユカリ達とミノタウロスの間に入り武器を取る。
「こいつらのドロップアイテムなんだろう」
「さぁー。 だがよくあるのは角だろう」
「そうだよね。 角もぎ取る?」
「ちょん切れば良いんじゃないか」
腕を回し、体を解しながらペルセポネは、俺に言ってくるが俺自身、ミノタウロスを見て心が弾む。
――――どんな攻撃をするんだろう。棍棒振り回すだけなら……
焦げ茶の毛が混ざる赤い毛と赤い肌をし筋骨隆々の肉体に、血走っているのすら分からない真っ赤な眼球のミノタウロスが、俺の前に仁王立ちをし口元からヨダレを垂らしている。
俺もハルバードを構え、腰を低く戦闘態勢にするとレッドミノタウロスは、首を動かし吠えてくる。
「ブッオオォオォォォッ!」
その吠える声が、ペルセポネ側のレッドミノタウロスからも聴こえ反響し、この部屋の空気が一瞬にして緊張が走る。
大盾を構えるフェルトの後ろに武器をとるリフィーナとユカリに、その後ろで集中するミミン。その四人の前にはブラックミノタウロスの口角が上がりニヤリと笑う。
ブラックミノタウロスは、持っている棍棒を掲げて振り下ろそうと身構える。
俺の前にいるレッドミノタウロスは、持っている棍棒を振り回し俺を狙っているが、全て交わす。
「ブッフォッ、ブッフォン、ブッフォ」
「おい、何もしないのか?」
「ブッフェ!!」
言葉が分かるのか……いや、俺がミノタウロスを見下した仕草で言ったからかもな。
レッドミノタウロスの真っ赤な目が俺を睨む。
だが、その時俺はハルバードを振るいミノタウロスの頭を掠める。
「ブッオッ、フォッ、フォォッ」
レッドミノタウロスは、口角が上がり、汚い笑い声を上げ始め、お腹を抑え上半身を小刻みに動かす。
コロン……コロン……。
転がり落ちるレッドミノタウロスの角。
転がり俺の足にぶつかるのをレッドミノタウロスは、目で追い笑い声が止まる。
「ブッブッブッオォォフォォッ」
俺は、角を拾い上げ空間収納にしまうと、レッドミノタウロスは怒り狂るい叫び出すと、棍棒を振るい俺に襲いかかるが、少しフラフラしているレッドミノタウロス。
俺のハルバードの穂先がレッドミノタウロスの胸の中央を貫き、そこから破裂し始めレッドミノタウロスの肉体と血が真っ赤な絨毯のように敷き詰められる。
そして、真っ赤な絨毯のようなレッドミノタウロスの死体が煙となって消え去る。
「ふぅ、なんにも無かったな」
コロンと落ちている少し大きな石をした魔石を拾い上げ、他の状況を眺める。
この部屋の中心にいるブラックミノタウロスとユカリ達を眺めるペルセポネは、剣を鞘に収め腕を組んで休んでいる。
ブラックミノタウロスの振り下ろす棍棒を、大盾で上手く受け流すフェルト。その隙を使いユカリとリフィーナの斬撃が、徐々にミノタウロスの体力を奪い、更にミミンの攻撃魔法で追い討ちを仕掛けている。
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