58話

 ダンジョンから出て休憩がてら俺達は、ヒロックアクツ商事の支店に向かう道中、支店の向かいにある冒険者ギルドの中から、慌ただしく駆け巡る声や人が見られる。

 すると、その光景が目に入った俺達は、その光景を眺めているが、そこにフェルトが冒険者ギルドにあゆみ進め中に入り、俺達も続けて中に入る。

 冒険者と見られる者達が、前に来たよりか多く、椅子に座ったりとかくつろいでいる反面、カウンター内で受付嬢達が、忙しそうに動いている。 そして、依頼書が貼られている壁の反対側には、依頼書が無くアテルレナスからカツオフィレにランドベルク、更にヒグマクスを載せた地図が大きく貼られている。

 受付嬢や冒険者から、張り詰めた空気がこの場に敷き詰められ、なにが起きているのか分からないユカリ達は、ただ呆然としている。

 そんな事すらきにせずに、俺とペルセポネはそのままカウンターに着きおっとりした受付嬢と目を合わせる。


「はいっ、何の要件ですか?」

「あ、あれだな。 査定してくれ。 ペルセポネ、アレを」

「これねっ」

「……!! ななな、なんですかっ!!」


 俺の言葉に頷くペルセポネが、腰のバックから取り出した百足の魔物から剥いだ焦げ茶色の連なった背板をカウンターに載っけると受付嬢が、驚き一瞬止まる。直ぐに周りの雑音で我に返る受付嬢は、深呼吸して落ち着きを戻す。


「見ればわかるでしょ?」

「分かりますが……普通。 これ一枚なんですけど。 連結しているのって初めてで」

「そうか、なら分けた方がいいのか?」


 ペルセポネが、重たそうに出した百足の背板に対して『普通じゃない』と文句を言ってきたもんだから受付嬢に対して睨んで問いかける。


「い、いえ。 このままで……ギルド長に確認してきます」

「いいご返事を……」

「なっなんなんですかっ!?」

「えっ? おねぇさまぁ。 これって」

「またぁ、貴女。 変な……こ、と……ってぇ!!」


 カウンターにいた俺とペルセポネの後ろにやってきたユカリ達は、カウンターの上に有る物を凝視し口を半開きにしていた。


「ブラウンセンチピードの背板よ。 それがどうしたの?」

「いやいや、普通これでしょ!! これっ」


 リフィーナが、バックから取り出した盾のような大きさの百足の背板。それを俺とペルセポネに見せて、鋭い目をして睨んでくる。


「だいたい、あんた達おかしいのよ。 おかしい」

「俺とペルセポネが、おかしいだと?」

「な、なによ。 だって私たちより高ランクだし!! 私たちランクBなのよっ。 わかる?」

「鼾で話しても分からないわ。 アホ牛イビキっ」

「キィーッ」

「ペルセポネさんがランクAなのは分かりますけど。それでもその背板は、ちょっと……」

「うーん。 フェルトが言うのなら、そうなのかもね。でも出してしまったのですからね」

「な、なんでフェルトの言葉で分かるのに!私の言葉じゃ」


 フェルトの言葉で、常識的な事を理解する俺とペルセポネ。ランクAでもここまでの物は取れないと言う事だとフェルトは言いたかったんだろう。

 ランクAだろうとBだろうと、百足の背板はリフィーナが持っている物が普通で、後は枚数ってとこらしい。

 そのリフィーナは、地団駄を踏んで俺達に怒り散らしていると、更に火に油を注ぐペルセポネと思いきや、ミミンがリフィーナの肩を叩き諭す。


「リフィーナ……おねぇさまは、リフィーナの言葉は、牛の鼾に聞こえるんだよ」

「なっ!! ミミンまで」

「あーん。 おねぇさまぁぁぁ……痛でだぁい」


 リフィーナの怒りから逃げるミミンは、ペルセポネに助けて貰おうと腕を広げ抱きつこうとするが、そこのペルセポネの手刀がミミンの額にヒットし、痛さで額を両手で抑えしゃがみこみ半べそをかいている。

 少し経つと、おっとりした受付嬢の後ろにギルド長がやってきて、ペルセポネが出した連結した百足の背板に顔を近づける。


「うむ……」

「ギルド長?」

「まぁ、十五枚……だな。 あの依頼書が、一枚のだから。 掛ける十五の金額になるが?」


 険しい顔をしたギルド長が、返事を求めて来たのでペルセポネは、即答で承諾をし金銭を受け取った。

 そのやり取りをしていた時に、横からフェルトがギルド長に訪ね、その会話が筒抜けなのだ。ギルド長もフェルトも声量を下げること無く、周りにいる者全員が聞こえてしまっているのは、気にしてないみたいだが。


「何かあったんですか? こんなに冒険者多いし」

「おぉ、そうだそうだ。 百足の背板と聞いて久しぶりに目にかかれるからやってきたのだが、すっかり忘れていた」

「トラブル?」

「うむ。 カツオフィレの軍が侵攻しているとな。 国から連絡がきたのだ」

「カツオフィレの……軍?」

「あぁ、ランドベルクに攻めたとか、なんとか。 聖女様の言葉だ。 確かなんだろう」

「えっ? ランドベルク」

「本当に?」


 ギルド長の言葉に驚くフェルトに続いて、勇者召喚であの地に着いて勇者となったユカリも、ミミンも驚きを隠せない。

 そんな会話の中、リフィーナが会話に割り込むと、ギルド長が理解し難い顔をして答える。


「カツオフィレが、人族と戦争するって事?」

「分からん。 聖女様、国からの通達だけだし、他の支部からの連絡も無いしなぁ」

「魔族への進軍なら分かるけど、対人族として進軍ならエウラロノース様が許さないと思うけど」

「さぁな。 あの国の考えていることなんて。遂に間違った方向に進んでしまったか……なんて思っちまう」


 ギルド長は、奥の部屋にいた男性職員に呼ばれその言葉を残し去っていく。

 俺達も、ギルドから離れヒロックアクツ商事の建物に向かう道中でさえ、悩ましい顔をするリフィーナとフェルトに、ユカリは、この戦争の事に付いて話し合いながらも堂々巡りの内容だ。


 そして、建物に入ると中に、頭を抱えてうずくまるコベソが、「あーっ」「うーっ」と痛そうな声を出している。

 すると、コベソは、俺達が戻って来たのを見るや直ぐに立ち上がり告げてくる。


「ランドベルク城が落ちた!!」


 コベソの言葉に俺とペルセポネは、平然としているがユカリ達は驚きを見せる。


「それじゃぁ、ランドベルクは既に?」

「まだ、ローフェンで抵抗しているらしい」

「王も聖女様もそこに」

「あぁ、いると。 だが、時間の問題だ!!」


 ユカリが不安な顔をしながらコベソの顔を直視していると、コベソは、しかめっ面になって答えるとリフィーナが、落ち着いて少し口角を上げで口を開く。


「あそこなら、冒険者なんてうじゃうじゃいるし、あの強硬な壁でカツオフィレの兵も疲弊しちゃうんじゃない?」

「籠城とか無理だ。 時間が経てば経つほど王や聖女の方が参ってしまう」

「なんでよ!! あんな大きい城塞都市だし、物資も充分にあるんじゃない?」

「うちの従業員……。 セレヌとクエンツもカツオフィレに占領され、そこにいた社員がローフェンに避難しているんだが……」


 眉間に力を入れ険しい顔をするコベソ。

 それを見つめるユカリ達四人。

 そして、コベソが口にする。


「攻めてきているカツオフィレの兵士は……」

「兵士は?」


「アンデッドだからだ!!」


 コベソの言葉に目をひん剥くほど驚くリフィーナとフェルトにミミン。ユカリは、理解してないみたいに呆然としているが、フェルト達やコベソを見て事の理解をしたようだ。


――――アンデッド……。死者の魔物の事だろうけど、その言葉に少しだけ胸が高鳴る俺だが。


 それでも、俺とペルセポネは、近くにあったん椅子に座って平然とした姿勢でくつろいでいた。

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