52話
日が開け俺たちを乗せた馬車は、ヒグマクスを南下し連なる山を越すため山間の道を通る。この道は舗装路だったと思えるほどガタガタした場所が少ないのだが、やはり石が出てたり削られていたりする。
そうして、数日経ってやっとアテルレナスに到着する。
ヒグマクスとの国境付近の山道で山賊の残党がいたが、ユカリ達の勇者パーティーの活躍で討伐したが、魔石持ちがいなかった為かペルセポネは、馬車から降りず、始末を殆ど俺がやっていた。
殆ど頭を潰し殺していたので、ユカリの目くじら立てた顔をして怒り狂っていたが、アンデッド化の話をフェルトとミミンがしたら、また大人しくなる。もちろん、武具の回収をしていたコベソとトンドは、回収し終わると満面の笑みをしていた。
そんな事がありながらの到着だが、やはりこの街は、他の街とは段違いに凄い。
街を守る外壁は、厚く高い。そして多くの建物が建ち並び、この街の中心に一つだけ高く聳える塔を構える城がある。街の中は活気のあるお店や出店と共に、歩行する人も冒険者らしき装備を纏った者から、一般の住人まで様々な人々が、石畳の綺麗で舗装された道を行き交う。
「遂に来たわね。 アテルレナス」
「やっとよ。 やっと……本当にやっとよ」
「カツオフィレが国境封鎖しなければ、あんな事には」
「そうね。 で、あんな事って何? リフィーナ」
「何言ってる。 私達がランクBの冒険者なのよ。それなのに私アホとか言われてたのよ」
「だって実際戦闘以外頭回らないし」
「ちょっと。 フェルトっ!!」
リフィーナ達の会話がこの幌の中で声が大きくなっていると思うが、この街のざわつきにリフィーナの声も圧されているみたいだ。
すると、ペルセポネがコベソに尋ねている。
「ねぇ、この馬車どこに向かう?」
「あぁ、あの高い塔の付近に俺達の支店があるんで、そこに向かってますよ」
「あの高い塔は、何かあるの?」
ペルセポネは、コベソやトンドに質問したら、自慢気な顔をして鼻を高くするような顔つきしてくるリフィーナ。
「ふっふ〜ん。 貴女知らないのぉ?」
「何よ、アホエルフ」
「なっ!! ふぅ……。 知りたかったら教えてあげるわよぉ。 ただし今後、私の事アホだとか言わなければ、お、し、え、て、あげるわっ」
「……」
「さぁ、どうなの?」
「そうね。 じゃ聞かないわ」
「っぅ!! 聞けよっ!! 秘密聞きたいでしょ?」
「いやいや、本当に良いわ。 アホから聴いたらアホになりそう」
「ちょっとぉアンタねぇ……。 ってアホじゃないからっ」
ツンとしているペルセポネの顔をジィーっと睨みつけるリフィーナの鼻がピクピク動いている。
それを見てたコベソが、ため息をつきながらユカリとフェルトに声を掛ける。
「フェルト。 ユカリ嬢ちゃん連れて、支店着いたらギルドに行ってくれ」
「えっ? あぁーそうだな」
納得するフェルトの顔を見て、不安な眼差しになるユカリにリフィーナが、ニヤニヤしながら聞かれてもないのに答えている。
「ユカリ、ギルドに行ってダンジョンに入る為の登録するのよ」
「登録?」
「ええ、登録しないと入れないのよ」
リフィーナは、チラチラとペルセポネの顔を見てはユカリに話すが、全く聞き耳すら立ててないペルセポネ。だが、俺は聞き耳立てているぞ。
色々な制約があるらしく、リフィーナの説明の後、フェルトがキチンと解説している。
その事を全く気にしないのがリフィーナ。
支店に着き乗っていた馬車を降りると、あの高い塔の近くで、ここから塔を見上げると空を突き抜けるぐらい高さだ。
このアテルレナスにあるヒロックアクツ商事の支店の建物も、今まで以上寄った支店よりも大きく数多くの商品の陳列され、格好からして冒険者と見える者達が多く出入りしている。
コベソとトンドは、一緒に来た従業員とこのアテルレナスの従業員と共に、荷物の搬入をしている所、俺は倉庫側から店の中に視線を留めているとコベソが気づく。
「ん? なんですか?」
「いや、繁盛していると思って」
「当たり前じゃないですか!! アッハッハッ」
その言葉を残し笑いながらも、従業員達に指示をし、程なくしてコベソは、ユカリのフェルトに声を掛ける。
「向かいの、ギルドに行ってこい」
「うん、そうする。 みんなギルド行こう」
「はーい」
「早速ダンジョン? それとも依頼見ちゃう?」
「リフィーナとユカリは勝手に見ない。 ユカリの登録済ませるのが先だからね」
フェルトの掛け声にミミンが手を挙げ、ユカリとリフィーナと共に外に出ていくと、ペルセポネも無言のまま、フェルト達の後に続いて出ようとする。
「おい、ペルセポネ」
一瞬、俺の声に耳を動かし振り向こうとしたが、何も無かったこのように外に出ていく。だが、俺はペルセポネの襟を捕まえ、取り押さえるとペルセポネは、足をじたばたさせて駄々をこね出す。
「行きたい行きたい行きたいっ!!」
「俺達の仕事はここまでだ。 ユカリをアテルレナスに連れてくことだ」
「それと、ダンジョンは関係ないじゃん」
「それにコベソ達の護衛もある。 何よりあの女の神が現れんし何処にいるかもわからん。 ダンジョンに入ったとしてあの女の神が現れないだろう」
「魔王倒せるのはユカリだけだし、ユカリと居れば会えるでしょ。 それに何かと楽しそうだし」
「それもそうだが、現れるとも言いきれんから、奴が何処にいるか、何処から来るのかコベソ達と共に各地回れば分かるかもしれん」
――――楽しいって本音漏れてるぞ。
「でも……」
「ペルセポネさぁーん行かないんですかぁ?」
「ひょっ!!」
ユカリが空いている扉から顔を出してペルセポネを呼んでいると、ドキッとしたペルセポネは、にんまりと、笑顔になり俺の手を振り払ってユカリの元に駆けていく。
「ハーデス!! 私、ダンジョン登録してくるわ」
真っ直ぐな笑顔で手を振るペルセポネに、怒る事も出来ずただ呆然としてしまった。
――――可愛いから、許そう。
そう思いながら少し顔が緩む俺。その俺の後ろからコベソとトンドが、不気味に笑顔で俺を見ている。
「ハーデスさん。 少しの期間このアテルレナスにいるし、得た武具を直して売らんと」
「ここ最近ポーションの売れが上がっててな。この機会逃せんのよ」
「という事でな、ダンジョン登録してドロップ品ゲット宜しくって依頼さ」
「二人とも、あの女の神エウラロノースの在処だけ分かればいい」
「少し経ったら聖国に足を伸ばす」
「聖国……か!」
「聖国は、神エウラロノースが初めて人族を誕生させた国。 そしてエウラロノースの住まいと言われている国と謳っている」
「住まい?」
「神が実際住んでいるわけ無いが、近いと噂もあるし何とも言えん」
エウラロノースの住まいなんぞどうでも良いが、コベソの言う通り居所が分かればこちらから出向いて話しを付けるのも良い。
そんな会話をしていると、トンドの言葉が入ってくる。
「まぁ、レベル上げ時期だし聖国行く時かそれまでに、もしかしたら第二の魔王が現れるかも知れないって」
「確かに、そんな予感もするな。 ハーデスさん、ペルセポネさんと共に、ユカリ嬢ちゃんのレベル上げに極力助けてやって欲しい」
「コベソの予感は当たるから、当たって欲しくない予感だ」
「わかった。 勇者であるユカリが、死んだらあの女の神に会うという機会が一つ無くなるしな」
「そうですな。 勇者召喚なんぞ無くなるのに越したことはない」
「勇者と魔王の争いも無くなるとな」
コベソとトンドは腕を組んでその言葉を吐くが、その言葉が重く感じながらも、俺は近くにある冒険者ギルドへと足を運ぶ。
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