51話
恰幅の良いギルド長の隣に受付嬢がいる席のカウンターにユカリ達が対面で依頼の話を進めている。
山賊討伐の依頼報酬や事の顛末を話しているのだろう。だが、そんな事より我妻のペルセポネが、壁に貼りだされた依頼書を遠目で睨むように壁全体を睨んでいる。
そして、ここ国ヒグマクス中心の街で、更にヒグマクスの王土だ。それゆえ街を囲む壁も分厚く見張りの兵が多いが、やはり物流が途切れていたせいか活気が弱くなっている印象の街なのは確かだ。
「」ここ冒険者ギルドはそれに違い活気がある冒険者達は、ペルセポネと同じように依頼書を見ては『これどーよ?』『この、魔物なら肉出来るし良いんじゃねぇ』と話している。
困惑した顔のペルセポネが、考え込みながら俺に近づいてくる。
「これ、殆ど依頼書じゃないわ」
「ん?」
ペルセポネの言葉に俺も壁に近づき貼りだされた依頼書を隅々まで見ると、貼りだされた依頼書のような物は魔物が確認された場所とかだ。
「例えば、これよ」
「何、ワイルドボアの群れを目撃」
「あと、これ」
「ブラウン……ブル? 茶色か」
「多分、褐色の牛を見たと言う、目撃情報の内容よ。 依頼書みたいな紙で貼ってて、本当に分かりづらい」
ペルセポネは、ため息をつきながら、食材になる魔物の目撃情報が貼り出されてあるだけの壁を眺めていたが、一つ依頼書が目に入る。
「なんだ依頼書あるじゃないか?」
「あーっ、それねっ。 見たわ。 でも残念、野菜運搬の護衛よ」
ペルセポネは、ガッカリし肩を落としながら、見落としがないか再度この壁を見渡している。俺もそれに付き合うがやはりペルセポネが好きそうな依頼すら全く見つからないが、一枚の依頼書をペルセポネが見つめている。
「それ、なんの依頼?」
「これ、東の村の調査だって」
「調査って何を?」
その依頼書をペルセポネが手にしているのを目に入ったのか受付嬢がゆっくりと近づき俺達に話しかけてくる。
「それは、前に魔族がやってきた時に襲われた村でまだ、魔族が居座ってないかの調査です」
「でも引っかかったのが、異界の樹海に逃げたと聞いたんだけど」
「そうなんですが、噂が……」
「なら、私達が、それ調査しに行きます!!」
受付嬢とペルセポネの会話に、ユカリが胸を張っている。
「私達が行くわっ!! ランクBの青銀の戦乙女は勇者ユカリのパーティーなんだからっ」
ユカリに続いてリフィーナも、胸を張って鼻を鳴らし威張り散らすが、その言葉を放った瞬間、二人の頭にゴンッ鳴る。ムスッとしかめっ面するフェルトの重い拳が二人の脳天に突き、二人は蹲る。
「たっくぅっ、なぁ〜にぃ、勝手に決めてる。 リフィーナだけならまだしもユカリまで!!」
「それは……」
「魔族絡みなのは分かるけど、これからの事考える。 そしてリフィーナっ!!」
「はいっ!!」
フェルトは、前のめりになり凄い剣幕でリフィーナに迫ると、当のリフィーナは、その顔に圧され背筋を張り姿勢が良くなる。
「ランクBとして自覚持つ!! ユカリも。 やるべき事は?」
「「アテルレナスに行って力をつける」」
「そうっ。 ならその依頼受けられないよね」
「で、でも魔族がもし居たら」
ユカリの言葉に止まるフェルトだが、後ろからミミンが覗き込むように顔をだす。
「居ないんじゃない。 居たらここまで攻めて来てるよ」
「どう言い切れる?」
「まぁ、魔族だから?」
ユカリとリフィーナは、ミミンから返させられた言葉に止まり、受付嬢もフェルトも無言になっていた所に俺が聞き直す。
「何故?」
「だって、魔族はそういう者だから。 侵略者って」
「へぇ、そうなんだ。 魔族は……」
「おねぇさま、そうなんですよぉ」
ペルセポネの返しにデレっとするミミン。そのミミンの言葉に止まっていた四人が納得する。
「と、言うことでこの依頼は無しで」
「受付すらしてないので、大丈夫ですよ」
ミミンの言葉で受けてもいない依頼が解決してしまった事は言うまでもない。
受付嬢によって剥がされてしまった依頼書をユカリは目を追うが俺達は、用のない冒険者ギルドを
出ようとした時に、走ってきて入り口の枠に突撃しそうな勢いで手を付き体を支える男性は、体全体で呼吸を整えている。
だが、リフィーナは、それがあたかも当たり前であるような感じで、問題発生とか心配とかすること無いみたいで。
「あの人、何処かで見た事ない?」
「うーん、見た事ありそう」
「確かに、あるような……無いような」
フェルトもミミンも、リフィーナ同様に悩み考えながら答えているとユカリが、その男性に近づく。
――――確かに見た事あるような……そんな男だな。
「だだ大丈夫ですか?」
「はぁはぁ……大丈夫です」
「何か、ありましたか? もしかして魔族が?」
「いえいえ!! 魔族なんて!?」
「それなら、巨大な魔物が?」
「いえいえ、そんなの出てたら……」
「じゃぁなんですかっ!! そんなに息切らして来ているんですよっ!!」
ユカリが目くじら立てて、走ってきた男性に怒って声を荒らげると、ギルド内に響く。
ギルド内の冒険者や、職員等がユカリの声に驚き二人に注目すると、息が整ったのか走ってきた男性は、ゆっくりと喋り出す。
「ギルドから出そうだった、じゃないですか?」
「出そう? 魔族?」
その男性は、俺とペルセポネの方に視線を動かす。
「会頭から、宿取ったのでと……。 案内します」
「あぁ、そんな事言ってたわね。 あの丸デブ」
「それを言うなペルセポネ。 あいつたまに運動しているんだぞ」
「そうらしいね。 食事量が多すぎるから意味無いと思うけどぉ」
俺とペルセポネは、ギルドを出て男性の案内でコベソが取った宿を目指す。
「良く間に合ったな」
「会頭が、急げと行ったので着いたら本当に出るところでしたよ。ハハハッ」
「ちょっと、私達の宿は?」
リフィーナが、ギルドから走りながら出てきて、走ってきた男性の肩を思いっきり掴む。走ってきた男性の目が飛び出そう顔と声が出ないぐらいの痛そうな口をしている。リフィーナの手が肩から離れると小刻みに呼吸をしている。
「ななななんですかっ!!」
「いや、私達のはとったの?」
「取ってますよ。 当たり前じゃないですか!!」
「それならそうと早く言ってよね」
「勇者様をアテルレナスまで送るのが、私達ヒロックアクツ商事の勤めですからっ。 パーティーである貴女達も客人として宿取ってますよ」
突っかかってきたリフィーナには何故か強気の男性を見て、フェルトは一言。
「カツオフィレに護衛で一緒にいた御者か!!」
「あーっ、ランドベルクからここまでも一緒だったよぉ」
ミミンも、思い出し音がしない程度に手を叩いていると、二人の言葉を耳にしリフィーナが、目をひん剥く程驚いてゆっくり一歩一歩後退する。
「本当に、全く顔すら忘れられているなんて、やはり会頭の言う通り。 リフィーナだけは適当にあしらうのが一番だな」
走ってきた男性はボソッ呟いて、宿に足を進める。
俺は、見た事あると思っていた男性を思い出す。
――――あー、思い出したぞ。商隊で先頭の馬車で御者をしていた男だったな。
俺は、分かっていたかのような顔をするペルセポネと共に、コベソが取った宿に向かい、その後に着いてくるユカリ達。
そして、ギルド前で起きた事に何か動きがあると思っていたコベソは、この場所に長い時間いるのは危険と思ったらしく早朝、俺たちはこのヒグマクス城下町を出発し、アテルレナスに向かった。
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