50話

 山賊討伐を無事に完了し、首謀者というか山賊の頭になっていた二人を連行。そして俺達は、この先のヒグマクス城下町に先を急ぐ。

 コベソとヒロックアクツ商事の従業員数名が馬車の荷台に載る簡易的な檻を造り、その中に二人を詰め込んでいる。

 俺達と違う馬車に載せられ、身動きすら取れず罵声を上げているようで、微かに聞こえるときがあるし、その馬車の御者は、二人自体無視しているようだ。

 先を進む中で二股のとんがり帽子を被ったミミンが、山の高台を指さし「弓兵……矢を放ってた奴らって」と言ってきたので気になったコベソの元、俺たちの馬車は、高台に進む。

 馬車で行けても凸凹道で、余程のことがない限り進まないと思いきや、その道は、馬車で乗り入れらるほど舗装されていて、簡単に高台に着く。


「いやぁ、こんな景色が見られるなんて」


 幌から体を乗り出し外の景色を眺めるリフィーナの言葉につられミミンもフェルトも隙間から見ている。


「あの森が、異界の樹海ね」

「向こうの空……赤いのは本当だったのね」

「魔族の住む世界の空は、赤いって」


 青銀の戦乙女の三人が、話している中にユカリも続いて外を眺めている。


「よし、着いたそうだ」


 コベソとトンドが、幌の膜を上げ外に出ると少しひんやりする冷たい風が俺たちの間を通り抜ける。


「これ、長居すると冷えるわね」

「で、弓部隊は?」

「なんなに、飛んでくる矢が多いんだから……」


 俺たちはこの高台を見渡しているが、俺が下で殺していた人数よりも転がっている遺体は断然少ない。


「おい、あれっ!!」


 倒れている遺体の脇に、弓の形状した物が転がっているのを拾ってその物体を隈無く見ているコベソに、その物体に興味を持つミミン。


「これ、連弩だな」

「レンド?」

「あぁ、連射出来る弓矢ってヤツだ」

「連射!!」

「それなら、私だって弓の扱い上手いわよ」

「この取っ手を押す、そして引っ張っると矢が出るってヤツだ」

「これなら、誰でも簡単に矢を放てる」

「あぁ、自慢する必要も無いしな」

「キィーッ!!」


 連弩の扱いをフェルトやミミンに見せていたコベソの言葉に、リフィーナはふくれっ面になっている。


「これ、回収するぞっ」

「コベソ、こいつらどうするんだ?」

「ハーデスさん。 また、お願い出来ますか?」


 俺は、無言のまま首を縦に降り、再びハルバードを持ち転がる山賊の頭に穂先を向け突き刺す。


「ちょっ!!ハーデスさん何をっ!?」

「何って、確実に殺しているんだが?」

「こここここ殺しているって!!」

「こいつらは、死ぬ運命なんだ。 ここで苦しむより楽にしてやるのが俺たちの務めではないか?」

「いやいや、ここは助けるべきじゃ」


 ユカリが、青ざめた顔で俺に説得をしてくるが、俺の腕は動かし、次の転がる山賊へ足を運ぶ。

 それに着いてくるユカリは、腕を拡げ更に説得をする。


「殺してはダメです」

「いや、もう既に死んでいるのかもしれんだろ」

「死んでいても、顔をぐちゃぐちゃにするなんて……少し」


 それでも俺は続けて山賊の頭を潰すが、言葉をかけるユカリの肩をポンっと叩くフェルトが、やって来て振り返る。


「ユカリ。 確かに異常だけど……」

「多分、これアンデッド化させないためかも」

「アンデッド?」

「まぁ、ゾンビやグール。 異界の樹海に近いから魔族の世界から流れてくる、オーラ? エネルギー? 魔素? そんなのが死体に影響しアンデッド化になっちゃうとか」

「ゾンビやグールの弱点は頭と言うし、その為かも」

「……」


 フェルトとミミンが、ユカリを説得をするとそれを信じているユカリ。


――――それ、本当か? 面倒事が上手く収まれば良いんが。 まぁ、ユカリ本人は、勇者として人族を守るべき存在なのだから、そう発言するのは分かるけど、まぁ正直真面目過ぎてめんどくさい。


 コベソとトンドは、連弩と弓部隊の装備品を回収し「終わった、乗ってくれ」と合図をだし俺達を乗せた馬車は、たわいも無い会話をするフェルトとミミンそしてユカリ、少しだけ怒りの沸点が低いリフィーナと共に俺たちは、そのまま先を進む。


 

 数日経ち、大きな街を囲む高い壁が見え、入門しそのまま馬車で冒険者ギルドに直行すると、御者がコベソを呼ぶ。


「会頭……あれ」

「なんだ? なんだぁ、あれは」


 多くの人が群がる中心には、三十名ほどの兵士とその真ん中に着飾った貴族らしい者が数名、冒険者ギルドの前に立ちはだかる。

 馬車を止め相手方の動向を探る為待ち構えていると、向こうから、歩み寄ってくるおかっぱ頭にちょび髭、そして面長の貴族らしい男がやってくる。


「この国の貴族か?」

「そうみたいだな」


 一斉に馬車の周りを取り囲む兵士は、手に持っている槍の穂先を向けてくるが、俺達が乗る馬車の後ろまで来た面長の貴族男が、軽く手を挙げる。


「武器を下ろせ!!」

「全員下ろせ」


 一人兵士長の様な男が、大声を発すると全員槍の石突を地面に付け、姿勢を真っ直ぐにすると面長の貴族男が、街の建造物に反響する程の拍手を一拍おこなう。


「ようこそ、おいで下さいました勇者様!!」


 その言葉に少し驚いているユカリ。コベソもトンドも状況を確認しようと外を眺めていると、リフィーナとフェルトも一緒に外を見だした。


「えっ? なっんで知っている?」

「冒険者ギルド同士のあれ。 お互いに連絡とったりできる魔法とかじゃない」

「そんなのあるの?」

「噂ですよ。 聞いても答えてくれないんですけどね」

「私、出てみます」


 ユカリは、すうっと立ち上がり幌から出ようとすると、再び面長の貴族男の声がする。


「山賊討伐の件で、我が王は勇者様に支援を求めていたのだっ!!」


 ユカリが馬車からハシゴを下ろし外に出ると、更に続けて面長の貴族男の声。


「この国の流通を止め、民に苦しい思いをさせていた山賊をっ!! さらに魔族の力を得てこの国に混乱を招いた山賊を倒すために……」


 ユカリが、このヒグマクス城下町の地面に足を着くと面長の貴族達の歓喜に震え上がる。


「おぉ、黒髪のっ!! 勇者よっ。 良くぞ我が王の願いを聞き遂行してくれた」

「はぁ?」


 困る顔をするユカリの顔で、馬車から降りるリフィーナ達も、この状況を見渡していると、冒険者ギルドの中から大声を上げ恰幅の良い一人の男性と多数の冒険者らしき格好の者たちが出てくる。


「おいおい、ギルドの前で何しているんだっ?」

「いやいや、冒険者ギルド長!!」

「貴様かっ」


 ギルド長と呼ばれた恰幅の良い男は、面長の貴族男に睨みをきかせると、笑顔を絶やさない面長の貴族男を守るためか兵士が槍を持ち替えギルド長に穂先を向ける。


「槍を下ろせっ」

「総員、下ろせっ」


 面長の貴族男の声に続いて兵士長の声で、兵士達は再び槍の石突を地面に付ける。


「ふん、お前の言葉……いや、それよりもここの兵士達、真新しい槍や防具で如何にも山賊討伐に向かったとか、そう言う形跡が見えないなぁ!!」

「えぇいっ。 兵にも家族がある。 山賊討伐なら出兵するが、今回は魔族の力を得た山賊だっ!! 無駄な犠牲を失わない為と、確実に魔族と同等の力を持つ山賊討伐に勇者様の力を求めたのだっ」


――――『魔族の力を得た』から『魔族と同等』に変わったぞっ。


「なにが魔族の力を得ただっ!! そんな報告こっちには来てないし。 勇者様が山賊討伐に着手したのは、我が冒険者ギルドに足を運んで依頼を受けたからだ」

「その依頼。 我が王のだろっ!!」

「ふぅ、王の依頼なんぞ一度も受けてないわっ!!その依頼は冒険者ギルドからの依頼だっ」


 野次馬をしているこの街の住民に知れ渡る程の大声を上げる恰幅の良い冒険者ギルド長の声に、たじろぐ面長の貴族男だが、歯を食いしばって睨ん見合っていた。

 そこに、ユカリの一言が入る。


「あの〜」

「なんだっ!! ……って勇者様」

「なんなんですか。 貴方達は?」

「私達は……」

「そいつらはっ!! 国民が苦しがっていても贅沢三昧していた貴族様さっ。 魔族少数が攻めてきても兵1人も出さず、義勇の冒険者達を当て馬にしたり、村に救援すら行かないし。 山賊でて物流が止まっても国民から搾取したりした奴らさ」

「きっ貴様っ!! 我と我ら王を侮辱する気かっ!! 貴様だってその腹ァッ」

「ここは冒険者ギルドだっ。魔物の肉なんぞ普通に入る。 それを現在この街に卸しているのはウチだぞっ。 近隣の農村から奪っている奴らと違うし、腹は関係ないっ!!」


 恰幅の良いギルド長の言葉に反応し怒号を上げる野次馬の民衆。兵士達も凛とした態度から少しずつ肩を萎み周囲を見回し出すと、面長の貴族男は、更にたじろいでいる。


「そそそそそぅ、勇者様。 奴らは山賊の奴らをコチラに引渡しを」

「おおいっ」


 急にゴマをするかのような手の動きでユカリに申し受けする面長の貴族男の言葉に、焦る恰幅の良いギルド長だが、それを無視して面長の貴族男は続けてユカリに懇願している。


「国の罪人なのです」

「でも……」

「すまぬが貴殿の申し受けには応えられぬ」

「貴様なんぞに聞いてないっ。 私は勇者様に聞いているのだっ!!」

「勇者は確かにこの子だけど、このパーティーのリーダーは私が預かっているの」

「だから何だっ!! 貴様がどこの馬のリーダーか知らんが。私は、勇者様の言葉しか聞かん」

「ど、どこの馬の骨……」

「にゃにぃぃおぅっ」


 珍しく黙っていたリフィーナが、怒りを抑えられなくなったのかとうとう口を開くが、面長の貴族様の言葉にしかめっ面したミミンが咄嗟にリフィーナの口と動きを抱き締めるように抑える。


「渡しません。 あの者たちは、冒険者ギルドで依頼を完了報告する為、渡せません」

「元冒険者なのだっ!! 渡せばギルド、奴らは解放し再びっ!!」

「それを、したら今度は貴方達が討伐をしてください。 国が民を守るそれが神エウラロノース様の教えでしょう」

「ぐっ。 えぇいっ。 ここは引くぞ」

「お前ら、戻るぞ」

「はいっ」


 面長の貴族男は、顔を紅潮し怒りをぶつけるかのように、豪華な装飾の馬車に乗り出し、三十名ほどの兵を連れて城の方へ向かって行った。


「いやぁ、良かった良かった。勇者様」

「貴方は、ここの?」

「ええ、さぁ中に。 山賊の奴らは?」


 フェルトが、恰幅の良いギルド長に説明し、ギルド長の指示で動く職員が山賊二人禿げ面男とスキンヘッド男を連れていき、ユカリに続いて三人ギルドの中に。馬車に残った俺とペルセポネにコベソとトンドは顔を見合わせる。


「面倒事は見ているのに限るわ。 あのアホも耐えてたわね」

「リフィーナは、直ぐに入りたがるがトラブルメーカーだしな。 フェルトがリーダーになってたなんてな」

「俺とトンドは、これからこの街の宿、探してきます」

「宿?」

「ええ、なんせここにはウチの支店が無いもので」


 俺が聞き返すとコベソは、疲労困憊ながら笑って答える。


「その間、この冒険者ギルドで!!」

「おい。 ペルセポネ」

「ハーデスさん、直ぐに見つかると思うんで、使いの者そこに、寄越しますよ」

「あぁ、分かった」


 既に冒険者ギルドに入っていったペルセポネを確認して、コベソ達の馬車が出発するのを目にし俺は、冒険者ギルドに足を運んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る