閑話
勇者ユカリが、魔王バスダトを倒しランドベルク王と謁見する日。ユカリ達を乗せた馬車は、ランドベルク城から出立しヒグマクスを通りアテルレナスに向かう進路だ。
カツオフィレが急に何の声明も出さず国境を封鎖してしまった事が、原因である。
その進路の中、ランドベルク城下町でやつれた男が一人ゆっくりと、時折靴底を擦りながら歩いているのをペルセポネは、移動している馬車の中なから見ていたが、さほど気にもならなく、何も言わずに、馬車はそのまま進んでいく。
靴底を擦る男は、髪が乱れ目には酷い隈が出来ているが、服装は誰もがしる神官が良くしている服装。
その男は、街中を目立たないよう歩いているが、しばらくして近道なのか路地裏に入る。
「よう、あんちゃん!!」
「なんだぁ? 神官の野郎かぁ」
「まぁ、大人しく有り金出せば命だけは見逃してやらんでもないなぁ」
汚れたシャツとハーフパンツを履いた三人のゴロツキが、持っている棒を振りまわして、その男に金銭をたかっている。
「そそそそそそそそそそそんんなぁぁぁ、がぁねぇばぁねぇええぇ!!」
「お、おいっ!なんだぁ、こいつぅ」
「ここ怖い声、出したって俺達は、ビビらねぇぞぉ」
神官の服を着た男は、喉の奥から発する低い声にゴロツキ三人は、少し後退りし喉を鳴らす。
「良いかぁ、金ださねぇってんなら殺すぞっ!!」
「ごろぉっずぅうぅ?」
神官の服を着た男の影が、ゴロツキの元に伸びる。それを見ていたゴロツキが慌てて、離れるように後退りし、神官の服を着た男から離れていく。
「なななっなんなんだよぉ!!」
「魔法使いかぁっ!! 神官だからチョロいっ……」
「うぎゃぁぁぁぁああぁぁっ」
細く黒い棘が、神官の服を着た男の影から飛び出しゴロツキ三人の額を一瞬にして貫く。突き刺さったまま傷口から血が、した垂れていくとゴロツキの目が白目に変わる。
白目のゴロツキ三人は、口を半開きのまま棘が抜かれそのまま、地面に倒れ起き上がる素振りもなく地面に平伏している状態。
「おぉお前ら、入れ」
神官の男の影が、波打つ動きをした途端、ゴロツキ三人開いた額から一部入っていく。
「あ。あぁ」
「ごごにございまずぅ」
「門を占拠しろっ」
変な言葉を発しながら三人のゴロツキは、立ち上がると頷き、神官の男から離れていく。
神官の男は、その場から歩き今、貴族の屋敷の目の前に立ち中の様子を見詰めている。
「こここここれはっ!! さぁ入ってください」
この屋敷の執事と見える初老の男性が、急ぎ足で門を開け、神官の男を招き入れる。
豪華な装飾品が並び綺麗なカーテンがそよぐ、この部屋で神官の男の周りにメイドや先程の執事、そして華やかなドレスを纏っている母親が涙を流す。
「あぁ、クラフ〜よく無事で。 王から聞いたわ。カツオフィレで」
「お、お母様。 その話ですが」
「今は休んで。 こんなに服も汚れて。 夜お父様が戻って食事の時に話して」
泣きじゃくる母親に、少し困り顔をしている神官の男クラフは、着替えて夜を迎える。
「おお、クラフ。 生きておったとは父は嬉しいぞ」
「ありがとうございます。お父様」
「こっちこそ生きてくれてありがとうなのよ」
「そうだ。 家族みんな嬉しがっているんだ」
長いダイニングテーブルに多くの料理が並び、それを囲むようにクラフの父と母に兄が二人座っている。
「そうだクラフ」
「なんだい? お兄様」
「俺とこいつは魔王軍と戦ったんだ」
「あぁ、その後勇者が現れたんだが、勝ったんだぞ!!」
熱が入るクラフの兄二人だが!クラフ自体疑問に思って眉間を寄せる。
「疑っているなぁ?」
「まぁ、よせ二人共」
「「はい、お父様」」
「ところでクラフ。 よくカツオフィレから戻って来れたな?」
「ギリギリ国境封鎖される前に来れました」
「いや、勇者とヒロックアクツ商事のヤツの言葉だとお前、寝返ったそうじゃないか?」
「……」
「どうなんだ?」
「寝返ったのは私達では無い!! 勇者だ」
「そ……それはっ!」
「カツオフィレが攻めてたのは事実。 それを先導した勇者。 だが、思わぬ問題に侵攻を辞めたのも事実だ。父さん」
「ぬぬっ。 確かに魔王が現れてしまえば……」
「そうだ。 確かに聖女様の言葉でカツオフィレに
俺達も向かうところだったな」
「あぁ」
悩む父親に、後押しする二人の兄、そしてクリフが更に言葉を付け加えてる。
「ランドベルクの王も聖女もグルだ」
「こ、これ滅多な事言うものでは」
「お母様、黙ってこれはっ事実なんだ」
「クリフ話しを」
「あぁ、カツオフィレの騎士団……軍事力は高い。 ランドベルクでは長期戦になればなるほど疲弊する」
「俺たちがいる」
「お前たちは黙ってろ」
「「はい」」
「そこで勇者先導しランドベルクの王一族、聖女以外の貴族を滅ぼし、カツオフィレと新たなランドベルクの国を作り上げる……それが共謀している話さ」
「貴族って私達の事も……」
「あぁ、そうだよお母様。 王は『勇者にこの国の貴族が堕落腐敗している』と、だから勇者はカツオフィレに向かったんだ」
「まさか」
「クリフが、あんな姿になってこれを言ってくるって事は……」
椅子に座るクリフの影から黒い靄が家族全員屋敷総勢包まれる。
「なっ」
「クリフっ!!」
父親と一番上の兄は、黒い靄に抗って藻掻いているが、母親と二番目の兄は既に飲み込まれ既に顔色が青白く目に光が失われ、直ぐに父親と一番上の兄も同様になる。
「クックックッ。 口実なんてどうでもいいのだ。お前ら体裁を整えつつ他の貴族共を取り入れろ」
「「「「ハッ」」」」
この屋敷にいる者全て生気のない顔をしては居るものの普段通りの行動をしている。
クリフはそのまま椅子に座ったまま、家族を見渡し深くため息をつくと、大笑いをし始めた。
「アッハッハッハッハッ。 こいつらぁ滑稽だなぁ。 もう、既にこいつクリフなんていないんだよォ!! 見た目だけがこいつだがなぁ……」
そおっとクリフが、立ち上がりそのまま部屋を出ていく。
「明日にはこの国、ランドベルクを我が主、魔王様に捧げる事が出来る。 国王と聖女がどう出るか楽しみだなぁ。 聖女を捉えたら元の俺ぇ。 気持ちよくさせてやるよぉ。 カツオフィレと同じになぁ。アッハッハッハッ!!」
屋敷の光は消え、その中に溶け込むクリフ。
そして、次の日になる警鐘と陣を取る武装をした貴族とその兵は、城門を取り囲んでいる。
だが、ここにいる貴族と兵は生気を失っていると誰もが分かる顔をしていた。
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